新たな旅立ちの朝
翌日、エリスフィーナの自宅でゆっくりと睡眠を取った勇者パーティーメンバーは起床と共に旅立ちの準備を始めていた。
行き先は緩衝地帯を東に抜けた先のアトレイス連邦になる。しかし、今のガルドリック達は王国の許可なく国境を越えた身である。
平時であれば一冒険者の国境破りなど数ある犯罪の中の一つでしかないのだが、今のガルドリック達は魔王討伐の事実を抱えたお尋ね者である。
さすがに他国への強権発動はホワイトクラウン王国も望む所では無いだろうから、アトレイス連邦に入り込めればひとまずは安心と言えるだろう。
「エリィ? 準備終わった?」
全身赤の衣装に身を包んだいつものメルティーローズが声を掛けてきた。
「はい。大丈夫です」
返事をするのはこちらも青のワンピースに白を基調としたプレートアーマーを身に着けたエリスフィーナだ。
準備を終えた二人が一階のリビングに降りると
「よう。準備はできたみたいだな」
「これからまた長旅となりますからね。旅の用意はよろしいですか?」
二人を出迎えたのは勇者パーティーの男性陣二人である。彼等の声が届いたのか
「あら〜、おはようエリィちゃん♪ 皆も準備万端みたいね〜♪」
「朝ごはんを用意しておいたからきちんと食べていきなさい。固パンもあるから持っていくと良い」
キッチンからやってきたエルウィンドは鍋を手にしており、香草のいい香りが漂ってきている。恐らくスープを作ってきたのだろう。
一方のアスタルは昨夜に引き続き籠一杯の白パンを手にしている。昨日クレスに持ち上げられたからか非常に気合が感じられた。
「朝に食べやすいものを用意したからきちんと食べていってね〜?」
エルウィンドがテーブルの中央に鍋を置くと周りに取り皿をエリスフィーナが並べていく。
両親二人に勧められるまま席に着いたガルドリック達は
「さぁ、どうぞ。めしあがれ〜♪」
エルウィンドの声に促されるまま、穏やかに朝食を始めるのだった。
「あと、これは人間達に教わったハードタックだ。持っていきなさい」
アスタルは布で包んだ固パンをパーティーの皆の前に配っていく。
保存性が高く携帯性に優れているハードタックは冒険者の必需品である。
「独自のハーブを加えてあるから独特の匂いはするが、虫除けだから心配は無い」
軽く香草の匂いがするが、それは虫除けを狙ったものであるらしい。大航海時代等にも使われた固パンだが、長い航海では虫が湧くのが定番であり虫を払って食べなければならないという過酷な環境であった。
そういった手間や心労を避けられるなら非常にありがたい話となる。
一週間街に立ち寄れない事も珍しくない冒険者にとってハードタックは必需品と言える。
「ママからも皆さんにお裾分け〜♪」
そう話すエルウィンドが人数分の小袋をテーブルに置いた。
「あの〜、これは?」
メルティーローズが袋をつまみ上げエルウィンドに中身を尋ねる。すると
「ほう、これは貴重品と名高いエルフの実ではありませんか」
既に袋を開けて中を確認していたクレスが驚きの声を上げる。
「それって……栄養抜群で長持ちする上に体力魔力が回復するって貴重品じゃない!」
エルフの実は実と言われながらも、実体は核果の種である。クルミやアーモンドに近いソレは森の精霊ドライアードの影響を色濃く受け継いでいて様々な効能があるとされ、人間の国では高値で取引されている自然の回復アイテムである。
「そうですね。それに香ばしくて……中々味しいですよ、コレ……カリッカリッ!」
ーパシィーン!ー
「貴重品をソッコー食うな!」
味見をするクレスとそれをひっぱたくメルティーローズの賑やかなやり取りで和やかな笑いに包まれながら穏やかな朝食の時間は終わりを告げるのだった。
「それじゃ行ってらっしゃい。気をつけてね」
「困った事があったらすぐに帰って来るんだぞ。パパ達はいつでも待っているからな」
両親二人に見送られたエリスフィーナは二人としっかり抱き合いながら
「パパ、ママ……行ってきます」
出発の挨拶を口にする。今回は魔王討伐の様な特別な使命がある訳では無いが……。
「もし王国の人達がここに来ても、あなた達の行き先は知らないって伝えとくから安心して♪」
エルウィンドが自信たっぷりにエリスフィーナ含めたガルドリック達勇者パーティーに声を掛ける。
「まぁ、それ以前に里に入れないとも思うんだが……」
エルフの里は精霊神のお膝元でもあり、精霊神の許しが無ければ何人も里に立ち入る事は出来ない。
「長老達には私達からも話しておく。何も心配しなくていい」
「エリィちゃん、ユニコーンを悲しませる様な事はしない様にね。 ハイエルフとしての掟……忘れちゃ駄目よ?」
「はい。……大丈夫です。行ってきます……!」
両親二人に手を振ってエリスフィーナは勇者パーティーの皆の後に続いて里の出口へと向かっていく。
こうしてエリスフィーナの短い帰郷は幕を閉じたのであった。
街道に出るまでエルフの森を進んでいたエリスフィーナの耳に
ーパカラッ……パカラッ……パカラッ……ー
聞き慣れた蹄の音が聞こえてきた。振り返るとそこには
「ブルルルル……」
ユニコーンが息を切らせて立っておりエリスフィーナが振り返るなり頭を突きだしてきた。
まるで行かないで欲しいと懇願する様に半ば強引に頭を委ねてきている。
「すみません……。でもいつか必ず帰ってきますから……どうか良い子で待っていて下さい」
ユニコーンの気持ちを察したエリスフィーナはユニコーンを宥めながら優しく撫でる。




