違えた道程
エリスフィーナ達がアトレイス公都から隣国に向かっている頃、パーティーから外れたマリアリアはホワイトクラウン国王との謁見を経てホワイトクラウン王国第一王子アレックスと会談するに至っていた。
マリアリアは聖女として王国では人気が高く物腰柔らかで容姿端麗、清楚な彼女はフリーにしておくには勿体ない存在であった。
ガルドリック達勇者パーティーが行方知れずな今、彼等を好きにさせておく理由はホワイトクラウン王国には無い。
少なくとも国王やアレックス王子にとっては、魔王を倒した勇者を擁した王国という正義の体面を維持したい以上、ガルドリック達は捨て置けない存在である。
「聖女マリアリア、君の話だと勇者ガルドリック」達が東へ向かっているとの事だが……どうして分かった?」
ホワイトクラウン王城の執務室、白を基調として訓令を多数下げた軍服を着たアレックス王子が対面のソファーに座るマリアリアに尋ねる。
「女神アルダト・リリー様の啓示です。彼女が私に道をお示し下さいました」
マリアリアがアレックスに咲夜見た夢の内容を語り始める。ガルドリックとマリアリアの子孫か後の世に復活する魔王と戦う勇者となる事。その未来のためならば女神はいかなる協力も惜しまないとの事だった。
この時、天界の女神アルダト・リリーはマリアリアの祈りにいつでも応えられる様、彼女に特別に直通回線を開いていたのだった。
「女神様は私達と共におられるのです。どうか、アレックス様も私に力をお貸し下さいませ」
「まぁ、君の様な美しい女性の頼みを聞くのが嫌な理由じゃないが……これも女神様からのお告げかい?」
アレックス王子が含みのある笑みを口元に浮かべながらマリアリアに尋ねる。
「勇者ガルドリックの確保にご協力頂ければ……女神様の奇跡は思うがままと仰っておられます」
マリアリアが心の中で女神アルダト・リリーに確認を取りながらアレックス王子の質問に答える。
天界の女神がここまで具体的に人間の意向に付き合う事はまず無い。第一、神の力による頻繁な介入は異世界の歴史を狂わせバタフライエフェクトを誘発する要因ともなりえる。
異世界管理課の女神レアであればまず取らない強硬手段なのだ。しかし、自身の残業をいち早く片付けたいアルダト・リリーには手段を選んでいる余裕は無いのだった。
「かつてこの世のどこかには永遠の命を齎すという賢者の石があると聞く。それを頂戴する事も出来るのかな?」
アレックス王子はこの異世界でも伝説の存在とされている賢者の石についてマリアリアに尋ねる。すると
「……思いのままです。アレックス王子」
アルダト・リリーに確認したマリアリアの口から了承の返事と共に
ーパアアアアッ!ー
眩い光がマリアリアの手から発せられ、光が収まったその手には七色に光る小さな石が握られていた。
「そ、それは……賢者の石? まさか、本当に……!」
アレックス王子が賢者の石に触れようとすると
ースゥ……ー
マリアリアの手から賢者の石は透き通る様にその姿を消してしまった。
「お渡しするのは勇者ガルドリックを確保してからです」
マリアリアのその言葉にアレックス王子は素直に従う以外の選択肢は無くなってしまった。
今の今、目の前で賢者の石が現れる奇跡を目の当たりにしてしまった以上、マリアリアを疑う事は出来ず彼女の機嫌を損ねる訳にもいかない。
こうして欲に囚われたアレックス第一王子と彼の権力を手中に収めたマリアリアによるガルドリック達への追跡劇が始められるのだった。
アトレイス公都を出て一週間、隣国であるローランド王国との国境が見えてくる頃である。
エリスフィーナ達勇者パーティーに新人四人を加えたメンバー達は周りが山に囲まれている小さな平原に差し掛かっていた。
「アトレイス公国を抜ければ、流石にホワイトクラウン王国の手はまだ及んでいないだろう」
先頭の見張りをエリスフィーナとエイミーの二人に任せているガルドリックが他のパーティーメンバー達に今後の行動指針を語る。
これまで強行軍を続けてきたガルドリック達には、仮にホワイトクラウン王国が直ぐに追っ手を差し向けたとしてもかなりの余裕があると確信していた。
だから、ローランド王国に無事に入国出来れば改めて宿屋でゆっくり身体を休めるつもりで居たのだった。
「さすがに一週間も宿屋無しは堪えるなぁ〜、柔らかいベッドが恋しいぜ」
ガルドリックに続いて歩いているヴァイスがボヤき気味にソフィーとメディナに話し掛ける。
「そうですね……」
と、ニコニコ顔の困った様な微笑みで相槌を打つ神官ソフィーと
「こんなの冒険者なんだから当たり前じゃない」
と、皆疲れてるんだからつまんない事ボヤくなと塩対応バリバリなメディナの反応が返ってきた。
そんな若い冒険者達の初々しいパーティー模様に
「どうです? メルさんも少しは懐かしさを感じるんじゃありませんか? 貴女、様々なパーティーを渡り歩いていたと豪語されていましたよね?」
訳知り顔のクレスが眼鏡をクイクイ動かしながらメルティーローズに話し掛ける。
「なんか煩い! ウザいわよセクハラ眼鏡!」
ーバキイッ!ー
「ふげえっ!」
躊躇無しの理不尽な鉄拳がクレスの横っ面を襲うのだった。




