第四十七話 不穏な空気
授業が終わり、三人で勉強会をするために、僕の家へと向かった。
学校を出てから家に着くまでの道中、事あるごとに立花さんと朱里が小競り合いを始めてしまい、その度に仲裁に入っていたため、僕はほとほと疲れ果てていた。
小競り合いの理由?どちらが先に校門をくぐったとか⋯⋯コンビニでお菓子の取り合いをしたりとか⋯⋯身長の高さとか、睫毛の長さとか⋯⋯争いの種を見つける天才なのか?って思えるくらい些細な事で喧嘩を始める。
最初のうちは、またしょうもない理由で始めたよ、と嘲笑しながら見守っていたのだが、必ず最後には殴り合い寸前のところまでいくので、僕は二人の間に割って入ってそれを止める。
これを繰り返しながら、ようやく家に辿り着いたのだが⋯⋯
僕が玄関の鍵を開けた瞬間、立花さんと朱里が揉み合いながら、我先にと家の中に入っていく。
「「お邪魔しま〜す!」」の開口一番が家中に響き渡ると、奥の部屋から「いらっしゃ〜い」と母さんの声が返ってくる。
僕は、「ただいま⋯⋯」そう呟いて、玄関先に倒れ込んだ。
「蒼ちゃんいらっしゃい」と母さんが、『パタパタ』と玄関先まで出迎えると、「お、おば様⋯⋯お久しぶりです⋯⋯」と朱里が視線を落とし挨拶をする。
「ん?朱里?」母さんは、瞬きのない真っ直ぐな瞳で朱里を見て、動きを止めた。
その奇妙な光景を目の当たりにした立花さんが、何かを察したかのように「お義母さん、こんにちは」と明朗な声で挨拶をする。
その挨拶で我に返ったのか?「蒼ちゃん、こんにちは」といつもより低いトーンで挨拶をして、二人分の来客用スリッパを出すと、「汚い家だけど、どうぞ」と言って、二人を向かい入れた。
さてと⋯⋯玄関に一人取り残された僕は、なんとか体を起こして座り込み、自分の片膝に頬杖をついて、遠い昔の記憶を呼び起こしていた。
母さんの、朱里に対する態度が明らかにおかしい⋯⋯いくら記憶を辿ろうとも、あの事件以来、朱里は一度も家に来ていない。
僕の知らない所で、母さんと朱里に何かあったのだろうか?そんな事を考えてると、「二階堂く〜ん、勉強!」と立花さんに呼ばれて、僕はとりあえず自分の部屋に向かうことにした。
部屋の扉を開けると、もう準備万端?テーブルの上には、山のようなお菓子と、漫画本が積み重なっていて、立花さんは胡座をかいて、お菓子を頬張り、朱里は僕のベッドの上で仰向けになりながら漫画本を読んでいた。
「二人とも、何をしてるんですか⋯⋯?」
「菓子パ」
「読書」
そう言って、二人同時に僕を見上げた。「なるほど、なるほど⋯⋯今日はなんのために僕の家に来たんでしたっけ?」と僕が尋ねると。
二人は顔を見合わせて、『コテッ』と頭に拳を当てた。その姿を見た僕は、素早くお菓子を買い物袋に投げ入れ、漫画本を棚に戻して、「勉強です」と一言いって、テーブルの前に座った。
『コンコンコンッ』の音で振り返ると、母さんが「冷たいものどうぞ」と言って、テーブルの上に麦茶を置いてくれた。
「「ありがとうございます!」」と二人が同時に御礼を言って、テーブルを囲んだ。
⋯⋯⋯⋯?右から立花さん、僕、朱里、母さん?少し疑問に思って「母さん何かあった?」と尋ねると。
「少しだけ朱里借りていい?」と母さんが呟き、朱里を一瞥する。
「朱里が良ければ、僕は構わないけど?」と言って朱里に視線を移すと、小さく頷いて『スッ』と立ち上がった。
本当に、母さんと朱里の間に何があったんだろう?そう考えながら二人が部屋を出て行くのを見送った。
「じゃ、立花さん勉強しましょうか?」と言って、僕は歴史の参考書を出して、立花さんを見ると、え?重い表情を浮かべながら、僕を見ていた。
「た、立花さん、どうかしたんですか?」と身を乗り出して、尋ねると。
「トイレ⋯⋯二階堂くんトイレ行きたい!!」そう言って、立花さんは立ち上がって、部屋を出て行った。
「い、いっトイレ⋯⋯」僕はボソッと呟き、顔が熱くなるのを感じて、俯きながら歴史の参考書を捲る振りをした⋯⋯




