計画失敗
「マリアリア! 何故転移を止めなかった! 折角捕まえたハイエルフを取り逃したじゃないか!」
王国に転移したアレックス王子達は地下牢にて今回の作戦失敗の責任のなすりつけ合いをしていた。
転移先が地下牢なのは単にエリスフィーナを捕まえる前提であり、彼女をそのまま幽閉するつもりだったからなのだが……
話し合うなら場所を変えれば良いのに、そんな事はお構いなしに彼等は互いの主張をぶつけ合っている。
特に自分の思い通りに事が運ばなかった事実にアレックス王子は苛立っていた。そんなアレックス王子に
「王子がちゃんとハイエルフを捕まえておかなかったからでは? アレだけ時間があったのだから意識を奪うなりしておけば良かったのです」
マリアリアが淡々と自身の意見を述べる。
「くそっ! お前だ! お前があのエルフをしっかり捕まえておかないからだ! 大体何で合金製の鎖が簡単に切られるんだ!」
今度のアレックス王子は鎖を使ってエリスフィーナを拘束していた部下の大男に当たり散らし始めた。
「すみません、王子……面目ないです」
今回大男に特段の非は見当たらないのだが、不遇にもアレックス王子の不満が彼にぶつけられてしまっていた。
「マリアリア! 次のチャンスはいつだ? あのエルフを捕まえられるのは!」
アレックス王子は気を取り直して前向きに次の機会に賭ける気になった様だが……
「さっきから女神様に連絡が繋がらないの。何度も呼びかけているんだけど……」
「なんだと! ふざけるなよ! 僕はまた明日から公務なんだ、当分暇なんか作れないんだぞ!」
今回の休みのうちに用事を片付けたかったのに、トラブルで未定になってしまったみたいな状況にアレックス王子は悔しさを隠せないでいた。
何より、一度確実に捕まえていたはずの獲物にするりと逃げられてしまった後悔は、自分の思う通りの人生を歩んできた彼にとっては耐え難いお預けだろう。
「とりあえず……女神様に連絡が繋がるのを待つしかありません。今回みたいなハイエルフを捕まえられる絶好の機会を教えて貰わなければ……」
こうしてマリアリアは憤るアレックス王子を宥めながら、女神からの次の段取りを待つ事にするのであった。
その頃、天界では異世界の成り行きを見守っていたアルダト・リリーが異世界人の不甲斐なさに憤っていた。
「あそこまで段取ってあげたのに何やってんのかしら! もう!」
そう話しながら女神は異世界の歴史を、シークバーを動かす様にしてエリスフィーナの足跡を追っていく。
正直、エリスフィーナを捕まえるだけなら彼女自らが出て……つまり女神が下界に降りて直接誘拐してしまうのが一番手っ取り早いまである。
しかし、彼女の仕事は転生課での魂達の選別と振り分けであり、異世界管理を務めている女神レアに無断で濫りに異世界に介入する事は許されていないのだ。
先に使った異世界人を転移させた女神の奇跡ですら異世界のアカシックレコードに影響を生じさせてしまうかもしれないのだ。
しかし、このままでは勇者ガルドリックと聖女マリアリアの子孫が誕生する未来は無くなり、人類の対魔王の歴史は白紙になってしまう。
それは異世界管理課の仕事を妨害したのと同意であり、アルダト・リリー自身の査定や評価に関わってきてしまうのだ。
「あ、この辺り使えそうね……」
シークバーで異世界の歴史を辿っていた彼女の目にある歴史の一幕が目に止まった。
こうしてアルダト・リリーはガルドリックからエリスフィーナを引き離す為の次の算段を立て始めるのだった。
エリスフィーナがガートルードやガルドリックと盗賊達から逃げ回っていた夜のその翌日、柔らかなベッドで爽やかに目覚める事が出来たエリスフィーナは
「ん……」
目が覚めた時の光景が天幕のある天井な事に頭が混乱した。
ーガバッー
「えーと、私は……昨日は確か……」
慌てて上体を起こした彼女は頭が覚醒する中、昨日の夜の出来事を少しずつ思い出し始めていた。
頭がぼーっとする中、僅かな足の痛みを感じながら何気なく横を見ると
「……っ!」
ベッドの隣で普通に寝ているガルドリックに一気に頭が真っ白になった。
「え? えーと……? 私は昨日は……」
寝惚けた頭で必死に昨日の夜の出来事を思い出す。昨日は……ベッドかここしか無くなっていて床で寝るとダブルベッドで寝る事を頑なに固辞していたガルドリックを説得し、エリスフィーナがベッドの端に寄る事でようやくガルドリックと就寝したのだった。
(…………)
よく考えたら、他にもメルティーローズやエイミー達が一緒の部屋で寝ているのに何か間違いが起きるはずも無い。
そもそも、分別のある大人なガルドリックが変な事をしてくるハズが無い。
なんだか、一人で慌てて焦ってホッとしている自分に、エリスフィーナは情けなさを感じ始めてしまっていた。
「私、冒険者に……向いていないんでしょうか……?」
昨日の出来事を思い返したエリスフィーナは自身に問い掛ける様に小さく呟いた。
風の精霊に手助けをして貰っていたのに成す術無く敵に捕まり、ガルドリックが助けに来てくれるまで何も出来ないで居た自分に自信が持てなくなってしまっていた。
「私、ママやパパみたいになれないのかな……」
ベッドの上で膝を抱えたエリスフィーナは昨日の出来事を思い返し、他に方法があったんじゃないかと思い始めていた。




