異物
「エリス、そのままで聞いてくれ」
隣で食事をしていたガルドリックがエリスフィーナに耳打ちする様に彼女の耳元で話し掛けてきた。
「君の席から見て三時の方向だ。旅人のマントを着たままの一団が居るだろう?」
確かに彼の言う通り少し離れた右方向にマントを羽織ったままの冒険者達らしい数人が食事をしているのが見える。
エリスフィーナにはガルドリックが何を話すつもりなのかまだよく分からない。
「エリス、君は彼等が何を話しているのかが聞こえるか?」
ガルドリックの質問にエリスフィーナは少し困惑する。聞き耳を立てれば普通の話し声であればいくらでも聞き取れるだろう。
「あの……盗み聞きは良くない事だと思うんですけど……」
ガルドリックが考え無しにそんな指示を出すとは思えないが、愚直に従うのも引っ掛かったエリスフィーナは彼に異を唱える。
「君が躊躇うのは当然だ。だが、俺達はまだホワイトクラウン王国から追われているかもしれない立場なんだ。不安の芽は潰しておきたい」
そう、ガルドリック達は未だホワイトクラウン国王の意向を無視して逃げ出したお尋ね者かもしれない身なのだ。
国を一つ挟んだ他国に逃れたからと無意識に安心していたのかもしれない。
だが、彼が懸念する通りエリスフィーナ達はまだ安全になったとは限らないのである。
「彼等の装備品を見てみろ……変に小綺麗で使用感が無い。おまけに食事の所作に育ちの良さが出ている……間違いなく異質だ」
ガルドリックがマントの集団を観察した結論をエリスフィーナに手短に説明する。
「あの一団はあからさまに怪しいが……あれが俺達の注意を引く役のただの囮でしかないのか、他に伏兵が居るのか……それとも、単なる世間知らずの集団なのか……今ここで確認しておく必要がある」
「わ、分かりました……」
ガルドリックの意見に納得したエリスフィーナは自分の聴力に神経を集中させて件のマントの一団の話し声を拾おうと試みる。
「ガートルードさ……お気に……」
「は……。王……」
聴力に神経を集中させたとは言え同じ方向だけでも多数の人々が会話をしている。
その中でピンポイントである一団の声を抽出するのはハイエルフのエリスフィーナでもそう簡単では無い。
「いいで……。外出……」
「わかっていま……。食事が済み……」
他の席の話し声が大きかったり被ったりするので確実な事は言えないが……
「どうも、私達とは関係が無いみたいです……」
エリスフィーナが今わかっている事をそのままガルドリックに告げたその時
ーバアアァァン!ー
入り口の扉が勢いよく開けられ、盗賊風の男達が乗り込んできた。
「お頭、見てくだせぇ! アイツらこんなトコに居やしたぜ!」
「まったく、手間かけさせやがって……捕まえろ!」
その男達の動きに反応して件のマントの集団が席から立ち上がり、何故かエリスフィーナ達のテーブルの方にやってきた。
「早くお逃げ下さい!」
「ガートルード様、裏口から外へ!」
こっちに向かってくるマントの人影は小柄な一人のみがまっすぐこちらに向かっており残りは盗賊達を足止めしようとその場に留まる。
「追え! 逃がすな!」
「早く捕まえろ!」
突如乱入してきた盗賊達に食堂は騒然となっている。ただ事では無いと察したガルドリックは立ち上がると
「なんだてめぇは!」
「構わねぇ、やっちまえ!」
ードガッ! バキッ!ー
小柄なマントの人影を追ってきた盗賊二人を瞬く間にのしてしまった。
「あ、貴方はもしかして銀色の勇者様……でしょうか?」
裏口に向かいかけていた小柄なマントの人影は頭のフードを下ろしてガルドリックに素性を尋ねてきた。
「銀色の勇者様って……ガルドリックさんの事ですか?」
彼と同じく立ち上がって警戒していたエリスフィーナがフードを下ろした小柄な人影に尋ねる。
「はい、そうです。銀の短髪の大きな男性が魔王討伐に向かわれたと王宮で噂されておりました」
フードを下ろした小柄な人影は成人したての少女の様だった。金色のクラウンハーフアップの長髪はかなりサラサラで非常に目立っている。
「すまないが、話をのんびり聞いていられる状況じゃ無さそうだ」
ガルドリックは近付く盗賊達を片っ端から追い払っている状態だった。食堂の中は盗賊達が雪崩込んでおり、最早食事をしていられる状況では無い。
「あいつらの目的はこのお嬢さんだろう。俺は彼女を連れてここを離れる! 皆はとりあえず宿に居てくれ!」
ガルドリックは皆にそう指示を飛ばすと、マントの少女を伴って裏口から店の外へと出ていく。
エリスフィーナがどうすべきかキョロキョロと周りを見回していると
「おい! 獲物が逃げるぞ!」
「エルフの小娘も一緒だ!」
「追え! 捕まえるぞ!」
新たに食堂に入ってきた盗賊達から、立ち去るガルドリック達と一緒の括りにされてしまった。
(わ、私も行かなきゃ……!)
今更無関係なフリは出来なくなってしまったエリスフィーナは慌ててガルドリック達の後を追う事になってしまったのであった。




