囚われた息女
裏通りを二人で駆けているエリスフィーナとガートルードの二人は分かれ道……特に十字路でガルドリックを待つ必要がある為、走るスピードの割に盗賊達を中々振り切れずに居た。
「おい! 女達はどっちだ!」
「こっちだ! 先回りするぞ!」
「くそっ、何処に行きやがった!」
幸いな事に風の精霊シルフによる厚意のナビゲーションがある為、エリスフィーナは的確なタイミングで盗賊達を避ける事が出来ていた。
だが、それは裏を返せばエリスフィーナ自身が王都のどの辺りに居るのかというのを完全に分からなくさせていた。
「はぁ……はぁ、エリスフィーナさん……もう……限界……」
暫く走りっ放しだったからかガートルードはすっかり息が上がってしまっていた。
エリスフィーナは自分がまるで息切れせずに済んでいたからか先を急ぐ事ばかりになってそこまで気が回って居なかった。
シルフからの助言では今は特段切羽詰まって急がなければならない理由は無い。
「ガートルードさん、ここで少し一休みしましょう」
エリスフィーナがガートルードに声を掛けるとガートルードは肩をがっくり落とし中腰になって息を整え始めた。
「あの……さっき、盗賊の人達の話が聞こえてきてしまったんですけど……」
エリスフィーナは盗賊達が話していた事について口にする。
「盗賊の人達はガートルードさんがあの宿屋に居る事を知っていたみたいなんです。あのお店にはお忍びでいらしてたんですよね?」
王女の外出の予定など、それも国王にですら秘密にしている外出予定の情報などどう考えてもガートルードに近しい者にしか知り得ない話のはずだ。つまり……
「私の近くに情報を売った人が居る……?」
エリスフィーナの言葉に返事をするガートルードの顔は落胆した様な納得した様な……どこか心当たりがあるかの様な悲しそうな顔だった。
「……分かりました。ありがとうございます……」
ガートルードはそう話すと俯いてしまった。そんな彼女の様子にエリスフィーナが言葉を発せずにいると
「あの……エリスフィーナさんはガルドリック様と恋人同士でいらっしゃるのですか?」
「へ?」
あまりに唐突な藪から棒なガートルードからの質問にエリスフィーナは間抜けな声を発する事しか出来なかった。
「お二人が信頼し合ってるのが伝わってきますし……息も合っていらっしゃる様に見えましたので……」
「ちちち違います! 私は彼とは同じパーティーの一員というだけでして……」
ガートルードの誤解を解くべくエリスフィーナは吃りながら言葉を発する。
「私にとってのガルドリックさんは、頼りになる先輩って言うか……冒険者の先生って言うか……その……だから……」
エリスフィーナは言葉を選んで話しているがその顔は真っ赤になっていてゴニョゴニョと声も小さくなっていく。そんなエリスフィーナがガートルードの質問に窮していると
「おい! 居やがったぞ! こっちだ!」
「エルフと王女だ! 捕まえろ!」
いつの間にか盗賊達に追い付かれてしまっていた。エリスフィーナが聴力による探知もシルフからの警告も聴き逃していたのはガルドリックの話題に気を取られていたからだろう。
「ガートルードさん! 早く逃げて下さい! 走って!」
ードゴオッ!ー
「うへあっ!」
細い路地の為、盗賊達は一人ずつでしか向かって来れず、エリスフィーナが向かってきた盗賊を前蹴りで蹴り飛ばしながらガートルードに逃げる様に急かす。
ガートルードを先に行かせたエリスフィーナが盗賊達を何回か蹴り飛ばしたとこで彼女もその場から急いで逃げ出すのだった。
先を行くガートルードを追うエリスフィーナだが、ガートルードに中々追いつけなくなっていた。
「シルフさん、ガートルードさんに付いて彼女の護衛をお願いします」
エリスフィーナはシルフにガートルードの護衛と誘導をお願いする事にした。エリスフィーナの声に応じて姿を実体化させたシルフは頷くとサッとガートルードの元へと飛び去っいく。
シルフが飛んで行った方向にガートルードが居る。エリスフィーナが駆けていると路地の先に大通りの喧騒が見えてきた。
周りに盗賊の気配は無く、このまま行けば大通りの人波に紛れる事が出来る。
(あと少し……!)
エリスフィーナがようやく安心し掛けたその時だった。
ービシッ!ー
「あっ!」
突然足が何かに引っ掛かったエリスフィーナは成す術無く
ーズシャッ!ー
「きゃっ!」
大通りまであと少しと言うところで転んだ彼女は石の地面に身体を叩き付けられてしまった。
「な、何……?」
あまりにも突然の事にエリスフィーナが混乱しながら自分の足元を見ると、彼女の両足首が鎖のくくり罠の様なモノでしっかりと締め付けられていたのだった。
「な、何これ……!」
エリスフィーナは鎖から抜け出そうとするが両足首が完全に締め付けられていて逃げる事はおろか立ち上がる事すら出来ない。
ージャラジャラジャラー
「きゃあっ!」
鎖を解こうとエリスフィーナは手を伸ばしたが、手が届くより先に鎖が強く引っ張られ、彼女は抵抗も出来ずに鎖が伸びた先に引きずられて行くのだった。




