方針決定
「あの、弓矢って使うの難しそうですけど……もし練習するとしたらどうすれば良いですか?」
エリスフィーナがエルフと人間の種族の差を再認識しているところにエイミーがさらに戦い方に関する質問を掘り下げてきた。
「え、え〜と……最初は軽くて力も要らない短弓から始めてはどうでしょう? 的もなるべく近くから始めるのが分かりやすいと思います」
自分の得意分野だからかエリスフィーナも幾分緊張が解けて饒舌に話せる様になっていた。
彼女が言う練習法は単なる父親からの受け売りとはなるのだが……
「短弓かぁ〜、ゴブリンみたいでなんかやだなぁ〜」
エイミーは短弓が持つイメージをそのまま語る。確かに短弓は非力なゴブリンが使ってくるイメージが冒険者界隈では一般的だ。
「短弓は威力と射程では劣りますが、手数に優れ疲れにくい利点があります。最初に練習がてら使うには最適だと思いますよ」
短弓は盾等で簡単に防がれてしまうが、毒を併用したりする事で騎乗したフル装備の騎士ですら打ち倒せたりするので決して侮れない武器ではあるのだ。
「それにしても、あんたエルフなのに随分人当たり良いんだな。意外だぜ」
エイミーとの会話を横で聞いていたヴァイスが感心したように感想を述べてきた。
「ホントだよね〜。私、無視とかされちゃったらどうしようかと思ってたもん。あ〜、良かったぁ〜」
ポニテのテールをプラプラさせているエイミーがヴァイスとエリスフィーナを交互に見ながら率直な感想を語る。
「ところでエリスフィーナさんっていくつなの? 私は達は皆、十五なんだけど……」
「……私は十六です」
知り合ったばかりの相手に年齢を聞いたりするのは十代二十代でよく見る光景だ。若い時代の一歳差はかなりの違いが出てくる。
先輩後輩、親分子分、ガキ大将とその腰巾着等子供同士特有ヒエラルキーの判断材料となるからだ。
「え、嘘! 私達とそんなに変わらないじゃな〜い」
エリスフィーナの年齢を聞いたエイミーが素っ頓狂な声を上げた。
いくら身体の成長が人間と変わらないと言ってても百歳未満のエルフが人間世界に出てくるのは非常に稀である。
元々が森から出てこない上に子供を授かる機会の少ないエルフだけあって、子供は非常に大事に育てられるのだ。元から人間世界に生まれたハーフエルフはその限りでは無いが……
エリスフィーナ達の会話を聞いていたガルドリックが冒険者ギルド内の周囲の様子が気になったのか
「エリス、こういう場所では年齢についてはあまり話さない方が良い」
そう話すガルドリックにエリスフィーナが首を傾げていると
「冒険者ギルドはならず者の集まりだ。新人冒険者を騙そうとする奴なんか腐る程潜んでいる」
ガルドリックの話はエリスフィーナはまだピンと来ていない様だが……
「それに十代のハイエルフなんて世の中には中々居ない。おまけに……君はその……器量が良いからな。
気を付けるに越した事は無い」
言葉を選びながら話すガルドリックが伝えたかった事は、世間知らずなお嬢様気質のエリスフィーナに対する注意喚起だった。
「は、はい。分かりました……」
素直に答えるエリスフィーナだが、ガルドリックの話は最後まで聞いてもイマイチピンと来ていなかった。
森から出たばかりの彼女には、自身が人間世界ではいかに高価な商品となりえるか、金の為なら悪事に手を染める事など厭わない人間がいかに沢山居るのかを実感として理解するにはエリスフィーナには人間社会での経験があまりに少なすぎたのだった。そんな会話をしているエリスフィーナ達の横で
「成人したてなんてメルおばさんには懐かしいんじゃありませんか?」
ーバキイッ!ー
「あたしだってまだ十代なんだから! おばん呼ばわりすんな! セクハラ眼鏡!」
クレスの一言にメルティーローズが裏拳で対応していた。こうして冒険者ギルドでの宴会は夜へと続いていくのだった。
宴会も宴も酣となってきたところで
「あの、勇者様? 実は折り入ってお願いがあるんですけど……」
こう切り出してきたのはエイミーだ。もしかしたらお願いがあってガルドリック達を食事に誘ったのかもしれないが
「俺達はホワイトクラウン国王から不興を買っている。俺達とはあまり関わらない方が良い」
ここでガルドリックは初めて自分達がホワイトクラウン王国から追われているかもしれない事をエイミー達に明かした。
勇者パーティーがホワイトクラウン王国から追われているなどエイミー達には想像も付かない様だったが……
「俺達、皆で一流の冒険者になりたいんだ! だから、俺達に色々教えて欲しいんだ!」
リーダーであるヴァイスが迷いながらも切り出してきた。魔王を倒した英雄に師事出来る機会など滅多には訪れない事だけに彼等にも強い想いはあるのかもしれない。
「…………」
ガルドリックは少し考え始めた。彼等を連れて旅を続けるのは彼等にとっても危険だし彼等もトラブルに巻き込んでしまう可能性がある。
しかし、彼等が魔石鉱山での遭難をしていた事を考えるとこのままではいつか同じ事を繰り返して若い命を散らしてしまうかもしれない。
純粋に教えを乞いに来てるのに無碍に突き放しては……迷うガルドリックがふと似たような立場のエリスフィーナを見ると
「は、はい? な、なんですか?」
視線に気付いたエリスフィーナが慌ててガルドリックに尋ねてきた。
(後進の育成……やってみるか)
このまま遠く離れた他国へ逃れれば逃亡生活は終わらせる事が出来るかもしれない。
「分かった。俺で力になれるかは分からないが……君達に色々と教えていこう」
ガルドリックからの了承の言葉に若い冒険者達から歓声が上がるのだった。




