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魔石鉱山跡

 魔石鉱山跡に辿り着いたパーティー一行の前に広がっていたのは切り出された石が無造作に放置されているポッカリと大口を開けた鉱山入口だった。

 勇者パーティーは直ぐに鉱山へ突入する準備に入る。先頭は大盾と松明を持ったガルドリック、次にマリアリア、メルティーローズ、クレスと続いて新人のエリスフィーナ、最後尾に松明を持ったキリヤが殿を務める編成となった。

 今の勇者パーティーには索敵要員が居ない。その為、皆が考え無しに松明を持ってゾロゾロ乗り込む訳にはいかなかった。

 何故ならゴブリンが潜む暗所へ突入する場合タダでさえ夜目が効くゴブリン相手に松明を持つだけでもリスクがあるのだ。

 ゴブリンの中には投石器や短弓を扱う者も居る。暗闇での松明は彼らからの格好の標的になってしまうのだ。

 最前のガルドリックが大盾で皆を守りながら前進。もちろん安全確認をしながらの危険な行軍となる。

 皆が突入の準備を進めている中、ガルドリックは鉱山入口周辺を入念に確認していた。

「あの……ガルドリックさん? 何をしてらっしゃるんですか?」

 疑問に思ったエリスフィーナが尋ねると

「ゴブリン共が既に外に潜んでて、俺達のあとから入って挟み撃ちをしないとは限らないからな。それに入り口が塞げる様に細工してるかもしれねぇ」

 との事である。彼が話すにはゴブリンは数が揃うとよりずる賢く、より凶暴になるらしい。

「エリスフィーナも異常を感じたら遠慮なく言ってくれて構わない。頼むな」

「は、はい! 頑張ります!」

 ガルドリックに頼まれたエリスフィーナは元気よく返事をする。彼等とはまだ出会ったばかりだが、冒険者仲間とはこういうものなのかと彼女は軽い高揚感を感じていた。

 全ての準備を終えた勇者パーティーは先述の順番通り魔石鉱山を奥へと下り始めるのだった。



 魔石鉱山の中は真暗闇では無いにしろ、光源は松明と壁や地面や天井にある魔石の欠片がポツポツと光っているだけで暗い事に違いは無かった。

 冒険者として経験の長いガルドリックや他のメンバー達と比べ不慣れなエリスフィーナの歩みはどうしても遅れがちだった。そんな中で


ーピタッ……ピタッ……ー


 と、壁の向こうから物音が聞こえてくる気がしていた。だが、熟練冒険者である他のメンバー達が誰一人として気に留めている様子がない。

「あの、キリヤさん? 何か聞こえませんか? この壁の向こうなんですか……」

 エリスフィーナは耳から入ってくる不審な物音の事を、すぐ後ろに居るキリヤに尋ねてみるが……

「は? なんも聞こえねーじゃん、壁だぞ壁。それより急げよ。遅れてんぞ」

 キリヤの言う通り、前を行くクレスはかなり先に行ってしまっている。

「わ、わかりました……」

 気を取り直し彼の後をエリスフィーナが小走りで暗闇を進んでいると


ーピタピタピタピター


 複数の足音の様な不気味な音が周りの壁の向こうから聞こえてきていた。

「ハァ……ハァ……」

「キシシ……」

「ケケケッ……」

 また、何者かの呼吸音……笑い声の様なモノまで聞こえてきていたその時

「皆、ゴブリンだ! 気をつけろ!」

 遥か前方からガルドリックの警告の声が響いてきた。それと同時に

「うわっ! ゴブリンだと! こいつらどこから!」

 すぐ後ろからもキリヤの焦った声が聞こえてきた。エリスフィーナが後ろを振り向くとキリヤと自分の間にも数匹の小さい影が見えた。

(ゴブリン……!)

 いつの間に現れたのか分からないが、エリスフィーナは直ぐ様小剣を腰から抜くと

「はっ!」


ードスッ!ー


「ギャアッ!」

 一匹の影目掛けて迷いなく放った突きはゴブリンの心臓を捉えていた。


ーズズッ!ー


 小剣越しに伝わってきた感触は気持ち悪かったが、エリスフィーナは迷いなく剣を引き抜き次の小さい影には前蹴りを放つ。


ードゴオッ!ー


「ウギャ!」

 蹴りを食らわせた小さな影は壁に向かって吹き飛んでいく。更に次の小さい影に狙いを定めたエリスフィーナは

「たあっ!」


ーザシュッ!ー


「ギャッ!」

 小剣での袈裟斬りを小さい影に振り下ろした。肩から脇腹に斬り裂き三匹目のゴブリンが地面に崩れ落ちたその時

「フレイムソード!」

 キリヤの振るった剣から炎が三日月型となって、炎の魔法剣がエリスフィーナ目掛けて跳んできた。


ーゴオオオオッ!ー


「ウンディーネさん! 水の盾を!」

 エリスフィーナは咄嗟に腰の革袋から依代となる水を通し水の精霊ウンディーネを呼び出す。

 召喚された彼女はエリスフィーナの指示通り自身を水の盾へと形作り


ーバシイィィィン!ー


 見事キリヤの炎魔法剣からエリスフィーナを守りきった。

「キリヤさん! 私はここに居ます! 気を付けて下さい!」

 エリスフィーナは自分の居場所を声高に叫ぶ。離れて戦うより二人で戦う方が良いと判断した彼女は、キリヤと合流しようと闇の中を駆け出した。しかし


ーガシッ!ー


「きゃあっ!」

 突然何かに足を掴まれエリスフィーナは


ーズシャアッ!ー


「うぐっ!」

 そのまま成す術無く地面に叩きつけられた。


ーカランカラン……ー


「あっ……!」

 転ばされた拍子に小剣が手から離れ転がる音がした。

「な、何なの……?」

 転ばされたエリスフィーナが何かに両足を持ち上げられている感覚に自身の足元を確認すると

「ケケケッ!」

「キャキャキャ!」

 不気味に笑う小さい影達に両足を掴まれ地面から持ち上げられているのが見えた。

「そ、そんな……! いつの間に……何処から……?」

 エリスフィーナはさっきまで影も形も無かった二つの存在に混乱していた。しかしエリスフィーナを捕まえた二つの影は彼女に考える時間を与えない。

「ゲッヘッヘ……」

「キャキャキャ!」

 二匹のゴブリンはエリスフィーナを引き摺って何処かへ運ぼうとし始めている。

「くっ……!」


ーグググッ!ー


 エリスフィーナも咄嗟に地面を掴んでゴブリン達に抵抗する。

(こ、これは……?)

 その時、地面に倒された事で初めてどこからか淀んだ空気と嫌な臭いが流れ込んできているのに気が付いた。どうやら壁のあちこちに側道に通じる横穴が開いているらしかった。

 ゴブリン達は地面に近い横穴から這い出して奇襲を仕掛けてきたのだ。だが、それを知るのがあまりに遅過ぎた。


ーギュウッ!ー


「やだ! 離して!」

 小さい影達はエリスフィーナを何処かへ運ぼうと両足をガッチリ抱えて離さず更に強く引いてきた。

「くうっ、駄目……離してっ!」

 エリスフィーナも必死に足を動かして小さい影を振り払おうとするが彼女の力ではとても敵わない。

(け、剣を……!)

 転ばされた時に手放してしまった小剣に手を伸ばすが、足を絶えず引っ張られているので後少しで届きそうで届かない。

「ケッケッケッ……」

「シッシッシ……」

 必死に抵抗を続けるエリスフィーナがゴブリン達を振り返って見ると、彼等はエリスフィーナのスカートの中を見て下品な笑いを浮かべている。

(やだ……やだぁ……!)

 エリスフィーナは必死に足を閉じようとするがゴブリンに両足を掴まれていてはそれもままならない。

 ゴブリンに捕まった女の子がどんな目に遭うか、エリスフィーナも知らない訳では無い。

(こんなのいやぁ……助けて……ママ……パパ……!)

 地面の窪みを掴んで必死に抵抗しているエリスフィーナの手の力は限界に近付いていた。その時


ーズルッー


「あっ……!」

 ゴブリンの力に耐えられず窪みから指が滑り窪みから離されてしまった。


ーズズズズズ……ー


「いやあっ! だ、誰か……誰か助けてぇ!」

 ゴブリン達に両足を掴まれて地面を引き摺られていくエリスフィーナが自らの運命に恐怖し誰彼構わず大声で助けを叫んだその時

「マジックミサイル!」

「フレイムショット!」


ーズババッ!ー


「ギャアアアッ!」

「グエエエッ!」

 ゴブリンの悲鳴と共にエリスフィーナを引く力が無くなった。解放された彼女は窮地から脱する事が出来たのだった。しかし……

「あ、あぁ……」

 初めての事に恐怖で身体が竦んでしまったエリスフィーナは壁際で小さくなるしか出来なくなっていた。転がっていた小剣を拾い上げ

「ママ……パパ……」

 必死に両親との繋がりと安心感を得ようと小剣の柄を握り心を落ち着かせようとしていた。そこへ

「エリスフィーナ! 大丈夫か!」


ーガバッ!ー


 今度は大きな影に力強く抱え上げられた。さっきのゴブリンの記憶が蘇ったエリスフィーナは反射的に大きな影から逃げようと抵抗するが

「落ち着け! もう大丈夫だ。すまない」

 力強く抱き抱えてくるその大きな影の暖かさに、ここで初めて安心出来たエリスフィーナは途端に力も意識も急激に薄れていくのであった。

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