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三十七話 LOVE♡GAME

 「うちのここには、あの時から⋯⋯違うそれよりもずっとずーっと前からここに景がいるんだよ」朱里が、双丘の間に両手を押し当て立ち上がると、目を潤ませ僕に何かを懇願してくる。初めて見る朱里の姿に少し困惑していると。


 「景⋯⋯今までも、これから先もずっとずーっと好きです⋯⋯うちと付き合って下さい」


 一瞬の静寂が教室を包み込んだ。僕は朱里の打算的で腹黒な性格が苦手だ、でもそんな雰囲気を微塵も感じさせない朱里の真っ直ぐな告白。今ようやくわかった、何故教室って場所を選んだのかも⋯⋯僕はそれに真摯に向き合おうと心に決めて口を開いた。


 「付き合えないよ⋯⋯」


 「なんで?どうして?うちの事嫌い?それとも蒼の事が好きなの?」


 朱里が両手を大きく広げ、紅眼を潤ませながら僕を問い質す。


 「立花さんは関係ないよ、僕が朱里に告白したあと、クラスの男子と朱里が話している時に聞いちゃったんだよ、僕にけしかけた真実を⋯⋯」


 それを聞いた瞬間、朱里は視線を床に落とし席に着く。


 「今になって考えてもやっぱり理解できない、朱里は至高の瞬間を感じたいだけのために僕を孤立させたの?それって僕のこと好きだったの?あれから何回も何回も考えたよ⋯⋯やっぱり僕にはわからなかった」


 僕がそう伝え終わると、朱里は体を震わせ腕を組み、高笑いし始めた。


 「なーんだ、やっぱりバレてたんだ、おかしいと思ってたんだよね、うちが隙を狙って近付いても絶妙なタイミングで避けてくし、あからさまに雰囲気が変わっていくし、景あれ気付いててわざとやってたんだよね?」


 朱里の性格をわかってはいたつもりだけど、目の当たりにすると流石にくるものがある。


 「わざとやってたわけじゃないよ、真実を知ったあと、人と関わるのが怖くなって、話すことすらうまくできなくなって⋯⋯そしたらさ、なんか全部どうでも良くなっちゃたんだよね」


 「うちのせいだよね?⋯⋯本当に後悔してる、だから、やり直したくて学校の教室を選んだんだよ」


 朱里の表情を見て、嘘をついてないのはわかる、けれどそれを信じられない僕がいる。


 「朱里⋯⋯ごめん⋯⋯後悔させるようなことしちゃって⋯⋯」僕は咄嗟に目を拭った。


 「待って、なんで景が泣くの!?うちが全部悪いんだよ⋯⋯全部、全部うちが⋯⋯」


 紅眼から一筋の涙が頬を伝う「全部朱里が悪いわけじゃない、これは僕が自分で選んだ道だから、でも正直キツかったな」


 僕は涙を流したまま顔を破顔させた。毎日のように灰色の世界を、人との関わりを全て絶って殻に閉じこもって歩いてきた道。結局誰が悪いわけでもなく僕自身が選んだ道だったから⋯⋯でも今は⋯⋯違う。


 「どうしたの景?なんで泣きながらずっと笑ってるの?」

 

 物思いにふけっている所、朱里に声をかけられて、我に返った。

 

 「朱里⋯⋯僕を好きになってくれてありがとう、そしてごめん、やっぱり付き合えない」


 そうキッパリ答えると、朱里は少し悔しげな表情を浮かべたものの、何かに気付いたのか顔を緩めて、ゆっくり口を開いた。


 「その顔、真剣に告白をした女の子を振る顔かよ」口を尖らせて、そっぽを向く朱里に僕は、後頭部を『ポリポリ』と掻きながら尋ねてみる。「僕どんな顔してた?」


 「こんな時に、何か思い出したように泣きながら笑ってたよ、その理由をうちには知る権利あると思うけど?今日だけで二回も振られてるわけだし⋯⋯」


 二回振ったつもりはない、そう思って困惑の表情を浮かべたものの、真剣に向き合うと決めた僕は、朱里を一瞥して恐る恐る口を開く。


 「間違いなく桜並木でぶつかった事がきっかけだったと思う。それから毎日のように、彼女は僕の横に並んで歩いてくれてさ、正直鬱陶しく感じる事の方が多かった、けど今は、少し心地良さを感じられる時があるんだよね」


 「彼女って、蒼だよね」


 「うん、まじ大変だったんだよ!いきなり髪切りに行こうとか、コンタクト買いに行こうとか⋯⋯勉強会やるよ⋯⋯とか⋯⋯すっごい強引だった、けど殻に閉じ籠もり、真っ暗な景色を毎日歩いていた僕を、救い出し色を付けてくれたのは間違いなく立花さんだった」


 それを聞いた朱里は、急に立ち上がり「景、そんな顔で笑えるようになったんだね⋯⋯」と呟き、窓から空を眺めると、先程まで青かった空が鈍色へと表情を変えているのが見えた。


 「蒼の存在は完全に誤算だったなー」


 「誤算てなに?」


 「景を救い出すその役目は、うちがやる予定だったってこと」


 朱里は振り返り僕を見ると、悲痛な表情を浮かべ目に涙を浮かべる。


 「蒼のこと大事?」


 僕は首を傾げて「うーん?そこは自分でもよく分かってないと思う。ただ、立花さんにお願いされたことで、僕にやれることはやってあげたいと思う」


 「わかった、わかった、もうわかりましたー」


 朱里が少し投げ槍に、言葉を発すると『でもね』と言って話を続けた。


 「諦めないから、今更景を諦めるなんてできないから、一からやり直す、ううん、うちらのLOVE♡GAMEは始まったばっかりだから」


 僕は小さく頷き、朱里を見上げた。鈍色の空の合間を縫って、一筋の陽が僕と朱里を照らしだすと、昔から抱えていた靄が嘘のように晴れていく気がした。


 「じゃ、うちは先に帰るね」


 朱里はそう言って、僕の横を足早に通り過ぎる。教室に一人残された僕は、掌で顔を覆って天を仰ぐ。


 絶対は無いし、何かが確定された未来もないと思う。でも今日僕は、今まで止まっていた時間を、一歩踏み出すことが出来たような気がする。


 『ふうーっ』と深い溜め息をついて、ホログラムディスプレイに視線を移す。


 そう、僕は気付いていなかったんだ。横に居て貰えることが当たり前じゃなくて、その大切なものを失ってしまう可能性だってあるってことを。


 覚悟を決めて、腕を伸ばし、震える指先でスキル一覧をタッチすると、目の前に覚えられるスキル一覧が浮かび上がった。


 僕は一点を凝視し『ゴクリ』と喉を鳴らして、スキル【告白】を取得した⋯⋯⋯⋯

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