自己嫌悪
(…………)
途中までは順調に済んでいた逃走劇、それが狂い始めたのは……途中で盗賊の接近に気付けなかった事だった。
あの時、もう少し早く距離を開けていれば、ガートルード王女と逸れる事は無く、その後に罠に掛かる事も無かったかもしれない。
少なくともガートルードに助けを呼んで貰うなり、昨日よりは良い結果になっていた様に思える。
「やっぱり私じゃ駄目なのかな……」
「エリス……、過ぎた事をあれこれ考えてもあまり意味は無い。反省は良いが……過剰な自責は無意味だ」
ービクッ!ー
不意に聞こえてきたガルドリックの声にエリスフィーナはビクッと身体を震わせる。
「す、すみません……まだ早いのに起こしてしまって……」
寝ていると思っていたガルドリックに話し掛けられたエリスフィーナは慌てて謝罪の言葉を口にするが……
「エリス、君は王女を盗賊達から無事に逃がしたんだ。それは十分誇っていい……」
彼は昨日の出来事を彼なりに総評してきた。エリスフィーナから見れば敵の罠に掛かってしまったのがかなり心の傷になってしまっていたのだが……
「街中に罠を仕掛けるなんて普通は無い。街は不特定多数の人間が息交う場所だ。裏路地とは言え、盗賊がアジトで侵入者相手に縄を仕掛けるのとは訳が違う」
ガルドリックは昨日のアレックス王子やマリアリアが仕掛けていた罠がそもそもがありえないという話を始めていた。
「仮にも他国の王都で……追われている君がどう動いてどの道を通るのか。不確定要素が星の数ほどある昨日の状況で、狙いすました様にピンポイントで罠を設置しておくなんて……通常ではありえない話だ」
ガルドリックは昨日のエリスフィーナを捕らえた罠がいかにありえない状況で設置されていたかを説明してきた。
「エリス、君が自分自身をどう評価しているかは分からないが……俺は君を頼りにしている。昨日の件だって俺一人じゃきっと王女は逃がせなかった……」
「え、そんな……ガルドリックさんなら……」
ガルドリックの言葉を否定しようとするエリスフィーナの反論を彼は制し
「俺には周囲の状況を的確に探る聴力は無い。白兵戦も数人程度なら相手取れるが、四方八方から迫る相手に誰かを護りながら戦うのは難しい」
ガルドリックは上体を起こすとエリスフィーナの方を見ながら
「君を危険に晒してしまって……すまなかったと思っている」
「そんな……私が未熟だっただけなんです! 罠に気付けなかったから……ガルドリックさんが気にする事じゃ……」
そこまで口にしてエリスフィーナは初めて気付いた。ガルドリックが謝罪の言葉を口にするとエリスフィーナも呵責の念を感じてしまう事に。
もし、彼が自分と同じ事を感じているのなら……
「分かりました。私も……次は、罠に掛からないように……頑張ります」
昨日の失敗を明日に活かして、自責を止める事。そうする事で彼の呵責の念を和らげる事が出来るのなら……
「ああ……ありがとう、エリス。これからも頼りにしてる……」
エリスフィーナが前向きな言葉を口にした事でガルドリックも気が楽になった様だった。彼はベッドから降りると
「少し剣を振ってくる。近くに広場があったからな」
「は、はい。お気を付けて……」
いつもの大剣での鍛錬をしに外に出ていってしまうのだった。そんな彼の後ろ姿を見送るエリスフィーナの心は
(私も……もっと頑張らなくちゃ……)
いつの間にか陰鬱とした心が晴れやかになっていたのだった。
翌朝、すっかり整理され直された食堂でエリスフィーナ達は朝食を採ろうとしていた。
メニューはそれぞれ果実のジュースにワンプレートの朝ご飯に適した料理が盛られている。
白パンにスクランブルエッグ、葉野菜のサラダにベーコンという現世でも朝ご飯の定番とされるメニューになっている。
「へぇ〜うまそーだな! 早速一口……」
「ヴァイスったら、行儀悪いわよ?」
フライング気味に料理を食べ始めたヴァイスをエイミーが嗜める一幕もあったが、「いただきます」
と、皆が信ずる神に祈りを捧げて朝の朝食が始められた。食事が始まり雑談も一段落した頃
「皆にこれから俺達がどうして生きたいか意見を集めたい」
リーダーのガルドリックがそんな話を切り出してきた。それは昨日のエリスフィーナが襲われた件と無縁では無いのだろう。とりあえずエリスフィーナはガルドリックの話を聞いてみようと周りの話の聞き手に回るつもりで居た。
「これからどうするって……冒険者ギルドで仕事していくんじゃないのか?」
ヴァイスが白パンをもっちもっちと食べながらガルドリックに答える。
「いや、それはそうなんだが……まずは何処を拠点にするかなんだ」
エリスフィーナ達は冒険者である以上、冒険者ギルドで仕事を請けてそれを消化して生きていくしかない訳だが、ガルドリックが聞きたかったのはそれ以前の話ですあるらしく
「このローランド王都から西にある港町、ホワイトクラウン王国から離れるのもこの大陸ではそこが限界だ」
ガルドリック達はこれまでホワイトクラウン王国から追われている可能性を考慮して東へ東へと逃げてきたのだ。




