束の間の休息
お風呂から上がった女性陣と入れ替わりで男性陣がお風呂で汗を洗い流す最中、女性陣のエルウィンドは引き継いだ料理の仕上げを行いエリスフィーナはその手伝いをしていた。
ーボオオオオッ……ー
お風呂場に引き続き未だに働かされている竈門の中のサラマンダーを見たメルティーローズは
「あなたも大変なのね……。さっきは疑っちゃってゴメンね〜」
ほんの少しの憐憫の情を火の精霊に抱いていた。
「あぎゃ……」
サラマンダーは少し達観した面持ちでメルティーローズに返事を返すと諦めた様に竈門の中で丸まっていく。
森の民であるエルフは火を忌み嫌うものとばかり思っていたメルティーローズにはブラックな環境で懸命に生きる様なサラマンダーの姿は意外そのものだった。
「あの〜すいません。エルフの方達って日が苦手なのかな〜って思ってたんですけど……」
疑問は直ぐに口に出す系女子のメルティーローズはサラマンダーについてエルウィンドに尋ねてみると
「そうね。確かに火は使い方を誤れば一夜で森を焼き尽くしてしまいかねない。でも、恐れるばかりでは何も変わらないわ」
エルウィンドはそう言うと竈門に手を伸ばしサラマンダーを招き寄せる。そして腕を伝って肩にサラマンダーを乗せながら言葉を続ける。
「こうして接点を増やして互いに分かり合おうとすれば……お互いにその気持ちがあれば分かり合えるもの」
「あぎゃ!」
エルウィンドとサラマンダーの心はメルティーローズの目にも確かに通じ合っている様に見えた。先程のお風呂でも今のキッチンでもサラマンダーは使役されているのでは無く、自発的にお手伝いをしている……そんな微笑ましい光景に見えてきていた。
「サラちゃん、ご飯出来たから男共をお風呂から上がらせてきてちょうだい」
「あぎゃ!」
エルウィンドの依頼にサラマンダーは即答で浴室の方へと飛んで行った。そして
「あちゃちゃちゃちゃ〜!」
「あづっ!」
クレスとアスタルの悲鳴が直ぐに飛んできたのだった。
「いやいや、参りましたよ。お父様と親睦を深めていたらお風呂がグツグツ言い出すとは思いませんでした」
未だに身体から湯気を漂わせている賢者クレスがさっきのお風呂場での惨状を語り始めた。
「まったくだ。お風呂終了にはまだ時間があったはずなんだが」
父親のアスタルも腑に落ちない様子でエルウィンドに尋ねるが
「お料理が出来たんですもの。早く美味しい状態で食べて頂きたいじゃない?」
エルウィンドはあっけらかんと答えるのみ。クレスとガルドリックの二人はこの時察したのである。
『この家ではエルウィンドが主である』と。
こうして始められたエリスフィーナの実家での夕食だが
「精霊神様が仰っておられたぞ。勇者様が魔王を見事打ち破ってみせた……と」
「エリィちゃんも帰ってくるって仰ってたからママもすっかり安心しちゃってね……」
そこまで話で両親二人が勇者パーティーに気を使う様な歯切れの悪い素振りを見せてきた。それに気付いたクレスが
「勇者パーティーのメンバーも色々ありましてね。袂を分かった人も居るんですよ」
眼鏡のズレを中指で直しながら両親二人に説明する。魔王とな戦いでエリスフィーナ達が仲間を失った訳では無い事が分かると二人はようやくお祭りムードに空気を変えてきた。
「まぁ、冒険者だから目的を果たせば道が別になるのも珍しくは無いしな!」
「そうそう、エリィちゃんにはこれからも沢山の出会いが待っているんだから! 皆さんもうちの子をこれからもよろしくお願いしますね〜」
魔王殿戦いで戦死者が出なかった事は本当に不幸中の幸いだった。誰が死んだとしても後味の悪いものに変わりはないからだ。
キリヤ王子が行方不明なのはあるが、彼の場合は一人で先に逃げてしまっただけである意味勝手なパーティー離脱に近い。
マリアリアに関しては途中からのパーティー内での不和であり、ある意味音楽性の違いによる脱退に近いものがある。
そもそも、別れたのが危険なダンジョンとかでは無く王国軍の野営地なのでダンジョン奥地で悪意МAXで放り出した訳でも無いのだからガルドリック達が責任を問われるのは無理があるはずだ。
そんな別れた二人の事など無かったかの様に両親二人の関心事は愛娘エリスフィーナの活躍具合についてだった。
「うちの娘はどうでしたか? 皆さんの負担になっていなければ良かったのですが……」
父アスタルが誰にともなく娘の働きぶりを尋ねる。すると
「エリィちゃん、勇者パーティーに参加したばかりとは思えない活躍でしたよ〜。水の竜巻で雷撃魔法防いだりとか水の盾で爆発魔法防いだりとか」
メルティーローズがまるで自分の手柄の様にエリスフィーナの働きを自慢気に語る。
「魔王戦の時も極大爆発魔法の爆風を逸らしたりしてましたからねぇ。あれが無かったらどうなっていた事が……」
クレスもメルティーローズと同じ様にエリスフィーナの精霊魔法についていかにパーティーに貢献したかを語る。
「…………」
一方、話題の中心に祭り上げられたエリスフィーナは顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯いている。




