公衆浴場
「鎧とか武器とかはそっちの鍵付きロッカーに入れといた方が良いわよ。鍵掛けたら首から下げとけば安心よ?」
そう話しながら、メルティーローズはテキパキと洗濯に出す衣類を脱衣籠に入れていく。
エイミー達も慣れているのか彼女達は衣類を洗濯に出して大浴場へと既に入っていた。
「すみません。鎧外すの時間掛かっちゃって……」
剣も弓も矢筒もあり、女性陣では一人プレートアーマー装備のエリスフィーナは入浴準備に時間が掛かっていた。
「お待たせしました。すみません」
鎧や武器等全てをロッカーにしまったエリスフィーナは衣類を入れた脱衣籠を手にしている。
「それじゃ、行きましょ。あっちが洗濯の受付だから」
同じく脱衣籠を抱えているメルティーローズが先導して洗濯の受付に向かう。
「いらっしゃい。洗濯は一人穴開き銀貨一枚だからね」
洗濯の受付も従業員は近所のおばちゃんと言った風貌の女性達だ。受付し選択し干して乾かすまでが流れ作業になっている。
「よろしく〜」
「よろしくお願いします」
脱衣籠を受付に渡しそのまま二人は浴場へと向かっていく。
ーガララッー
メルティーローズが入口の引き戸を開けると浴室から湯気がモワッと出てきた。
そんな浴場に入ったメルティーローズは辺りを見回し
「さ、身体洗っちゃいましょ。そうしないと何も始まらないものね」
長い赤毛の癖のある髪を揺らしながら洗い場へと向かう。
木製の椅子と桶が並ぶ洗い場には石鹸が置かれており、それを使って身体を洗う事が推奨されていた。
「さ、エリィ。そこに座って。お姉さんが背中を流してあげるから」
メルティーローズは椅子をポンポン叩いてここ座れと合図を送る。エリスフィーナが遠慮がちに椅子に座ると
「それじゃ、頭から洗っちゃいましょーか♪」
石鹸を泡立てたメルティーローズは目の前に座るエリスフィーナを頭から顔、上半身まで丹念に洗い始めた。
「え? あ、あの……ひゃっ!」
顔を洗われて泡で目が開けられないエリスフィーナを理不尽な暴力が襲う。
ーゴシゴシ ムニュー
普通に洗ってるのかと思ったら不意にダイレクトアタックをかましてくる始末である。そんな二人が洗い場でじゃれ合っていると
「おうおう! 他所モンがデカい顔してくれてんじゃねーか!」
「お前等、どこのクランのモンだ! あぁん?」
モヒカンにしてそうな痩せ型と、ツーブロックにしてそうなガタイの良い体格の女の子達が話し掛けてきた。
もしかしたら公衆浴場で必要以上に騒ぎ過ぎてしまったかもしれない。ちなみにここは間違いなく女湯であり混浴では決して無い。
「なによ、私達はただの旅の冒険者パーティーよ。 文句あんの?」
因縁をふっかけられてら黙っていられんとメルティーローズが二人に反論すると
「なんだ、こいつ等野良の分際でデカい顔しやがって!」
「姉御〜! こっち来てくだせぇ〜や〜! ミスズの姉御ぉ〜!」
モヒカンとツーブロックが誰かを呼ぶと赤いチリチリ頭の一人の巨漢が洗い場にやってきた。
「なに? お前等どこクラン? あたしの子分達に何かしたんじゃないだろうねぇ?」
いかにもスケバンですみたいな風体でやってきた巨漢の彼女の威圧感は目が開けられずにいるエリスフィーナにもひしひしと伝わってきた。
『おまえらどこ中?』みたいなノリで絡んできた三人に対しメルティーローズは
ーザバアーッ!ー
「はい、おしま〜い! こんなの相手にしてないで行きましょ?」
エリスフィーナに頭からお湯を掛けるとその場からさっさと立ち去ろうとする。
「あ……」
この時初めて三人組を見たエリスフィーナの感想は
(ここ女湯……ですよね?)
自身の立ち位置の再確認が即時に頭に浮かぶ程の光景だった。
「なんだお前等、逃げんのかよ!」
「あたし達は泣く子も黙る密林の女豹団だ! この街で逃げられると思うなよ!」
モヒカンとツーブロックが立ち去るエリスフィーナ達に名乗りを上げる。
「私達はクランとか関係無いけど、一応勇者パーティーなんだからね! そっちこそ甘く見るんじゃないわよ」
そんな中、メルティーローズはエリスフィーナの手を引いてその場からさっさと立ち去ろうとする。
「メルさん? あの人達、あのままで良いんですか?」
なんだか、話が一段落しないまま無理やり立ち去ったみたいでエリスフィーナがこれで良いのかメルティーローズに尋ねると
「ああいうのは真面目に相手しちゃ駄目。相手しないのが一番なの」
こんな答えが返ってきた。いつの間にか二人は人が沢山居る浴槽エリアに着いていた。
「あ! お二人共〜! こっちこっち〜!」
先に大浴槽に入っていたエイミー達が手をブンブン振って居場所をアピールしてきた。
「さ、気を取り直してあったまりましょ♪」
メルティーローズは相変わらずさっきの事はまるで気にしていない様にして浴槽の中を三人組の下へと歩いていく。
「メルさん、あの……」
周りを確認しながらエリスフィーナが後を付いて歩いていると
「心配しないで。あの子達にもちゃんと話しておくから」
メルティーローズはエリスフィーナに振り返りながら人差し指を立てて見せて心配要らないとアピールするのだった。




