晩餐会
勇者が仕事を請けると分かったガートルードは安堵した様で
「ああ、良かった。本当にありがとうございます! それでは皆様、早速お召し替えを……」
ガートルード王女の声に侍女達が反応し、ガルドリック達四人をそれぞれ着替えさせるために別室へと連れ出し始める。
「え、あ……あの!」
四人の中で最もテンパったのはエリスフィーナである。自分が何をされるのか不安な小動物の様な仕草のまま連れ去られていった。
改めて着替えが終わり、客間にて一堂に会したガルドリック達は
「プークスクス! 似合わな〜! 何アンタの格好! 結婚詐欺師?」
メルティローズの爆笑から始まっていた。彼女が見るメガネのクレスは貴族の年配男性が着用する様な黒のジャケットに金の縁取りが装飾されたものを着せられチェーンが付いたモノクルへの変更を強いられていた。髪はオールバックに後ろに流され首の辺りで一纏めに結ばれている。賢者クレスの姿はすっかり鳴りを潜め、糸目優男の貴族もどきがそこに居るだけでしかなくなっていた。
「そんなにおかしいか?」
そう話すガルドリックの格好は軍人用の儀礼用であり、階級章や装飾品がさっぱり見られない小ざっぱりとした衣装になっている。装飾こそないものの、彼の衣装は西洋の戦列歩兵が着用していた色彩が派手な衣装となっている。
一方のメルティーローズは赤のタイトなドレスであり、色彩だけなら普段と変わらず、皆の中では一番違和感が無い衣装となっている。長く赤い髪も結い上げられていていつもの印象からはまるで違っていた。
「それでは皆様、晩餐会場に参りましょう」
エリスフィーナがまだ来ていないがガートルードはガルドリック達に会場へ一緒に行くように促してきた。
「あ、エリィがまだなんだけど……」
メルティーローズがその事について口にするが……
「エリスフィーナさんは衣装選びに時間が掛かってしまっていて……後から侍女がお連れしますので……先に会場に行きます」
少し申し訳なさそうなガートルードの様子にメルティーローズはメイド達に玩具にされているエリスフィーナの苦労を察するのだった。
「それでは会の始まりまでこちらでご歓談下さい」
ガートルード王女に案内されたガルドリック達は晩餐会場のテーブルの一つに案内されていた。
そこは、王家の人々が座る席に程近い場所であり、見ず知らずの集団であればまず配置されない上座の様なVIP席である。
よくよく見れば周りには異国の王族らしい一団もテーブルを囲んでおり、ローランド王国やアトレイス公国、ホワイトクラウン王国とはまるで違う文化圏からも来賓として招かれている様だ。言うなれば砂漠の王国からやってきたアラブの石油王の団体様の様な集団である。
それ以外には……アトレイス公国からの来賓の姿も見える。どうやらローランド王国が属しているこの大陸の名だたる名士は根こそぎ集められていると言った印象だった。
(まさか……)
ガルドリックはこの晩餐会がそこまで世界中のお偉方が集まるものだとは考えていなかったが、こうまで集まっていると言う事は……ガルドリックの嫌な予感は当たってしまった。
ホワイトクラウン王国からも来賓としてアレックス王子と聖女マリアリアを筆頭とする集団の姿が見えた。
幸いな事に向こうはこちらに気付いていない様だが、長身のガルドリックなだけに気付かれてしまうのも時間の問題だろう。
(エリスはまだか……? 彼女には伝えておかないと……)
エリスフィーナは以前アレックス王子達に襲われている。知らずに彼らと鉢合わせさせてしまう愚は出来れば避けたい。
彼女の到着はまだかとガルドリックが落ち着かない様子を見せていると
ーフッ……ー
晩餐会場の魔導具の明かりが消され辺りは真っ暗になってしまった。しかし
ーパアッー
ざわめく会場の注目を一点に集める様に魔導具の明かりがスポットライトの様に灯され、ローランド王家のテーブル付近が暗闇に浮かび上がる形になった。
「ご来場の皆様、本日はお忙しい中お集まり頂きまして誠にありがとうございます!」
会場全体によく通る声で挨拶を始めたのは頭に王冠を載せた四十代位の立派な髭を生やした中年男性だ。
「本日は我が姉妹、フィリア第一王女とガートルード第二王女のローランド王立魔法学院への入学をお伝えする場として設けさせて頂きました! それに関連して皆様にご報告させて頂きたい事がございます!」
王女姉妹の学校への入学等、国内ではビッグニュースであるかもしれないが、わざわざ他国の重鎮を集めて大々的に宣言する程の内容では無い。だからこそ、ガルドリックも半ば気楽に構えていたのだが……どうやら本題は全く違う話である様だ。
「我が娘、フィリア第一王女と本日遥か海の向こう東の大陸よりお越し頂いたクシャマハール帝国のダリク・ファハド・クシャマハール第一皇子殿との婚約を宣言させて頂きます!」
ローランド国王の発表は晩餐会場を一気に騒然とさせるには十分だった。




