待ち伏せ
一方、森の中茂みの中に身を潜めて獲物を待っていた集団は予想外の敵の反応に面食らっていた。
「射撃止め! 撃つのをやめろ! 俺達が斬り込むから撃つな!」
茂みの中でリーダーらしい髭面の中年男性が仲間に叫ぶ。彼の中では完全な奇襲となった初撃で前衛の見張りを仕留めて混乱させる算段だった。
しかし、見張りの二人はこちらの奇襲を予見したかの様に第一撃を避けてしまった。リーダーの目論見であった初撃で混乱させて押し切る方法はすっかり頓挫してしまった。
「どうなってんだ? 俺達の事バレてんのか?」
奇襲したと思っていた絶対的優位が揺らいだ瞬間、リーダーの判断には迷いと混乱が生じていた。そして次の瞬間には
ーゴオオオオッ!ー
魔法の火球が放物線を描いて彼らの頭上に向かってきた。
「うわああっ!」
「逃げろ!」
「こっちに来るぞ!」
同じ様に茂みに潜んで突入の機会を伺っていた仲間達が自分達目掛けて飛んでくる巨大な火球に逃げ腰になっている。
「狼狽えるな! 弾速は遅い、軌道を見て範囲外に逃げろ!」
リーダーが慌てる部下達に指示を飛ばした次の瞬間
ーバッ! ババババババッ!ー
巨大な火球が無数の小さな火球に分かれ待ち伏せをしていた部下達の頭上に降り注いだのだった。
ードドドドドォーン!ー
「ぎゃあ!」
「ひいっ!」
「熱い!」
「うわあっ!」
小さな火球は威力こそ小さいが彼等を無力化させるには十分な効果を発揮していた。
「くそが! こうなったら獲物だけは頂いて帰るぜ! 野郎ども! お宝を生け捕りにしろ!」
難を逃れた髭面の男が他にも動けそうな部下達に命令を下す。
「うおらあっ!」
「逃がすな!」
「捕まえろ!」
火球からなんとか逃れた男達が短剣を手に伏せているはずのエリスフィーナとエイミーに襲いかかる。だが
ードスッ!ー
「ぎゃあっ!」
先頭の男の肩口に矢が刺さる。エリスフィーナは伏せた体勢から弓を水平に持ち何とか反撃を試みていたのだった。
「怯むな! 連射は出来ん、数で圧しろ!」
リーダーが動ける部下達に指示を続ける。彼の声は街道の反対側にも届き
「今、捕まえてやる!」
「相手は小娘二人だ!」
「挟み撃ちだ!」
革鎧に身を包んだ盗賊風の男達がエリスフィーナとエイミー
に殺到する。
「エリスフィーナさん、どうすれば……?」
立ち上がったエイミーが同じく立ち上がって弓から細剣に持ち替えているエリスフィーナに尋ねる。
「エイミーさんは皆のところまで後退して下さい! 私が敵を引きつけます!」
エリスフィーナは左右から迫る盗賊団を見ながらエイミーに叫ぶ。
そして後方に駆け出したエイミーと入れ替わる様に
「エリス、こっちは任せろ!」
救出にやってきたガルドリックが間に合い向かってくる盗賊団の数人を大剣の腹でまとめて薙ぎ払った。
ードガアッ!ー
「ふぎゃあっ!」
「うぼろあっ!」
「はぎゃあっ!」
勇者の大振りの大剣をその身に受けた盗賊の男達は成す術無く薙ぎ払われていく。
「数ではまだこっちが上だ! 大男はほっとけ! 狙いはハイエルフだ! 怯むな!」
盗賊団の髭面リーダーがエリスフィーナに団員を向かわせる。
「見ろよ! まだガキだぜ!」
「たっぷり可愛がってやらあっ!」
「ヒャハハハハァーッ!」
三人の盗賊達が短剣を手に同時に襲い掛かってきた。
「はあっ!」
ースパアァーン!ー
「おわっ!」
「ぬおっ!」
エリスフィーナは彼等の短剣をしゃがんで避け、その場で身体を勢いよく一回転させた足払いを盗賊達に繰り出した。
二人を地面に倒したエリスフィーナは今度は立ち上がりながらの後ろ回し蹴りを盗賊の一人の土手っ腹に叩き込む。
「たあっ!」
ードゴオッ!ー
「ぐほあっ!」
たかが小娘と侮などっていた盗賊の男は鳩尾に蹴りが入ってその場に崩れ落ちた。
瞬く間に三人が倒されたのを見たリーダーが更に人数で力押しすべく、部下に指示を出そうと周りを見るが
「なんだと!」
突撃をかけていた盗賊達は後方からの多数のマジックミサイルによっていつの間にかその殆どが吹き飛ばされていた。
「く、くそっ! 覚えてやがれ! 退け! 退却だ!」
劣勢を悟ったリーダーは退却を宣言、部下達は散り散りに森の奥へと逃げ出し始めた。
「お前達、何故ここで俺達を襲った? 目的は何だ?」
ガルドリックが早速逃げ損ねた二人の盗賊に目的と真意を尋ねる。彼等はエリスフィーナの足払いで転ばされた二人であり、少々頭を強打してしまったらしく神官ソフィーによるヒールを受けながらの尋問となった。
「俺達ぁ、そこのエルフを捕まえに来てたんだよ。高値で売れる上玉が通るって聞いてな」
「待ち伏せすりゃ簡単だって話だったのによ、話違うじゃねーかよ」
盗賊達は隠すつもりなど全く無いらしくペラペラと経緯を語り始めた。エリスフィーナが目的で自分達がこの街道を通る事……
アトレイスの公都での冒険者ギルドでの滞在中に目を付けられてここで待ち伏せされた……?
ガルドリックはあらゆる可能性を考えてみたが、今のこの場所で襲われたのはたまたまエリスフィーナが目立ったからという偶然の遭遇戦という以外には考えられないと結論づけるのだった。
待ち伏せにしても盗賊達が街道で隊商などを襲うのに待ち伏せするのは珍しい話では無い。
狙われたのがエリスフィーナであるなら、今後は用心していかなければ危険だろう。
「エリス、これからはマントを目深に被っておいてくれ。特に耳は周りから見えない様にな」
ガルドリックはエリスフィーナに今後はなるべく顔を晒さない様に指示を出すのだった。




