旅立ちの日
精霊神が直接管理しているエルフの里にやってきた勇者一行達は長老達と会談をしている。
勇者一行達は戦力増強の一助として王国から遣わされた……と言う事なのだが、魔王を倒す為の仲間と言ってもRPGゲームではないので皆がネームドキャラであり、誰もが仲間となれる世界である。
そんな中でわざわざ新人以下の実績しかないエルフであるエリスフィーナに白羽の矢が立ったのは、要は魔王に抵抗する意思を示したエルフの象徴という目立っシンボルが欲しいだけなのだ。
伝説の存在であるハイエルフが、自ら敵陣に赴く……そうなれば世界各地の森で暮らす態度を決めかねているエルフ達も対魔王の戦いに強力してくれるだろう。
そういう様な打算に裏打ちされた上でのエリスフィーナの勇者パーティーへの参加要請であった。
「それで……勇者殿は馬鹿正直にそこまでご説明なされて我々が彼女を差し出すとでもお思いか?」
長老の一人が勇者と称される人間の大男の一人に棘のある言い回しで食って掛かる。ハイエルフは長老達にとってもエルフの里に安寧を齎すとされている重要な存在なのだ。
何しろ存在自体が伝説であり、僅かな文献と口語でしか伝えられていない存在なのだ。エリスフィーナがハイエルフとして認められているのも、他のエルフ達と明確に違う髪色が文献に記された特徴といっちするから……。もちろんそれだけでは無いが、見た目で判別出来る違いがあるのは他者への説得力という点で非常に大きい。
「こっちとしては、大事なエルフのお嬢さんを無理やり連れて行くつもりは無い」
勇者とされる大男は二十代半ばか後半位のベテラン冒険者と言った風体だ。
背中に担がれている無骨な大剣と全身鎧、草臥れたマントが彼の実力と経験の深さを裏打ちしていた。
「だが、俺達はちんどん屋じゃないしお嬢さんお付きの召使いでもない。礼儀は弁えてるつもりだが、御嬢様扱いは出来ないし命の保証も出来ないって事だ」
勇者は自身の正直な胸の内を明かしてきた。彼が言うのはエリスフィーナを勇者パーティーに同行させるなら覚悟をして欲しいという事なのだ。
国王からの手紙に書かれている美辞麗句は抜きにして、仮に精霊神とやらの思し召しだとしても命を奪われる危険のある旅にエリスフィーナを同行に差し出す覚悟を、彼は長老達に問うていたのである。
「しかし精霊神様のお話では彼女を送り出せと……」
「しかし、こんな者達に命を預けて良いものか?」
「しかも、理由が見世物同然ではないか!」
「他のエルフの集落に協力を呼び掛ける為だけなど……我等を見くびっておる!」
「協力を申し出るなら国王直々に精霊神様に直談判されれば良いのだ!」
長老と里の有力者達の意見は門前払いで一致だった。早い話がおらが村一番の器量良しをどこぞの馬の骨に渡してたまるかというだけである。
「まぁ、ここで我等だけで語り合っても話は進みますまい。ここは本人に来て貰って……」
最終的にはエリスフィーナに判断を任せるという流れとなっていたが、その時
「あんたら、ちょっと良い? 王家の者ならここに居るんだよね。それでも駄目って言う訳ぇ?」
勇者パーティーの中から現れたのは黒いマントに黒ずくめの上下を着た黒髪の少年だった。
「キリヤ王子、今はお控えになられて下さい。そういう話ではありませんので」
勇者の大男が後から出てきた黒髪の少年を嗜める。確かに本人に判断を任せようという流れになっているのに今更感がある。しかし
「ご自慢のハイエルフさんを僕達のパーティーに入れてください。おねしゃーすっ」
キリト王子はふてぶてしい態度でエルフの長老達相手に頭を下げるのだった。
一方、その頃……エルフの長老達と勇者達の険悪な空気の長老の家での空気とは裏腹に、精霊神様のお告げの時がついにやってきたと、エリスフィーナ宅では娘の晴れ舞台がやってきたとお祭り状態だった。特にアスタルとエルウィンドの夫婦二人が。
「エリィちゃん。ほらほら、早く! こっちにも装備あるんだから♪」
エルフの里では色彩的に珍しい青いワンピースと白いニーソックスとブーツを身に纏ったエリスフィーナは母親に言われるがまま、これもエルフの里では珍しい白い金属製のプレートメイルを装備させられていた。
「いや〜ん、ピッタリぃ! 顔見知りのドワーフさんに頼んでおいて良かった〜!」
「ママ……この服って……?」
母親のテンションとは裏腹に目に見えてテンション急降下中なエリスフィーナが母親 エルウィンドに尋ねると……
「エリィちゃんの晴れの舞台だもの! パパもママもずっと頑張ってきたのよ〜!」
エルフらしからぬ派手な配色の装備品を着せられたエリスフィーナは苦笑いで心底落ち込んでいた。例えるなら学校の運動会で上下新品のジャージを着せられ靴まで新品にされているのに近いだろう。
「実はねママもパパも海っていうのを見た事が無くてね。エリィちゃんには是非ともそれを見てもらいたくって♪」
本気で喜んでいる母親を前にしたエリスフィーナは自身の意見を必死に飲み込み続けるのだった。
「エリスフィーナ、これがお前の武器だ。これもドワーフさんに見てもらった特別品だぞ」
父親がエリスフィーナに手渡してきたのは細みで取り回し易そうな小剣と長弓よりやや小振りな弓と矢筒だった。
「その服、似合ってるぞ。長老様が呼んでる。行って勇者達に御挨拶してきなさい」
やはり父親もエリスフィーナの気苦労などどこ吹く風で、彼女の気持ちを慮る素振りすら無かった。




