婚約発表
フィリア王女とダリク皇子の婚約は単なる政略結婚以上の意味を会場に集まっていた他国の来賓達に衝撃を与えていた。
クシャマハール帝国と言えば東の海を挟んだ大陸の盟主であり、海上交易で発展している言わば海軍立国である。
アトレイス公国はあまり影響は無いがホワイトクラウン王国等は陸軍国であり、海上交通にはそれほど力を注いでいない。
魔法に秀でたローランド王国と海に秀でたクシャマハール帝国の結び付きは、魔王軍が力を失った後の世界の覇権を握ろうとしていたホワイトクラウン王国にとって明確な障害となる事は明白だった。
ローランド王国の第一王女とクシャマハール帝国の第一皇子の婚約ともなればその結び付きは強固なものになると思われる。
フィリア王女はガートルード王女の姉というだけあり、普通に清楚なお姫様と言った感じでお相手のダリク皇子も肌が浅黒い切れ長の目のイケメンであり、見た目だけならお似合いのカップルであると言えた。
「フィリア王女様、ダリク皇子様! 御婚約おめでとうございます!」
「素敵! おめでとうございます!」
ーパチパチパチパチ!ー
会場は二つの国の若い二人の行く末と世界の発展を願う声で熱狂と興奮に包まれていった。そんな会場に
「す、ずみません。ただいま到着しました〜……」
青いドレスに身を包んだエリスフィーナが着替えを終えてガルドリック達の近くにやってきていた。
遅れて到着しただけに彼女は沸き立つ晩餐会場の理由がいまいちピンと来ていない。
「なんだか……凄い盛り上がってますね……」
拍手と歓声が鳴りやまない会場にエリスフィーナはただ圧倒されていた。
「エリス、そのままで聞いてくれ」
周りの様子を覗っていたガルドリックが身を屈めてエリスフィーナの耳元に語り掛ける。
「今の君から見て十時の方向だ。白い服装の列席者達が見えるだろう?」
ガルドリックに言われ横目で確認するエリスフィーナの視界の端に確かに白っぽい服装の団体がそこに居る。
「あ、あの……その人達が何か……?」
「連中はホワイトクラウン王国の者達だ、
君には辛いかもしれないが……彼等の話し声が聞こえるなら出来るだけ聞き取ってくれないか?」
ホワイトクラウン王国の人間と言えば数日前にエリスフィーナを捕まえようとしてきたアレックス王子やマリアリアの悪意が記憶に新しい人々だ。
彼等に酷い目に遭わされた記憶が脳裏に蘇り、エリスフィーナが不安そうな表情を覗かせる。
「駄目ならいい。無理はしないでくれ」
エリスフィーナの様子にガルドリックは彼女に無理強いさせまいとするが
「い、いえ……大丈夫です。重要な事……なんですよね?」
今、彼等がここに来ている理由……また、彼等の狙いが自分達に向けられているのか確認しておく必要がある。エリスフィーナは不安を押し殺しながら彼等の動静を探ろうとするのだった。
ローランド王国の晩餐会に出席していたアレックス王子達だが、その思惑は外れ初めていた。
頃合いを見てキリヤ王子が魔王を討ち取ったと大々的に宣言するつもりで居たのだが、周りがすっかりお祝いムード一色となってしまい今更宣言したところで『なんだコイツ?』と思われて終わりとなってしまうだけなのは目に見えていた。
「お前の女神様は何と言ってるんだ? わざわざこんな外国くんだりまで来てやったんだぞ」
自身に注目を集められるものと考えていたアレックス王子は隣に居るマリアリアに確認するが
「女神様は今はその時ではないと仰られています。今は機会を覗うべきかと」
白いドレス姿のマリアリアはホワイトクラウン王国の国威高揚はどうでもよかった。彼女の目的はガルドリックを王国へ連れ帰る事なのだから。
女神アルダト・リリーからの神託で彼がこの晩餐会に出席しているのは予め知っている。
後は女神様が彼と話し合う機会を作ってくれる事は確定済みだった。今のマリアリアはただその時が来るのを待つだけで彼女の願いは成就されるはずなのだ……。
マリアリアは協力者であるアレックス王子を嗜めながらその時を待つのだった。
(…………)
マリアリアとアレックス王子のやり取りに聞き耳を立てていたエリスフィーナだったが、収穫らしい収穫は何も得られなかった。精々、彼女等の関心が今の自分達に向けられている様子が無いという事だった。
「ガルドリックさん、ごめんなさい。今はこちらを気に掛けている様子はありませんでした……」
エリスフィーナは今現在分かっている事をガルドリックに報告する。流石に人並み外れた聴力があるとは言ってもその思惑まで知る事は出来ない。
「……そうか。ありがとう。だが、連中は何をしてくるか分からない。エリスも十分気を付けてくれ」
報告を聞いたガルドリックは済まなそうに長い道を垂れ下げているエリスフィーナに笑いかけながら肩をポンポンと叩く。
その時、会場には魔導具の明かりが戻りワイングラスを盆に載せた給仕が列席者達にグラスを提供し始めるのだった。




