夕食
皆が重い鎧を脱いで最低限の装備品のみを身に付けて向かった先は宿屋一階にある食堂だ。
ここでは名物の焼き肉を食べられるとあって宿泊客以外の食事のみの沢山の客の姿で賑わっていた。
しかし、それなりに高価な店だけあってか所謂ゴロツキの様な札付きの悪と見なされる様な雰囲気の悪い者の姿は見当たらなかった。
(…………)
森育ちと言う事もあってか騒がしい環境が落ち着かないエリスフィーナにとってはありがたい環境ではある。
八人で席に着いたガルドリック達の元に店員がやってきてジョッキに入った果実酒から提供を始めてくれた。
準備の早い酒とつまみで場を持たせて欲しいという店からの配慮に
「じゃあ、とりあえず乾杯といくか」
皆を見回してジョッキがいき渡ったのを確認したガルドリックが景気よく乾杯の音頭を取ろうとする。
「そうだな……こうして生きて宿で休める幸せに乾杯といくか」
こうしてエリスフィーナ達は隣同士とジョッキを当て合って互いに乾杯するのだった。
「なーんか、アレだよな〜。いつかは俺もドラゴンスレイヤー、やったぜ!みたいな感じで乾杯したいよなぁ〜」
果実酒をガブ飲みしながらヴァイスが夢を大っきく語る。そんな野心溢れる後進に
「ドラゴン倒したいなら魔術師には気を使っておけ。ドラゴンが空を飛んでる間は戦士は打つ手無しだからな」
ガルドリックが助言をする。彼が話すにはドラゴンは体力がある内は空からブレスで追い払おうとしてくるらしい。まずは敵のブレスを防ぐなり回避する事が第一であると語る。
「次にドラゴンを地上に引きずり降ろす必要がある。そこで魔術師に魔法でドラゴンの羽根を攻めさせてなんとかドラゴンを落とすんだ」
ドラゴンを地上に落とせれば目出度く戦士の出番となる。そこで戦士が突撃する訳だが
「ドラゴンは爪でも踏みつけでも噛みつきでもなんでもやってくる。間違っても単独で突っ込んだりするんじゃないぞ」
ドラゴンは身体構造上小さな人間を直接攻撃するには不都合な身体付きをしている。
まずは手足を攻撃して機動力と戦闘力を奪う。そうなれば後は噛みつきか少ない体力でのブレスのみとなる。
「なるほど! そこでドラゴンの逆鱗ってのを突くんだな?」
どこで聞いたのかヴァイスが常識とばかりにトドメの攻撃を口にする。だが……
「逆鱗は弱点じゃないぞ。むしろ見境なしに暴れ出すから止めとけ」
どこで間違った知識が広まったのか、ガルドリックはきちんと訂正する。
「後はドラゴンとの持久戦だ。頭を攻撃し続けてドラゴンが力尽きるか……冒険者が倒れるか……もしかしたらドラゴンが休戦を申し出てくるかもしれん」
知能が高いドラゴンであれば、ただの殺し合いで終わらず互いの生存の為の休戦を提案して来る事もあるらしい。ガルドリックがドラゴンについて話していると
「お待たせしました〜!」
店員が大皿に盛られた大量の焼き肉をテーブルに置いてきた。どうやらこれらを一人分で取り分けて食べるのがこの店のスタイルであるらしい。
また、店員は数人がかりで次々と野菜やパンの盛られた大皿も続々と運んできた。
周りのテーブルを見てみると焼き肉を単体で食べても美味しく、パンに野菜と挟んでサンドイッチにしてもOKな様だ。
主役である料理が来たことでガルドリックのドラゴンの話はそこで止まってしまい、そこからの話が再開される事は無かった。
この宿屋の焼き肉は名物と持て囃されるだけあって、表面はカリカリ半ば肉汁たっぷりという絵に描いた様な芸術品であった。肉の脂があれば野菜を食べるのに調味料は要らないほどの絶品だった。
「すっご〜い! 美味しいね、これ!」
「……本当に。女神様、私達に日々のお恵みをありがとうございます」
「……これ、どうやって調理しているのかしら?」
エイミー達、新人冒険者女性陣三人は三者三様の反応を見せているがとりあえず気に入って貰えた様だ。
「うめー、こりゃうめーや!」
ヴァイスは焼き肉を両手に持ち次から次へと詰め込んでいる。若く食べ盛りというのもあるだろうがその食べっぷりは野菜星人のそれに近かった。
一方のベテラン勢であるガルドリック、メルティーローズ、クレスの三人もこの店の特製焼肉に舌鼓を打っていた。しかし
「メル、貴女も育ち盛りなんですから彼を見習わないと」
クレスは位置的にメルティーローズとメディナの二人に挟まれており、口数の少ないメディナより慣れたメルティーローズの方によく話を振っていた。
「育ち盛りって何よ? いい加減子供扱いは……」
そこまで話してクレスの言葉の意図に気付いたメルティーローズは
「このノンデリクソ眼鏡! どこ見てんのよ!」
ーバキイッ!
「うぎゃ!」
メルティーローズはクレスの目線から何かを察したらしい。胸を押さえながら放った裏拳はクレスの鼻っ柱を正確に打ち抜いていた。
「んぎゃああっ! 鼻が、私の鼻があっ!」
顔面を押さえながら床を転げ回るクレスにはイケメン優男の面影は全く無い。
そんな賑やかな食卓をエリスフィーナが微笑ましく眺めていると




