対ワイバーン戦
「なぁなぁ、一体どんな感じだったんだ? ワイバーン相手の戦いって!」
初めて聞くワイバーンとの戦いを終わらせてきた英雄譚にヴァイスは少年の様に目を輝かせている。
まぁ、彼はまだ十代半ばなので厳密に言えば少年である事に違いは無い。しかし、普段が大人びている訳ではないとしても異世界においては立派な成人である。
英雄譚に憧れる年齢はとうに過ぎているのが異世界の感覚であり常識なのだ。そんな様子のヴァイスは
「ちゃんと皆で話してあげるから慌てないの」
と、真っ先にエイミーから嗜められてしまっていた。
「ワイバーンとの戦いか。やる事は対ドラゴン戦とそうは変わらないからな……」
ガルドリックはワイバーンへの対処法を踏まえながら今日の出来事を語り始めるのだった。
「姉御! ポーションが無くなりましたー!」
「この野郎! 落ちろ!落ちろー!」
「くそっ、目を瞑るな! 息をしやがれ!」
岩場にてワイバーンの群れに襲われていたミスズ率いる密林の女豹団は空を舞う飛竜の集団の前に苦戦を強いられていた。
そんな地獄の様な惨状が繰り広げられている岩場に薬草採取を終えたガルドリック達四人が通りがかったのだった。
「皆、先に王都へ帰れるか?」
ガルドリックは少し考えて、エイミー達新人冒険者を危険に晒さない方法を選択する。しかし
「ガルドリックさんが居なかったら私達ここから逃げられても安心出来ないですよ〜!」
「それに冒険者同士は助け合うものと教わりました。そうじゃなければ次は自分が見捨てられるからって……」
「女神様はきっと正しい人達を護って下さいます! ここで私達だけ逃げるのは……正しくありません!」
ガルドリックの考えに反しエイミー達三人はワイバーンに襲われているミスズ達を助けるつもりである。そんな彼女達の決意を見たガルドリックは
「すまないな。だが、敵は頭上だ。頭上にも足元にも十分気を付けろ。行くぞ!」
そう言うとガルドリックはワイバーンに頭上を囲まれているミスズ達密林の女豹団の中に飛び込んでいく。
「援護に来た! リーダーは誰だ!」
ガルドリックは声を掛けつつすぐにクランの人員編成を確認する。
ざっと見た感じ彼女達はレザーアーマーを着た戦士しかおらず、二〜三十人の人員全てが戦士職な脳筋編成だった。
彼女達が手にしているのは巨大なハンマーやメイス等の近接武器持ちが半分、後は弩弓……いわゆるボウガンやクロスボウといった類の射撃武器であった。
「リーダーはあたいだよ! こんな数相手にどうするつもりだい?」
ミスズがガルドリックの質問に答えると
「生き残りたいなら俺に従え! 皆の命は俺が預かる!」
銀色の勇者として名を馳せており魔王討伐に赴いたと喧伝されていたガルドリックによる援護と指示を拒否するモノはこの場には一人としていなかった。
「前衛は武器を置け! 固まらずにワイバーンからの火球の回避に専念しろ!」
絶えず空を飛んでいるワイバーン相手に近接武器は今は役に立たない。
ガルドリックは彼等を身軽にしてバラバラに散開させて敵の火球に纏めてやられない様に指示を飛ばす。
「後衛もばらけて回避しながら矢を装填しろ! 射撃目標とタイミングは俺が示す! 装填が完了したら大声で叫べ!」
次に後衛の弩弓持ちには各個に照準各個射撃を止めさせ統制射撃の準備を行わせる。
「エイミー、お前達は今は回避に専念だ! 今はそれだけで良い!」
現時点でのガルドリックの指示はこれだけだった。前衛とエイミー達かひたすら回避。後衛の弩弓持ちが回避しつつ矢の装填。これで後は攻撃チャンスを待つだけとなる。
「グオオオオッ!」
岩場での戦いはワイバーンの咆哮を皮切りに再開された。
しかし、ガルドリック達が参加する前と違いバラけた地上目標を前にワイバーン達は少し戸惑い始めた様だ。
渾身の力で火球を吐き出しても一人に当たるかどうか……なるべく複数を狙いたいワイバーンは上空を旋回して獲物の隙を覗い始めた。
「装填完了したぞ!」
「ああ、こっちもだ!」
「終わったぞ!」
弩弓の射撃準備をしていた冒険者達から次々と準備完了の声が上がる。その声が十人を超えたあたりで
「攻撃目標はあのワイバーンだ! 全員狙いをつけろ!」
ガルドリックが大剣の切っ先を上空の一匹のワイバーンに向け、目標を指し示す。そして
「撃て!」
ーピュンピュンピュンピュンピュン!ー
地上のあちこちから放たれた弩弓の矢の全てが一匹のワイバーンに向かっていき
ードスドスドスドスドス!ー
「グギャアアアアアッ!」
一度に多数の弩弓の矢を浴びたワイバーンは堪らず地上へと墜落していく。
ーズシャアァァッ!ー
そして地上に墜落したワイバーン目掛け間髪入れずにガルドリックが突進し
「うおおおおっ!」
ーズバアァァッ!ー
ワイバーンの頭を大剣にて一刀両断し迅速に一匹を仕留めてしまっていた。
「矢の装填が終わったらまた教えろ! 上空のワイバーンからな火球には注意を払え!」
ガルドリックは直ぐに次のワイバーンに備えるための指示を皆に飛ばすのだった。




