東の国へ
夜中のうちに王国軍野営地を出たガルドリック達勇者パーティーは、街道を避け人家や集落も避けながらアトレイス連邦への旅路を急いでいた。
ホワイトクラウン国境までは数日の予定だが、国境が封鎖されるより先にアトレイス連邦との緩衝地帯に入れるハズだ。
そこからはエリスフィーナの故郷のあるエルフの里の森を通り過ぎればアトレイス連邦まで一直線だ。
しかし、魔王との戦いから魔王軍との戦いを経てここにきて他国への強行軍はパーティーメンバー皆に肉体的精神的なかなりの負担を強いていた。
ホワイトクラウン王国の国境を越えてエリスフィーナの故郷の里がある森をパーティーが通り掛かったその時
「あの……私の故郷に寄っていきませんか? 近くで野営するのでしたらそっちの方が安全ですし……」
近くまで来てるのだから里で休んだ方が安心出来るというエリスフィーナの主張だ。
「しかし、俺達は人間だ。エルフ達は人間にあまり良い印象は持っていないと聞いてる」
ガルドリックが種族の違いから、厄介になる事を避けたい本音を漏らす。
「里の人達はそうかもしれませんが……うちの両親は外の世界で冒険者として過ごしていたと聞いています。だから、大丈夫ですよ……?」
エリスフィーナが両親の過去を説明し、種族の違いによる軋轢は心配しなくて大丈夫と説得する。
「まぁ、当のエリスフィーナが当たり良いんだから大丈夫そうよね?」
メルティーローズが普段のエリスフィーナを参考に両親の人と成りを推察する。
「しかし、ご厄介になるとして……食事はどうなるのでしょう? 私は菜食主義では無いのですが……」
クレスは既に止まるつもりで今日の晩ごはんの心配をしている。
「私達の食事は森の恵みに依存していますが、決して植物のみと言う訳では……」
エリスフィーナが苦笑しながらエルフの里での食事事情を説明する。
エルフの里では農耕は行われておらず、狩猟採集が食材の基本となる。木の実や野草を食べるのはともかく、野生の鹿など子供や親子連れは避けるが、弓矢で狩りをするのも日常ではあるのだ。放置すれば森の恵みを食い尽くされてしまう為、一定量は間引きを兼ねて狩るのも森の秩序を維持するエルフ達の役目なのである。
「それに両親は人間社会の食べ物に抵抗はありませんので……街道に出て行商人から食材を購入したりとかしてますし……」
エリスフィーナの説明を聞いたメルティーローズとクレスの二人はエルフの里での滞在にすっかり前向きな態度を見せている。
「分かった。すまないがエリスフィーナのお宅にご厄介になろう」
流石に三対一で反対する気は無いガルドリックはエルフの里行きを了承する。
「ではこちらです。付いてきて下さい」
エリスフィーナはそう言うと見通しのあまり良くない森の中を先導し始めた。
しばらく森を歩いていると
ーパカラッ……パカラッ……ー
何処からとも無くユニコーンの蹄の音が聞こえてきた。進行方向からやってきたユニコーンはエリスフィーナを見るなり頭を下げてその身体を彼女に委ねてきた。
「ブルルルル……」
ユニコーンは気持ちよさそうにエリスフィーナに頭を預けており、彼女もまたユニコーンを愛おしそうに優しく撫でている。
「わ、私も撫でてみて良い?」
大人しそうなユニコーンに心惹かれたらしいメルティーローズが尋ねてきた。
「いや、貴女男性経験星の数ほど居ると豪語してるじゃないですか。ユニコーンに殺されたいんですか?」
クレスか言い終わるより先にユニコーンはメルティーローズに興味を示し
「ブルルルル……」
簡単に頭を委ねてきた。このユニコーン意外とチョロい。
「ユニコーンの相手はその辺にしよう。エリスフィーナ、先導を頼めるか?」
ガルドリックがエリスフィーナに先導を催促してきた。気がつけば空は夕焼けが終わり、すっかり暗くなり始めていた。
「それじゃユニコーンさん、また後で……」
「またね〜! イケメンのユニコーンさん♪」
ーパカラッパカラッパカラッ!ー
エリスフィーナとメルティーローズに見送られたユニコーンは足取り軽やかに森の奥へと去っていった。ユニコーンと別れたエリスフィーナ達が少し森を歩いたところで
「森の精霊ドライアードさん……。エルフの里のエリスフィーナ、ただいま戻りました。私の大切なお客様も一緒です」
森の中ですぐ前に手を翳したエリスフィーナの指先が緑色の光を放つと
ーパアアアア……ー
森の中に人一人が通れる様な長方形の空間の裂け目が現れた。裂け目の中にはエルフの里が映し出されており、そこに通じているのは一目で明らかだと分かった。
「それでは行きましょう」
エリスフィーナが先に空間の亀裂に入り
「へ〜、こんなふうに守られてるのね」
メルティーローズが感心しながら後に続く。さらに
「最初に来た時はここまで厳重じゃありませんでしたが……」
クレスが初来訪時との違いに首を傾げている。
「あの時は神様からのお呼ばれだったからだろうな」
ガルドリックが自身の考えを口にしながら一番最後に空間の裂け目を潜るのだった。




