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選択肢の見える世界で俺は今日も無難な答えを探している  作者: 筑前 煮太朗
エンドロールは流れ始める
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11-3. 約束 誠実な生徒会長と


 体育館のガランとした空間は、夏になってもなんだか冷たく感じる。足を踏み入れ、蒸されるような感覚の中に居ても、この場所はいつだって、やはり寒々としている。


 1学期の終わりを告げる式が始まり、集まった生徒達は朝会の時とは違う雰囲気を醸し出す。これが終われば夏休みという今にも踊り出したいソワソワとした感情的な精神と、それでも静かにしていなければならないという理性的な矛盾した感情が、彼ら彼女らを独特のもどかしさに導いている。


 そんな生徒達を前にしても、一切浮き足立つ様子がないのが、我らが生徒会長、雨衣絢愛である。


 壇上の演台に立ち、微笑を浮かべ一礼すると、彼女はほんの短い、まばたき1つ分の時間、静寂を楽しむ。

 上に立つものの余裕とは、こういう所から溢れ出てくるのだなと、俺は少し感心していた。


 「こほん。みなさん、こんにちは。生徒会長の雨衣絢愛です」


 咳払いで皆の注目を集め、絢愛先輩はスピーチを始める。


 「1年生は初めての1学期が終わり、2年生は2回目の1学期が終わり、私たち3年生は最後の1学期が終わりました。私がみなさんの前に立つのも、残り僅かとなり、こうしてみなさんのお顔が見れなくなると思うと、寂しい思いです。夏休みに入りますが、事故や体調には気をつけて、また2学期、元気にお会いしましょう」


 生徒達から拍手を送られながら降壇すると、絢愛先輩はホッと胸を撫で下ろした。


 その後は先生方の有難い注意事項が続き、もどかしさで一杯だった生徒達の感情は余りの退屈さに霧散。いつもと変わらぬ気怠そうな空気だけが、体育館を出るまで残った。




 「もう帰ってしまったかと思いました」

 最後のHRが終わり、教室を出た俺は校内をそこそこ彷徨い(さまよい)、渡り廊下から中庭を見下ろすと、漸く(ようやく)絢愛先輩を見つけた。


 「すみません!探して下さっているとは露知らず」

 俺が一方的に探していたから知るはずがないのだが、絢愛先輩はペコリと小さな頭を下げる。それにしてもまだ帰ってなくて良かった。


 絢愛先輩は中庭の木陰のベンチに1人座り、なにかぼんやりと考え事をしているようだった。


 「スピーチお疲れ様でした」

 俺は隣に腰を下ろし、自販機で買った小さなペットボトルのレモンティーを手渡す。


 「あ、ありがとうございます!すみません……」

 彼女は両手でそれを受け取ると蓋を開け、あ、開け、開けられなかった。


 「開けますね」

 「ごめんなさい……」

 

 蓋が開けられたレモンティーをまたも小さな両手で受け取ると、それをゴクゴクと飲む。

 なんだか子犬を見ているようだ。微笑ましい気持ちになる。


 「こんなところでなにをしてたんですか?暑いのに」

 俺は冷たい緑茶を飲みながら、絢愛先輩に率直に聞く。


 「特に理由はないんですが、もう夏の間にここに座ることはないんだと思ったらつい」

 彼女はその少女らしい顔にちらりと大人の表情を見せ、少し寂しそうにそう呟いた。


 「なんで私を探してたんですか?」

 彼女は一転して子供らしい表情に変わり、なにか期待するような、いじわるするような目をこちらに向ける。


 「前に、今度は2人で出かけようって話、まだ生きてますよね?」

 俺はもしかして忘れられているんじゃないかと、内心ビクビクしながら絢愛先輩と目を合わす。


 「うん!もちろん!覚えててくれてたんだ!」

忘れられてると思ったよと言葉を続け、彼女はわざとらしくホッと一息付くと、軽やかにふふふと嬉しそうな笑みを溢した。


 「それで、受験勉強の邪魔にならなければ、夏休み中に出かけないかなと……」

 夏期講習とかもあるだろうし、真面目な絢愛先輩の勉強の邪魔はしたくないと思っている。


 どうでしょうと絢愛先輩を見ると、それはもう嬉しそうに首を縦に振ってくれていた。心なしかぶんぶんしている尻尾まで見える。気がする。


 「行きましょう行きましょう!2人で!」

 彼女は2()()()を強調し、手をパンと優しく鳴らすと、そのまま組み、少し申し訳なさそうな顔になる。


 本当コロコロ表情変わるなあこの人。一喜一憂喜怒哀楽、天然というか隠すことをしないというか。ここまで曝け出せるのは、なんというか美徳だなと思いながら、俺は彼女を眺める。


 「本当は私の方から連絡しようと思ってたんです」

 なにか悪いと思っているのか、顔には影が差し、どんどんションボリとしていってしまう。


 「でも!」

 彼女は背筋をピンと元に戻し、真面目な顔になる。


 「とっても嬉しいです!」

 彼女は白い歯を覗かせ、満面の笑みをこちらに向ける。


 生温い風が吹いて、彼女の甘い匂いと夏の匂いが混ざり合う。


 こんな時こそ、時が止まればいいのに。と思いながら、俺はこの一瞬の思い出を永遠にする。


 2人はどちらともなく立ち上がり、体育館で鳴るバスケットボールの音を聞きながら、夏休みに向かってゆっくりと、歩き出すのだった。






 約束 誠実な生徒会長と。

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