街の鍛冶屋
建物から出たエリスフィーナを抱えたガルドリックは大通りを急いでいた。時間はすっかり夜が更けており、街の飲食店が酒で賑わっている頃である。
ガルドリック達の後ろで街行く人々が振り返っていくのもお構いなしだ。それくらい今の彼等は目立ってしまっていた。
街の大通りをお姫様抱っこで走っているのは異世界であっても異様な光景なのは間違いない。
そんな衆人環視の羞恥プレイにエリスフィーナはガルドリックの胸に顔を埋めて懸命に耐える事しか出来ないで居た。
だが、今の彼女達にはのんびりしていられる時間がある訳でも無い。エリスフィーナは恥ずかしさ以外にも両足首の痛みにも必死に耐えているのだ。
そんな二人が通りを駆けていると
「おうおう、あん時のエルフじゃねーか!」
「あん時は世話になったなぁ! ミスズの姉御ぉー!」
昼間のモヒカンとツーブロがガルドリックの前に立ちはだかってきた。彼女達と面識の無いガルドリックはエリスフィーナに視線を送る。
「あ……、昼間に銭湯で一緒になった人達なんです……。そんなに親しい訳じゃないんですけど……」
エリスフィーナがガルドリック説明している間に店の奥から大柄な赤毛チリチリ頭の女の子か出てきた。そして
「あん時のエルフだね? あん時は世話になっ……」
口上の途中でミスズは言葉を止めた。そして
「いや、人様の趣味に口は挟みたくないけど……一応公序良俗ってのはあるんだからさ……」
視線を外しながら言いにくそうに話し始めた。明らかに誤解されている今の状況にガルドリックは
「これは……事件みたいなモンだ。危うく拐われるところだっただけでな」
「あ〜分かった分かった。そういうプレイなんだろ。詳しくは聞かないからさ」
弁解も藪蛇である。
「え、え〜とこの街の鍛冶屋があったら教えて貰いたいんだが……」
何をどう話しても誤解されると学習したガルドリックは肝心の鍛冶屋の場所を尋ねてみる事にした。すると
「うちのクランで世話になってる鍛冶屋のオッサンなら中に居るよ。ついて来な」
ミスズはそう話すと二人に建物の中に入るように促してきた。このまま当て所なく街を探すよりは……とガルドリックは普通にミスズに着いていこうとするが
ーギュッー
エリスフィーナは不安なのかガルドリックのシャツの胸元を思い切り握り締めている。
「大丈夫だ、相手に取って食うつもりは無い。それに……俺が付いてる、心配するな」
ガルドリックはそうエリスフィーナに笑いかけると彼女を抱えたままミスズ達の建物へと入っていくのだった。
建物の中は受付や依頼ボードの無い冒険者ギルドと言った感じで冒険者達がそれぞれに寛いでいる感じだった。
しかし、それが他と違うのはモヒカンやツーブロックみたいな女の子冒険者だらけだという事だ。
「おいおい、見なよアレ」
「エルフ抱えた大男じゃん」
「あれがミスズ姐さんの知り合い? うわ〜、引くわ〜」
あまり歓迎されていない周囲からのざわめきにエリスフィーナは思わずガルドリックに身を寄せる。
そんな二人がミスズの先導でやってきたのは
「お〜い、オッサン! あんたに仕事だ」
と、ミスズが紹介してきたのは小柄な筋肉ダルマな髭面ドワーフの男だ。
「なんじゃい、珍しいな。このクランに客が来るとは……」
ハンマー片手に立ち上がったドワーフはガルドリックとエリスフィーナをまじまじと見てきた。
「あ〜、なんか事件のプレイ中に事故っちゃったみたいでさ。その鎖を外して欲しいみたいなんだけど……」
事情を知らないミスズがガルドリックから聞いた話を自分なりに消化して噛み砕いて説明する。問題なのは完全に誤解を招く表現をしているという事だ。
これでは自家発電中の事故を医者に説明して簡単に見抜かれてしまうパターンの逆でしかなく、ただの自爆でしか無い。
当事者のガルドリックからしてみれば誤爆でしかないが、どちらにしろ名誉毀損で間違いは無い。
「ここではどうにもならんな。ワシの工房が裏にある。ついて来い」
ドワーフはそう言うと建物の裏口へと歩いていき、ガルドリック達もその後を追う事になったのである。
ドワーフの後についてやってきたのはガンス鍛冶武具店の看板が立てられた鍛冶屋だった。
店の中には鍛冶に必要な設備がしっかり整えられていた。時間が時間なだけに他に客の姿は見えない。
ドワーフはベンチと細長い金属の様なモノを手にエリスフィーナの両足首を締め付けている鎖と金具をまじまじと見て
「これはホワイトクラウン王国の奴隷商がよく使う高価な拘束具じゃな。壊してしまってもええんか?」
まだ明らかに誤解しているらしいドワーフにガルドリックが
「……壊してくれ」
短く希望を伝えると
ーガツッ、カチカチカチ……ー
ドワーフは金具の鍵穴の様な部分に細い棒を差し込んで器用に弄り始める。すると鎖の締め付けが徐々に緩まってきた。
「…………」
こうして足の痛みが和らいだエリスフィーナにようやく安堵の表情が戻ったのだった。




