お手紙
「ああ、俺がガルドリックで違いない」
受付嬢にガルドリックがそう答えると彼女は心底ホッとした様子で
「良かったぁ〜! 高貴な方からのお願いだったのであっさり済んで助かりましたぁ〜」
ガルドリックに手元から一枚の手紙の様なモノを差し出してきた。少なくとも冒険者ギルドでは全く見かけないピンク色の可愛らしい手紙である。
「これ、ここで今確認すれば良いのか?」
仕事柄こういった経験が無いらしいガルドリックが受付嬢の反応を確認しながら手紙の封を開けていく。
冒険者としてはベテランであっても経験の無い事はまだある様だ。また、エリスフィーナも経験が無いため彼の様子を興味深そうに眺めている。
「あら、やだ〜! ガルドリック宛に恋文かしら〜? 大男の割にスミに置けないわね〜。エリィもちゃんとしとかないと取られちゃうわよ?」
訳知り顔で絡んできたメルティーローズだが、ガルドリックは呆れてため息をつくばかりでエリスフィーナに至っては頭に疑問符が浮かんでいる状態だった。
「あー、面白くない! で、何て書いてあんの? まさか本当に恋文ってんじゃないでしょーね!」
デリカシーなどお構い無しにメルティーローズはガルドリックが開封している手紙を覗いている。その中に書かれていたのは……
拝啓、白銀の勇者ガルドリック様
ハイエルフの精霊使いエリスフィーナ様
先日は暴漢より私達をお救い下さいましてありがとうございました。
つきましては、来週の木霊の日に姉の婚約発表並びに私達姉妹のローランド王立魔法学院への入学をお知らせする為の晩餐会の開催が予定されております。
銀色の勇者ガルドリック様とエリスフィーナ様、先日の宿で私の従者達をお守り頂いた魔術師と賢者の方を晩餐会にお招きさせて頂きたくお手紙を送らせて頂きました。
もし、ご参加頂けるのでしたら当日新緑の日に日没までに王城までお越し下さいます様、よろしくお願い申し上げます。
敬具
ガートルード・レイノア・ローランド第二王女
以上がガートルード王女より送られた手紙の内容だった。とりあえず、エリスフィーナが敵に捕まってしまいガートルード王女の事はほぼそれきりになってしまっていたが、シルフのおかげかガートルード王女はトラブルなく王城に帰る事が出来ていたと改めて知る事が出来た。
「あ〜、あん時の王女様か〜、私達もあの後宿屋で大変だったんだからね?」
そう話すメルティーローズは当日、ガルドリックとエリスフィーナが宿から逃げ出した後の惨状を語り始めた。
「王女様の侍女の人も護衛の人達も身体張って盗賊に抵抗しちゃってたからねぇ。だからこっちも魔法使えたんだけどさ〜」
護衛達は王女を逃がす時間を稼ぐ為、文字通り身体を使って盗賊達の行く手を塞ぐなど献身を見せていたそうだ。
「……分かった。当日まで生きていれば王城に行こう」
ガルドリックはとりあえず返答待ちしていた受付嬢に返事を伝えその場から離れる事にするのだった。
「おや、遅かったですねぇ。先に頂いてますよ」
ヴァイス達のテーブルに先に来ていたクレスは既にガッツリ夕食を食べていた。一方のヴァイス達は酒も入ってすっかり盛り上がっている。
今回の錬鉱石の採取は彼等のランクでは実入りの良い仕事だったらしく
「まぁ、あんな仕事俺達に掛かれば楽勝だよな! 明日もあったらやってみようぜ〜」
もう彼の中では手軽に出来る仕事という位置付けになってしまっていた。
「明日はさすがに別のにしない? あれ結構重かったし……ソフィー見てみなさいよ」
イキるヴァイスに魔術師のメディナが隣のソフィーの様子を指摘する。
「私、足が棒の様になってしまって……明日はさすがに重いのは辛いです」
「ソフィーもこう言ってるし……明日は別の仕事にしない? あ、ガルドリックさん! ねぇ、明日の仕事どう思います?」
疲労困憊なソフィーを気遣うエイミーが遅れて到着したガルドリック達を見つけ尋ねてきた。
「意見を聞かれれば答えるが……ヴァイスには耳が痛い話になるぞ?」
席に着いたガルドリックは今日の仕事の成功に気を良くしているヴァイスに苦言を呈する構えであるらしい。
「あ、私お料理頼んできます」
「じゃ、私はお酒貰ってくるわね」
話が始まる前に少しでも和やかな雰囲気にしようとエリスフィーナとメルティーローズの二人は夕食を取りにギルドの食事受け渡し口に向かうのだった。
大都市のギルドでは格安で飲食付きの宿泊をする事が出来る。これは冒険者ギルドが仕事を斡旋するばかりでは無く、彼等の生活も支援する社会福祉の面も併せ持っている事を意味している。
真面目に仕事をこなす者の生活はある程度保証する。こうする事で真面目に働きさえすれば、食いっぱぐれる事は無いという安心感に繋がり道を踏み外す者を極力減らしていくのである。
冒険者として生きていけなければ、他の職業ギルドを紹介して職を見つける手助けをするのも冒険者ギルドの大切な役目である。
また、道を踏み外した者を放置するのは社会への脅威の放置であり怠慢ですらある。それでもはみ出し者が出てしまうのは人間の世の常ではあるが、それだからと何もしないでは共同体の破綻に繋がってしまうものなのだ。




