逃亡の終わり
「ここから港町へ行ってからそこを拠点にするのか、それとも船に乗って更に東へ行くのか……皆の意見を聞きたいと思ってな」
そこまで話すとガルドリックは改めて皆を見回した。海の向こうは完全に違う文化圏の異国となる。
言葉は通じるだろうが生活様式が一変してしまうのはまず間違いない。
また、船も帆船となる為お世辞にも快適な船旅とはならず、安全に異国に辿り着けるとは限らない。
果たしてそこまでのリスクを冒してまで東へ行く必要はあるのかどうか?というのがガルドリックの意見だった。
「俺はホワイトクラウン王国から距離を開ければ安全になると思ってたが……」
彼が東への逃亡に疑問を抱いた理由はやはり、昨日のエリスフィーナが受けた待ち伏せだった。
「俺はホワイトクラウン王国からの追手はアサシン……まぁ、隠密性に長けた殺し屋だな。そんな連中が雇われて来るものと考えていた。だが……違った」
そうしてガルドリックは昨日エリスフィーナが待ち伏せに遭い拐われかけた事を打ち明けた。
相手がアレックス王子やその直属の部下であり明らかに隠密行動など不可能な者達だった事も、かつての仲間であり恋仲でもあったマリアリアもそこに居た事も……
「しかし……転移魔法ですか。そんなモノは面影話か神の奇跡かと思っていましたが……」
賢者クレスが彼等が使ったとされる転移魔法について語る。
転移魔法とは基本ポータルを使った決められた場所の間を移動するものであり、マリアリア達が使ったようにどこでもドア的な事が出来るのは神や悪魔と呼ばれる伝説の存在だけなのだと……
「じゃあ、マリアリアがそれを使ってるって事? いくら聖女だからってそんなデタラメな……」
賢者クレスの話に珍しく真面目な反応をメルティーローズが見せた。
(…………)
マリアリアが転移魔法を使った時に間近に居たエリスフィーナはマリアリアの転移魔法が普通の詠唱では無かった事を思い返していた。
また、転移を止めろと言ったアレックス王子の言葉は無視されそのまま転移してしまう位には勝手が効かないであろう事も。
「だから俺は距離を稼ぐ事は俺達の安全に繋がらないと見ている。それなら……」
そこまで話してガルドリックは全員を見回し
「何処かに拠点を築いてそこで防御、あるいは待ち受けた方が安全じゃないかと考えたんだ」
そう語るガルドリックはエリスフィーナの表情を覗う様にして結論を語る。
確かに逃亡生活の中で不意に襲撃を受けるよりは、同じ襲撃を受けるならこちらも迎え撃つ準備をして万全の体制で待ち受けた方が楽である。
「俺は……外国に興味はあるけどそこまで遠くに行くのは嫌だな」
「私も……活動するならこの辺が良いかな〜。お風呂もあるし」
ガルドリックの話を聞いたヴァイスとエイミーは流石に長旅で疲れたのか、この辺りで冒険者として活動していきたい様だ。
「外国ではお祈りする神様も違うと聞きます。私もあまり遠くへ行くのは……」
「それに外国だと女が魔術師ってあんまり良く思われてないって話だし」
神官のソフィーと魔術師のメディナもヴァイスと意見は同じである様だ。
「そうですねぇ、私は知識欲が満たせればどこでも良いのですが……」
賢者クレスが眼鏡を中指で直しながら自身の意見を述べる。
「私はまぁ……どこでも良いかな。ご飯が美味しくてお風呂があるトコなら♪」
メルティーローズも特に何処が良いとかのこだわりは無いらしい。
「え……あ……」
順番的に自分に発言権が回ってきてしまいエリスフィーナは何をどう話すべきか言葉に詰まってしまった。皆の注目が集まり頭が真っ白になった彼女は
「あ……私は皆さんの決定に従います……」
エリスフィーナのこの発言でガルドリック達パーティーはこのローランド王国、王都セレスティアで生活の基盤を整えていく事となるのであった。
宿を出た一行はとりあえず仕事から始めてみようとゾロゾロと八人で冒険者ギルドへやってきていた。
依頼ボードの前には今日の仕事を求めて冒険者達が集まっており、旨味のある依頼などは飛ぶように依頼が取られていってしまっていた。
この王都セレスティアは森と水辺の都であり、魔物の討伐も森に住むオークや水辺に住むサハギン等が多く、メジャーなゴブリン討伐等はあまり目立っていない。
それと、人気が無いのか都の下水道の清掃作業などは見向きもされていなかった。
後は近隣の町や村、東の港街へ向かう隊商の護衛などだった。
王都セレスティアには街の中央を長大な川が流れておりそれが下流の港街へと遠く続いている。
流れの緩やかな川を利用した水運業も発展しているが、それだけ河に潜むサハギンやリザードマンは日常的な脅威なのだ。
「さーて、俺達でも出来る仕事はあんのかな〜?」
ヴァイスが冒険者ランクに合わせた依頼の紙を物色している。一方のガルドリックは仕事を選ぶにしても魔王を倒した勇者パーティーであるのだから難易度に制限がある訳でも無い。彼は誰も請けたがらずかつ難易度が高い仕事を見ている。




