嘘と癖
最後の大扉の前で立ち往生しているパーティーの背後からは崩落が刻一刻と迫ってきていた。
扉の向こうに居るはずのキリヤ王子からの応答は無く、このままでは全員の奈落落ちは確定だった。
「メル、貴女はレビテーションが使えたでしょう? 役に立つ時は今ですよ!」
「あんなん、浮遊落下でしかないもの! 滑落死の先延ばしでしか無いわよ! そんならアンタこそソアーウィングでも使ったらどうなの?」
追い詰められたメルティーローズとクレスはなんとか魔法で打開できないかと口論を始めている。もっとも最前を探している暇など今は全く無いのだが……
ーガラガラガラガラ……ー
もうすぐ目と鼻の先まで通路が崩れてしまったその時
「俺が大剣で扉を破壊する! お前達は伏せていろ!」
ガルドリックが物理的な打撃での大扉の破壊を宣言するが
「伏せろってどうやってよ! もうギュウギュウだってば!」
足場は刻一刻と狭まっており全員が伏せて待つスペースすらもう無い。
「仕方ありませんね。メル、私の上で横たわってかまいませんよ?」
「じゃかしいわ! 気色悪い想像すんな! 変態優眼鏡!」
割と余裕がある賢者クレスとメルティーローズの二人。だがガルドリックはそんな二人に気を留める事も無く
「マリアリア、ホーリーウォールを足場代わりに出来るが?」
神聖魔法の光の壁を一次的な足場とする方法をマリアリアに提案する。
「え? ええ……。全能なる慈愛と豊穣女神……」
マリアリアは自身の役目を察したのかガルドリックの提案通りに魔法の詠唱を始める。そして
「ホーリーウォール!」
ーパアアアアアッ!ー
マリアリアが唱えた光の壁は即席の足場となってパーティーの滑落を防いだ。
ーピシイッ! ガラガラガラ!ー
次の瞬間にはこれまで足場だった場所が瓦礫となって落下していってしまった。
「よし、皆伏せろ!」
大剣を抜いたガルドリックは大剣を構えるとそのまま横薙ぎに一閃
ードカアッ!ー
さらに回転の勢いそのままに逆きり上げからの袈裟斬りを放ち
ードガガガアッ!ー
行く手を阻んでいた大扉を事も無げに破壊してしまうのだった。
「よし、急げ! 脱出だ!」
ガルドリックの指示にパーティーの皆が立ち上がり次々と壊れた大扉の隙間から出ていく。
エリスフィーナも脱出しようとするが、皆が一斉に通れる広さは無い。
メルティーローズ、クレス、ガルドリックが出ていきマリアリアが出口に入ると
「エリスフィーナさん? 貴女、私達が婚約しているのは知っているかしら?」
「え……?」
いきなりマリアリアに話を振られたエリスフィーナは一瞬思考が止まってしまった。
「あの、ガルドリックさんとマリアリアさんが幼馴染だとはお伺いしています。お、おめでとう……ございま……」
思考が止まったエリスフィーナが祝いの言葉を考えて口にしたその時
ーフッ……ー
「きゃああああっ!」
足場にしていた光の壁が跡形もなく消え去りエリスフィーナは成す術無く奈落へと落下していく。
「くうっ!」
ーガシッ!ー
寸での所で伸ばした右手が瓦礫の残骸を掴んだが、落下するエリスフィーナに出来たのはそこまでが限界だった。
手に力を込めて上を見上げるエリスフィーナの目に
(そんな……!)
一度目に見た時と同じ冷たい目でこちらを見下ろすマリアリアの忌々しげな表情がそこにあった。
(待って……! 助けて……!)
瓦礫にしがみつくので精一杯なエリスフィーナに助けを呼ぶ為に大声を出す余力は無い。
そして、助けを求めるエリスフィーナに一瞥をくれるとマリアリアはそのまま扉の奥へと消えてしまうのだった。
(今の声は……?)
扉から砂地の洞窟に戻ったガルドリックの耳にエリスフィーナからの悲鳴が届いていた。彼は直ぐに後ろを振り返りすぐ後ろから付いてきているはずの彼女の姿を見るが……
「マリアリア……? 何があった?」
ガルドリックは俯いて顔を片手で覆っているマリアリアに尋ねる。
「あ、あ……エリスフィーナさんが……! ごめんなさい……!」
マリアリアはガルドリックから目線を逸らしながら涙声で声にならない声で泣いている。
「マリアリア、何があった!」
ガルドリックはマリアリアの両肩を掴んで事情を尋ねる。すると
「エリスフィーナさんは間に合わなかった……。光の壁の魔法が消えて彼女は落下してしまったの……!」
そう言うとマリアリアはガルドリックにしなだれ掛かり声を上げて泣き始めた。
「馬鹿な……!」
ーガシッ!ー
「待って! もう間に合わないわ! 彼女はもう落下してしまったの! 戻るのは危険よ!」
反射的に扉の向こうへ戻ろうとするガルドリックをマリアリアが引き留める。
「マリアリア……、君は相変わらず嘘が下手だな。君の嘘は顔に出る……」
ガルドリックがマリアリアに語り掛けた所で
「ちょっと! どうしたの! 何があったの!」
先に洞窟を進んでいたはずのメルティーローズとクレスの二人が戻ってきた。
「こっちもキリヤ王子が行方不明で困っていたところなんですよ」
クレスが中指で眼鏡のズレを直しながら彼等の一大事を語るが
「二人共! ガルドリックを止めて! 彼が落下したエリスフィーナさんを助けに行くって聞かないの! 彼女はもう助からないのに……!」
マリアリアは二人にガルドリックの引き留めに協力する様に説得する。彼女は相変わらず顔を手で覆っているが二人から視線を外さずに涙ぐんだままちゃんと見ている。
「エリスフィーナが……嘘でしょ? さっきまでちゃんと後ろに居たじゃない!」
「ごめんなさい……! 光の壁が保たなかったの! 彼女は助けられなかった!」
メルティーローズの言葉にマリアリアは涙声のまま答える。そして彼女はガルドリックの方を向き
「あなたも現実を受け入れましょう? 彼女は尊い犠牲となったの……。嘘じゃないわ……!」
マリアリアは涙声のまま変わらずガルドリックを真っ直ぐ見据えてくる。それは聖女としての芯の強さを見せようとする信仰の現れと傍目には見えた。




