岩場からの帰り道
「なんだよ〜、ガルドリック達も来たのかよ~。こんなの俺達だけでよゆーだぜ?」
ヴァイス達に続いて岩場に着いたガルドリックは錬鉱石を採取している彼らと合流していた。
錬鉱石は鉄と合わせた合金とする事で鉄の強靭性と柔軟性が増すのだそうだ。
手頃な大きさの錬鉱石を籠に集め終わる頃には西の空も傾き始めていた。
「ヴァイス、俺達も後から行くがすぐに援護に入れるとは限らない。お前達のパーティーだけで行動している前提で判断するんだぞ」
ガルドリックは岩場から帰ろうとするヴァイスに声を掛ける。彼は彼らを直接護衛して帰るつもりは無い様だ。
「ああ、俺もこのパーティーのリーダーなんだ。きっちり帰ってみせるぜ」
「それじゃお先に〜」
「……失礼します」
「早く帰りましょ、錬鉱石重いし」
ヴァイス達はそれぞれがギルドから借り受けた籠を背負って川岸を王都セレスティアへと下り始めた。
彼等を見送ったガルドリックは岩場の確認から始めていた。そんな彼にエリスフィーナが
「ガルドリックさん、何をされているんですか?」
「もしかしたらオークやリザードマンがここに錬鉱石を採取しに来ているかと思って痕跡がないか調べていたんだ」
オークやリザードマンは比較的知能が高く、彼等独自の文化や技術がある。
ドワーフや人間、エルフには遠く及ばないものの彼等も武器や防具を備えて生活している為、限られた資源の採取場所ではバッティングする可能性がよくあるそうだ。
「でも……何か危険があるなら冒険者ギルドで注意とかしてくれるんじゃないんですか?」
見るからに駆け出しなヴァイス達をオークやリザードマンが出現する様なベテラン向けの仕事に向かうのに無警告で送り出すとは思えないエリスフィーナだったが
「そこはギルド職員の裁量次第だ。誰もが親身に一から十まで説明してくれるとは限らない」
「それじゃあ……」
冷たい様だが冒険者の仕事は自己責任なのだ。ましてや請ける当人が土地勘があるか必要な知識を有しているかなど冒険者ギルドはそこまで親身になって尽くしてくれる訳では無い。
彼等も聞かれれば知っている事は答えてくれるだろう。しかし、相手が知らない前提で全てを一から十まで説明してくれるとは限らないのである。
「やはりここは人間以外も来ているらしいな」
岩場の地面を丹念に調べていたガルドリックが小さな鋭利な石の欠片の様なモノを拾ってエリスフィーナに見せてきた。
彼の話では石斧の欠片であり、断裂面以外に切削した後が見られるそうだ。
今現在、石器などを常用する人間などそう居ない事からも、人ならざる存在がここに来ている可能性は高いそうだ。
「そろそろ帰るとしよう。ここまで睨みを利かせておけば連中はヴァイス達には手出し出来ない」
「え……?」
ガルドリックが指し示した岩場のさらに上流の森林の中に僅かに動く複数の人影の様なモノが見えた。
彼等は襲い掛かってくる様子は無さそうだが……
「あいつらも私らに手を出したらタダじゃ済まないってのは分かってるんでしょうね」
メルティーローズは森の方向をチラチラ見ながら睨みをきかせている。
「この岩場は奥が袋小路です。さしずめ鉱石集めに夢中になっている冒険者の逃げ道を塞いで……というのがいつもの手なのでしょう」
また、クレスは岩場を見回しながらメガネの縁を指でクイクイ動かしている。
「もしかして、私達が遅れて帰るのもヴァイスさん達が安全に帰る時間を取る為……?」
エリスフィーナはここでようやく自分達がここに居る事を理解した。重い錬鉱石を背負ったヴァイス達が後方から奇襲を受けない為にガルドリック達がここで睨みを利かせていたという事を。
「エリスフィーナ、帰りは君の出番だ。風の精霊にヴァイス達の安全を監視して貰えるよう頼んでくれないか?」
十分に睨みを利かせたと判断したガルドリックの関心事は帰りのヴァイス達の安全に移っていた。
彼はガートルード王女と逃げる時にそうした様に、エリスフィーナに風の精霊にヴァイス達を俯瞰させて異常の有無を確認出来ないか頼んできた。
「今は辺りに風が吹いてますから大丈夫だと思いますけど……川があるからウンディーネさんにもお願い出来ますよ?」
風のある所には風の精霊が存在する様に綺麗な水の流れるところには水の精霊ウンディーネが存在する。
ヴァイス達が川辺を歩いているのなら、水の流れが途切れないウンディーネの方が今は信頼性が高い。
「そうなのか。君が安心だと思う方法で構わない。ヴァイス達を見てやってくれ」
精霊魔法をあまり知らないガルドリックは監視手段はエリスフィーナに任せてきた。
「水の精霊ウンディーネさん、私の声が聞こえますか……?」
エリスフィーナが指に魔力を込めながら河に向けて呼びかけると
ーシュウウゥゥ……ー
透き通った水色の人魚の姿をした水の精霊ウンディーネが実体化して現れたのだった。
「ウンディーネさん、先行しているヴァイスさん達、異常が無いか監視して頂けますか?」
ウンディーネはエリスフィーナの質問に大きく頷くと
ーバシャン!ー
河に飛び込んでそのまま姿を消してしまった。
「これでヴァイスさん達に何かあればウンディーネさんが知らせてくれるはずです」
ウンディーネが下流へ向かったという報告を聞いたガルドリックは
「それじゃ、俺達も帰るとしよう。皆、周囲には十分気を付けてくれ」
パーティーの皆にいつ敵からの襲撃を受けてもおかしくない事を告げるのだった。




