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第四十二話 レベル上げしよ

 『ユー・ガット・メール』その着信音で僕は我に返った。ここは誰?僕はどこ?いや違う、ここはどこ!僕は誰が正解だ。


 まだ意識が朦朧もうろうとする。左を見れば立花さんがいて、右を見れば朱里がいた。


 僕は両手で自分の頬を『パァンッ』と一度叩き脳を覚醒させる。「二階堂大丈夫か?」と先生に尋ねられ僕は「大丈夫です」と答えた。


 どれくらいの間、僕は放心状態でいたのだろうか?少しずつではあるけど記憶が蘇ってくる。朱里が転校してきて、二階堂さんと一悶着あって⋯⋯僕が元凶!?


 全て思い出した!!


 あ、そう言えば携帯が鳴ってたような?そう思い出して、僕は携帯を鞄から取り出して、確認する。


 『二階堂くん、放課後レベル上げに付き合いなさい』と立花さんからメールが届いていた。レベル上げとは?都内のどこかにダンジョンでも出現したのだろうか?


 それなら、携帯食料を準備して、万全の状態で行かなくちゃ⋯⋯そう思ってメールを返信した。『行きません』


 その瞬間『ダンッ』と大きな音が響き、左に視線を移すと。屈託の無い笑顔の立花さんが、米噛みに青筋を立て、携帯を目にも止まらない速さで操作しながらこちらを見ていた。


 『ユー・ガット・メール』僕は恐る恐る携帯を確認する。『拒否権なんてあると思ってるの?』そのメールを見た瞬間諦めた。


 僕は素早く携帯を操作して『横暴です!でもレベル上げに行きます』と返信した。


 立花さんは、僕にサムズアップして、何事も無かったように正面に向き直った。僕は視線を机に落として、そもそもレベル上げってなにするの?と疑問符を浮かべる。


 普通のGAMEなら、モンスターを倒して経験値を稼いでレベルを上げるだろうけど、LOVE♡GAMEに関しては全くそれに当てはめられない。恋愛経験値はコミニケーションを取らないと稼げない⋯⋯

 

 てことは、立花さんは僕と何かしらのコミニケーションを取ろうとするはずなんだけど⋯⋯だめだ、全然わからない。


 いくら考えても皆目見当がつかない僕は、考える事を放棄し頬杖をついて、窓の外を眺めた。先程まで明るい表情を浮かべていた空が、今にも泣き出しそうな表情に変わっている。


 まるで僕の心境みたいだなって思い、ついつい苦笑を浮かべてしまった。


 ────全ての授業が終わって、いざレベル上げへと思ったのだが、やっぱり降ってきた。


 僕は先に教室をあとにして、昇降口で外靴に履き替えると、雨の当たらない場所で立花さんを待っていた。これからお約束イベントが発生するなんて露知らず⋯⋯


 「にっかいどうく〜ん、お待たせって、あちゃ〜、やっぱり降ってきちゃったか〜」


 「ですね〜、僕は基本折り畳み傘を鞄にいれてるから大丈夫ですが、立花さんありますか?」と尋ねると、なぜか満面の笑みを浮かべて「ん〜〜傘ない」と言って僕に歩み寄ってきた。


 なぜ近寄ってくる?僕はそれを不思議に思いながら、先生に傘を借りに行くかそれとも、僕がコンビニまで買いに行くか悩んでいると。


 「入れなさい⋯⋯」と立花さんが、か細い声で呟く。「入れる?何に何をですか?」と訊き返すと。


 「私をその傘に入れなさい⋯⋯」と今度はハッキリと聞き取れる声で、僕の持っていた傘を指さした。


 僕はようやくここで理解した。つまり、僕の傘は私の物、私の物は私の物ってことか。


 僕は持っていた傘を立花さんに手渡し、肩を窄め、踵を返して渋々職員室へと向かった。


 「ちょっとまてぇーい!」その声で振り返ると『ムッ』とした表情の立花さんが仁王立ちしていた。僕は何がなんだか分からなくて、困惑の表情を浮かべながら「どうしました?」と尋ねると。


 「違うでしょ」

 

 「何がですか?」


 「全てが⋯⋯」と言って立花さんが俯いてしまった。全くもってわからん、僕はそう思って「立花さん、ハッキリ何が違うか言って下さい!」と伝えると。


 「い、一緒に入って行けばいいじゃない!?」そう言って、手に持っていた鞄を投げつけてきた。


 僕はそれをうまくキャッチした所で、ようやく全ての点と点が線で繋がった。『立花さんは相合傘がしたいんだ』と。


 それならそうと言って下さいよ、なんて口が裂けても言えず、僕は投げられた鞄を持ち直して、立花さんの元へと向かった⋯⋯


 ん?あれ?唐突に立花さんの鞄に違和感を感じ、手を入れて、その感じた違和感を取り出してみる。


 「あっ⋯⋯」と言って、立花さんが目を見開く。「た、立花さん、こ、これ、傘ですよね?」僕はそれを手に持ち、そのまま立花さんへと突き出す。


 「ち、違うわよ」いやそれは流石に無理があると思って、更に問い質す。


 「じゃこれはなんですか?」と僕が尋ねると「ミ、ミニテントよ⋯⋯」と立花さんが答えた。


 う、嘘が壊滅的に下手すぎる。僕はこれ以上問い質すのはやめようと決めて、ミニテント(折り畳み傘)を閉まいながら、立花さんの側にゆっくりと歩いていき、手を差し出した。


 立花さんは何も言わず、僕の手に傘を乗せてくれたので、僕はそのまま昇降口を一歩踏み出して、傘を広げた。


 そして一言「立花さん⋯⋯」と言って、傘を少しうえに上げると。「ん」と立花さんが言って『タッタッタ』と駆け寄ってくる音が聞こえた。


 肩がぶつかり、立花さんに視線を向けると、耳を真っ赤にしながら、満面の笑みを浮かべている。


 は、恥ずかしい⋯⋯けど、立花さんが喜んでくれたなら⋯⋯ま、いっか。 


 少し緊張した面持ちで正面に向き直り「立花さん行きましょうか?」と尋ねると一言。


 「ん」と返ってきた。


 僕達は肩を寄せ合い、同時に一歩踏み出し校舎をあとにした。


 てかレベル上げって、どこに行くのと考えながら。


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