三十九話 恋人!?
で、今に至るのだが⋯⋯決して鶏のモノマネを見せるために呼び出したわけじゃない。
緊張が極限に達したせいで、うまく口が回らないだけだ。そう思って立花さんに視線を向けると、眉を八の字にして、少し切なそうな瞳で微笑を浮かべている。
その顔はなに?なにかを待ち焦がれているような表情であってるのか?僕は、イマイチ読み取れない立花さんの表情に、一瞬戸惑いを見せるものの、頭を左右に『ブンブン』と振り仕切り直して、もう一度ゆっくりと言葉を綴った。
「た、立花さん⋯⋯」
「うん」
「僕とこ、こ、こ、恋人⋯⋯」
「うん」
「前提に友達になって下さい!」
「は⋯⋯はーーーーっ!?」立花さんの、悲鳴にも似た声と同時に『バタッ』っと数人が倒れた音が聞こえた気がする。
念の為、辺りを見渡したけどやっぱり人の気配は感じない『ニャ、ニャ〜⋯⋯』なんだ猫か、僕は胸を撫で下ろして、立花さんに視線を戻すと。
震えていた。体全体を『ワナワナ』と震わせながら⋯⋯立花さんが俯いていた顔を上げると、明らかにわかる作り笑いで、米噛みに青筋を立て口の端を『ヒクヒク』させている。
「あ、あの〜、立花さん?」僕は恐る恐る声をかけると。
「ねぇ〜二階堂くん、私達って既に友達、よ、ね?」
「え、あ?そうだったんですか?すいません、友達の概念とかわからなくて⋯⋯」
「強化系だか、放出系だかわからないけど⋯⋯」
「いやそれは念違いです」
そう伝えた瞬間、立花さんの顔が鬼の形相へと変わっていく。口が裂けても君は変化系ですねとは言えなかった。「に〜か〜い〜ど〜く〜ん?」
迷うことなく僕は、逃げの一択を選び走り出した。
体育館から校庭に繋がる階段を駆け下り、素早く後ろを確認する。鬼の形相をした立花さんがすぐそこまで近付いていた。殺される。
そう思って、校庭を二周、三周と一心不乱に走り終わった時に、あることに気付いた。僕何か悪いことした?
「立花さん、僕何か気に障ることしましたか」息を切らし、走りながら叫ぶ。
「したから、こうなってるんでしょうが」僕のほぼ真後ろから声が聞こえる。
「全く身に覚えがありません、教えて下さい」
「わかれよ!」
「横暴です」
そう言い終わったのと同時に、足が何かに絡まり転倒してしまった。一瞬目の前が真っ暗になったと思ったら、立花さんが僕の両腕を掴み馬乗りになる。「立花さん、何に怒っているのか教えて下さい」
そう尋ねると「だって私達、友達じゃない。なんでもない他人が、一緒に勉強したり、ご飯食べたりしないでしょ?」
馬乗りになった立花さんは、息を切らし、悔しそうな表情で僕を睨む。怒っていた理由はそれか!?僕はその理由がわかり、立花さんを宥めるように、優しくゆっくりと言葉を紡いだ。
「立花さん聞いて下さい」
「なによ」
「僕が言った言葉を思い出してください」
「だ、か、らなによ!」
「恋人前提にと言いました。これは友達以上恋人未満をさし、恋人では無いにしろ友達以上の意味をさします。だから、友達は友達でもただの友達ではありません。特別な友達って意味です」
そこまで伝えると、立花さんは顔を『ニターッ』と綻ばせ、立ち上がると「クーックックッ」と高笑いを始めた。
「ま、二階堂くんがそれを望むなら⋯⋯仕方ないなぁー、その提案に乗った」
僕はやけに嬉しそうな立花さんをよそ目に、立ち上がり制服に付いた砂埃を払って、向き直り両腕を掴んで「じゃー、友達になってくれるってことでいいんですよね?」と尋ねると。
立花さんは頬を少し赤く染めて「お、おう」と言って快諾してくれた。
僕は小学生以来、初めてできた友達に喜び、告白が成功した安堵から、立花さんに「ありがとうございます」と会釈をして踵を返してその場をあとにした。
もうすぐ五月も終わり、ジメジメとした梅雨の時期の六月にはいる。雨が続くと、どうしても気分が落ち込みがちになってしまうけど⋯⋯
「ちょ⋯⋯なに勝手に締めくくろうとしてんの?今すっごく良い雰囲気だったのに、校庭に女の子を置いてけぼりって、どういうこと?」
「え、あー、これから何か用事ありましたっけ?」僕がそう尋ねると。
「特に無いけど⋯⋯じゃなくて、用事が無くても、特別な友達なら一緒に帰るくらい普通じゃないかしら?」
僕は普通がわからない、そう思い首を傾げて素っ頓狂な表情を浮かべながら「そういうものですかね?」と尋ねる。
立花さんが「そういうものよ」と言って駆け寄ってきた。苦し紛れに言った、友達以上恋人未満。これがこれからとんでもない波乱を巻き起こすなんて、この時の僕には知る由もなかった。
『テレテレッテッテッテー』
あ、ホログラムディスプレイの存在⋯⋯完全に忘れてた。




