一難去って
拘束具の鎖を鍛冶屋で取り払って貰ったガルドリックとエリスフィーナはミスズ達と鍛冶屋のドワーフに礼を言ってようやく件の宿屋への帰路に着く事が出来ていた。
ちなみに、エリスフィーナはまだ歩けないのでお姫様抱っこされたままである。
「エリス、足は大丈夫か?」
「は、はい……。大分楽になりました……すみません」
二人がそんな会話をしていると
ーパタパタパタパタ……ー
ガートルード王女の護衛に出していた風の精霊シルフがエリスフィーナの下に戻ってきたのだ。
「エリスフィーナ、王女様は大丈夫。無事にお城まで送ってきたから」
ーフッ……ー
シルフは仕事の報告の為だけにエリスフィーナの所まで戻ってきたらしく、報告を終えた彼女は直ぐに実体化を解いてしまった。
「シルフさん、ありがとうございます……」
シルフが消えた空にエリスフィーナが感謝の言葉を呟く。
「もうすぐ宿だ。着いたらソフィーに直ぐに診て貰おう」
ガルドリックがエリスフィーナに安心した様に話し掛ける。ガートルードの事は彼も気になっていてシルフの報告を聞けてようやく気が抜けたのだろう。
宿屋に戻り受付の前を通った二人に
「いや〜、すみませんね。どこか別の所でお楽しみされてましたか? もう騒ぎは収まりましたのでお部屋でごゆっくりなさって下さい」
受付が悪意無しに話し掛けてきた。やはり勇者のお姫様抱っこは目立っているらしい。
「あ、ああ……助かる」
なんとか宿屋まで戻れたのに未だ気が休まらない現状にガルドリックも愛想笑いが引きつっている。
「すみません……私のせいで……」
一方のエリスフィーナは顔を真っ赤にして恥ずかしさで彼の胸に顔を埋めているので、それが傍から見れば濃密な二人を思わせてしまいさらなる好奇の視線を集めさせる要因ともなっている事に彼女は気付いていなかった。
多大な気苦労を歴てやっと借りている部屋の前までやってきた二人が
ーコンコンー
「誰か居るか? すまないが開けてくれないか?」
エリスフィーナが扉をノックしてガルドリックが中に居るはずの仲間に声を掛ける。すると
ーガチャー
「はいは〜い……あ、やっと帰ってきたんだ〜! 遅いから心配してたんだからね〜♪」
扉を開けて出迎えてくれたメルティーローズが早速中へと案内してくれる。これでようやく一息つけるとガルドリックが安堵していたら
「ねぇ、ところでなんでエリィお持ち帰りしてんの?」
やはりお姫様抱っこがスルーされる事は無かった。パーティーメンバーだからスルーしてくれるかと思っていた二人の思惑は相当に甘かったらしい。
「実はエリスが足を痛めててな。ソフィーに診てもらいたいんだが……」
「え、そうなの? それじゃ早くベッドに運んで。ソフィー! 急患〜!」
怪我人と聞いたらメルティーローズはきちんと空気を読んで態度を切り替えてくれた。なんだかんだで真面目なパーティーメンバーだとガルドリックがエリスフィーナを案内されたベッドへと運んでいくのだった。
「あ……え……?」
メルティーローズに案内されたベッドの前でガルドリックは言葉を失った。二人が案内されたのは天蓋付きのダブルベッドだったからだ。
「ほら、早くエリィを下ろして!」
言われるがままにエリスフィーナをベッドに下ろしたガルドリックを他所に、メルティーローズがエリスフィーナのブーツとニーソックスを脱がせていくと
「っつ……!」
エリスフィーナが足の痛みに声を上げる。彼女の白い足はうっ血と内出血で鎖の跡が青黒く変色していた。そんな彼女の苦痛を和らげるべく
「豊穣と慈愛の女神レア様、傷付いた者に癒しと安らぎをお与え下さい……ヒール!」
神官のソフィーが癒しの神聖魔法を唱える。すると
ーパアアァァ……ー
彼女の手元が白く輝き出しエリスフィーナの患部を癒し痛みを和らげ始めた。
「ひとまずはこれで……後は明日の朝にまた魔法を掛けます」
「ソフィーさん、ありがとうございます……」
お礼を言うエリスフィーナにソフィーは一礼してその場を去っていく。
「それじゃ、夜も遅いから休みましょ?」
メルティーローズはそう言うと自身のベッドに戻ろうとする。そんな彼女に
「なぁ、俺のベッドはどれだ?」
辺りを見回したガルドリックが尋ねる。用意されているベッドの数は人数分、しかしその中の五個には既にそれぞれがベッドに入っている。
つまり、今空いているのはベッド一つとダブルベッドの片側のみという事になってしまう。
「なぁ、お前がエリスと一緒に寝ないか?」
ガルドリックがメルティーローズに提案するが……
「アンタじゃ私のベッドに身体収まらないでしょ?」
そうなのだ。即席で用意されたベッドはどれも最低限のサイズしかなく大柄なガルドリックでは窮屈どころか収まるかどうかも疑問なサイズ比となっている。
一方の天蓋付きのダブルベッドは元々が部屋に合わされて設置してある専用品だけあって豪華でサイズに余裕もある。
普通に考えたらメルティーローズの判断が十割正しい。しかし……
「そうは言ってもな……」
ダブルベッドから目を逸らしたガルドリックは他のベッドを見る。こんな非常時にグーグーと呑気にいびきをかいて幸せそうに寝ているイケメンクレスの顔が今は恨めしい。
ソファー寝も考えたが、ベッドスペースを確保する為かソファーは全て片付けられてしまっていた。
「じゃあね、私は眠いからもう寝るわね? おやすみ〜」
メルティーローズも話は終わりとばかりにさっさと自分のベッドに入っていってしまった。
「お、おい……」
こうしてガルドリックは一人ダブルベッドの前に残されるという難事に直面する事となったのである。




