偽の救い
長い一本道の通路の先にようやく出口となる両開きの扉が見えてきた。
先頭を走っていたクレスとメルティーローズは振り返って後続の皆が到着するのを今か今かとやきもきしながら待っている。そしてマリアリア、キリヤ王子の二人も無事に到達した。
残るはエリスフィーナを抱えたガルドリックだが、彼等の後ろから足場が崩れながら迫っており、ほんの一瞬の油断も許されない状況だ。
だが、ようやくガルドリックがキリヤ王子の目の前まで到達しようかとなったその時
「絶・破裂斬!」
ードガアアアッ!ー
キリヤ王子が双剣を抜いて迷いなくガルドリック達との間の足場を斬りつけたのだった。
「キリヤ王子! 何を……!」
ガルドリックがキリヤ王子に叫ぶも
「何もクソもねーよ。足場が崩れるのを止めるにはこうするしかねーんでね。わりぃな」
ードガアアアッ!ー
キリヤ王子がさらに剣で足場を攻撃し自分の所からガルドリック達を切り離すと
ーボゴオッ! トガアッ!ー
ガルドリック達が駆けている足場は限界を迎えるようにその場で崩壊を始めた。
「これで魔王を倒した英雄の称号は俺のモンだ。現地人が転生者様を差し置いて目立つなんざ百年はえーよ」
キリヤ王子は落下していくガルドリック達に向けて吐き捨てる様に自分の願望を口にする。
「くそっ!」
ーダンッ!ー
一方のガルドリック落ちる瓦礫を足場には思いっきり跳んだがそれでもキリヤ王子の場所まではとても届かず、ガルドリックの身体は瓦礫となった足場と共に奈落へと落下していくのだった。その時
「エリス、歯を食いしばれ」
ガルドリックが抱えているエリスフィーナに声を掛け彼女が言葉の意味を理解する前に
「うおおらああああっ!」
ーブオンッ!ー
ガルドリックはエリスフィーナの身体を力任せに思い切りキリヤ王子達の方に向けて放り投げた。
「ガルドリックさん……!」
エリスフィーナが手を伸ばした時にはガルドリックは瓦礫と共に奈落へと落ちていくところだった。
しかし、エリスフィーナもまだ助かった訳では無く、ガルドリックに投げられた勢いは徐々に弱まっていく。このままでは届かないかと思われたが
ードシャアッ!ー
「うあっ!」
エリスフィーナはキリヤ王子達が居る足場の縁にどうにか着地し手で掴む事が出来た。
「く……くぅ……!」
しかし、指先だけで身体の全重量を支えられる筋力はエリスフィーナには無い。ましてや身体を持ち上げて這い上がる事など到底無理な相談だった。
ーズル……ズル……ー
必死に指先に力を込めて何とか耐えるエリスフィーナだが次第に限界を迎えてきたその時
「早く掴まって!」
エリスフィーナの頭上から誰かの手が伸びてきた。エリスフィーナは最後の力を振り絞ってその手を掴む。
ーグイイッ!ー
エリスフィーナの身体は大きく引っ張り上げられ足場の上に立てる位まで引き上げられた。
「あ、ありがとうございま……」
自身を引っ張り上げてくれたのはマリアリアだった。エリスフィーナがお礼の言葉を口にした瞬間
ーバシッ!ー
自分の手を引っ張り上げていた手から突然振り払われたエリスフィーナの身体は支えを失い急速に仰向けに倒されていく。
(そんな……どうして……?)
咄嗟に言葉は出なかった。しかしその顔に言葉は表れていたのだろう。マリアリアが冷たい目でエリスフィーナを見据えながら
「ガルドリックを犠牲にしたあなたが助かるなんて許さない。むしろあなたが地獄へ堕ちるべきなのよ」
忌々しげに吐き捨てられた言葉と共にエリスフィーナの身体は奈落へと落ちていく。そんなエリスフィーナの視界には闇が広がっていくのだった。
(え……!)
自らの死を覚悟したエリスフィーナが次に気が付いたのはガルドリックに抱えられて広場から通路を走り始め出口に向かい始めたその時だった。何が起きたか分からずエリスフィーナはさっきまでの記憶を思い出す。
(さっきは確か……)
エリスフィーナはこのまま進むとガルドリックと共に奈落へと落下しガルドリックが自身と引き換えにエリスフィーナを助けようとしてくれる事。
その後、助かる寸前にマリアリアに故意に奈落へと落とされる事まで思い出せていた。
なぜ自分がそんな先の事が分かるのか?
予知夢や精霊神の知らせの様なものかとも考えたが、それが何なのかはエリスフィーナには知る術は無かった。
(なんとか……あの結末を変えないと……)
しかし、今のエリスフィーナに出来る事は少ない。弓矢は使えるがガルドリックに抱えられている今の自分は身動きすらままならない。精霊に頼ろうにもウンディーネの呼び水となる革袋の水は魔王戦で使っており、今は呼び出す事が出来ない。
風の精霊は閉鎖空間である地下空洞では自然風は無い。それなりの風を起こすには魔術師の協力が無ければ不可能だ。
エリスフィーナが自分に出来る事、不幸な未来を回避する方法を模索している内に運命の分岐点は刻一刻と近付いていた。
先を走るキリヤ王子が立ち止まってエリスフィーナ達の方を向く。ここからは彼が双剣による技を通路に叩きつけてガルドリック達を見捨てる流れとなる。前回はされるがままに状況を眺めるしか出来なかったが……
(これは……きっと精霊神様がお授け下さった奇跡……!)
エリスフィーナは二度目となる自身の運命を帰るため、自分に出来る事をするべく決意するのだった。




