ちょっとした帰郷
エルフの里に入った勇者パーティーはエリスフィーナ先導の元彼女の自宅に向かった。
魔王討伐に出て以来数ヶ月ぶりの帰宅となるが千年単位で生きるエルフ達にとっては数ヶ月など取るに足らない長さなのだが……
ーコンコンー
「パパ、ママ、ただいま帰りました〜」
大木の空洞を利用して作られた自宅の玄関ドアをノックして返答を待つ。すると
「あらぁ〜、エリィちゃん! おかえり〜♪ あら、勇者さん達もいらっしゃい!」
満面の笑みの母、エルウィンドが出迎えてくれた。
「あの、すぐに度にでなくちゃならないんだけど……休んでいっても良い?」
エリスフィーナが遠慮がちに母に尋ねると
「あらあら、いつからエリィちゃんは他人行儀になっちゃったのかしら。ママ悲しいわ〜」
ーグイッ!ー
「ひゃっ!」
エルウィンドは入り口で遠慮がちに話す愛娘をガッチリ掴むとミミックが獲物を丸呑みするかの様にエリスフィーナを自宅に引き込んだ。
「あなた達も遠慮しないで〜。さ、入って〜♪」
エルウィンドがエリスフィーナを拉致しながら後ろのガルドリック達に声を掛ける。
「そ、それじゃ……お邪魔するか……?」
ガルドリックがやや引きながら家の中に入っていくと
「あの子も……苦労してそうね」
メルティーローズが感想を口にしながら後に続く。
「中々面白いお母様ですね。エルフらしからぬ性格をしておいでだ。実に興味深い」
クレスが中指で眼鏡のズレを直しながら最後尾を進む。
こうしてエリスフィーナ達は彼女の自宅にてしばしの休息を取る事になるのであった。
エリスフィーナの自宅では早速食事と入浴の準備が始められた。食事は木の実や野草、狩りをした獲物の肉などを調理したエルフ特有の郷土料理。それに加えて両親が冒険者時代に感銘を受けた白パンを森の外の街道を行く行商人から買い取った材料で作成したパンがカゴいっぱいに準備された。
お風呂に関してはウンディーネにお願いして集めた綺麗な水を浴槽に張り、サラマンダーにお願いしてお湯を沸かして貰ったものとなる。
勇者パーティーの力関係もあり最初は女性陣から入浴、その後男性陣、それから食事という運びとなった。
「いや〜、まさかエルフの里でお風呂に入れるなんて思わなかったわ〜♪」
身体をしっかり洗って湯船に浸かるメルティーローズはすっかりご機嫌である。
湯船には色とりどりの香草が浮かべられており、浴室は森の香りに包まれている。
「人間の世界のお風呂みたいに魔導具で湯沸かしって訳にはいかないけど……お湯加減は如何かしら?」
身体を洗い終わったエルウィンドとエリスフィーナも浴槽に入ってきた。
「あ、大丈夫です。丁度良いお湯加減ですよ〜♪」
メルティーローズの言葉にエルウィンドは呼び出して浴槽の隅に待機させていたサラマンダーに軽く手を振る。
それはお仕事終了の合図なのだがサラマンダーはその場に留まりたいのか丸まってしまった。
「サラマンダー、その場に居続けるつもりね。男の子はこれだから……」
帰らないサラマンダーの様子にメルティーローズが訝しんでいると
「湯気が気持ち良いんだと思います。自然界では中々ありませんから……こういうの」
同じく浴槽に入ったエリスフィーナがサラマンダーのフォローをしてきた。彼女はいつものポニーテールでは無く髪を下ろしてそれを手巾で纏めている最中だった。
「あららぁ〜、純粋なんだからぁ〜。男なんてのはね大体は獣みたいなモンなんだから! エリィもぼやぼやしてたら酷い事になるかもしれないんだからね!」
のほほんとしてるエリスフィーナにメルティーローズが現実の厳しさを説く。すると
「うちのエリィちゃんに手を出そうなんて不埒者はママが許しません! 千年早いって追い返してあげるから!」
愛娘に手を出す奴は見敵必殺とばかりにエルウィンドが拳を握る。武闘派な母親と気が強い友人を前にエリスフィーナは
(キリヤ王子に襲われた事……黙っておきましょう)
触らぬ神に祟りなしとばかりにエリスフィーナはキリヤ王子の狼藉を胸の中に仕舞いながら
(それにしても……彼は何処へ消えてしまったんでしょうか……?)
地下で先に逃げ出したきり、消息不明なキリヤ王子の行方が頭を擡げるエリスフィーナであった。
「う〜ん……おかしいわね〜」
天界でエリスフィーナの異世界の歴史を見ていたレアは、件の異世界で魔王を倒したというのに思った以上の神への信仰心を得られていない不具合にあった。
魔王討伐は天界にとって神への信仰心が沢山集まるボーナスタイムであり書き入れ時なのだ。
その為、勇者による魔王討伐が首尾よく上手くいく様に入念な準備もしてきたつもりだ。
しかし、どういう訳か神を讃えるリアクションが少ないという……大ヒット商品を満を持して大々的に大売り出ししたのに、売り上げがさっぱり上がらないみたいな難事に直面していたのだ。
「はぁ〜……歴史を見直していくしかないかぁ〜。ちゃんとした助手とか欲しいな〜」
異世界を司る全責任を任されているレアはため息をつきながら問題点の洗い出しを始める為に歴史の再確認を始めていくのだった。




