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約束の日

 精霊神のお告げの日から十六年、生まれた赤子は立派に成長しており十五で成人とされる人間達と遜色ない位に成長していた。

「エリスフィーナ! ユニコーンの背から的をよく狙え!」

 エルフの里の森の中で金髪の少女が白馬なユニコーンに跨ったまま弓に矢を番えて小さな的に狙いを付けていた。

 ジャパニーズ流鏑馬的な訓練ではあるが、不安定な場所で矢を番え構えて狙いを付けて撃つ高度な訓練だった。

 ハイエルフの名前がローデンフェルトアレクサンドル某にならず短く纏ったのは母親のマタニティハイが切れたからなのだろうか。


ードスッ!ー


 木々の中を走るユニコーンの背からエリスフィーナが放った矢は立ち並ぶ木々をすり抜けて狙った的に寸分違わず命中していた。

 愛娘の成長を的の上の木の枝から見守っていた父アスタルから

「よし、よくやった。実戦では狙いを付ける時間も射線も限られてると思え! 後は仲間と声で連係するんだぞ!」

 アスタルはユニコーンで森を駆け抜けていくエリスフィーナに冒険者としての心得を再三再四にわたって繰り返し教えてきた注意事項を彼女の背中に投げ掛ける。

(パパは心配性なをだから……)

 幼い頃はパパっ子だった彼女も成長する娘の例に漏れず軽い自立心が芽生え始めていた。


ーパカッパカッパカッ……ー


 そんなユニコーンが森を抜けるとその先の広場では木剣を携えた女性が待ち構えていた。

「エリィちゃん。今度はママの番よ」

 待っていたのはエリスフィーナの母であるエルウィンドだ。彼女達はエリスフィーナが生まれる前は外の世界で冒険者として生きてきた。

 だからという訳ではないが、両親達は

自分の得意分野を娘に叩き込んでいる訳である。

 木剣を構えたエルウィンドは緑色のシャツとスカートにレザーブーツという格好であり娘のそれと大差は無いため見た目的にも同年代にしか見えない。

「たあっ!」

 エリスフィーナが先に踏み出し右手で突きを放つ。


ーカーン!ー


 エルウィンドは突きを木剣で受け流しながら、勢い良く突っ込んできた娘の腹に膝蹴りを繰り出す。


ーバシッ!ー


 エリスフィーナも左手で膝蹴りを受け止めつつ、突きを放った右手をそのまま左に薙ぎ払う。


ーカーン!ー


 エリスフィーナの左薙ぎ払いはエルウィンドが突きを受け流した木剣を再度叩くだけの結果となったが、膝蹴りを出していた彼女の体勢を崩す効果はあった。

「たあっ!」


ースパアァン!ー


 左薙ぎ払いを止められたエリスフィーナがしゃがんで足払いを掛けるが


ーダンッ!ー


 エルウィンドはバランスを崩しかけた体勢から片足で跳躍し空中で体勢を整えると足払いを放ってしゃがんだ体勢となっていたエリスフィーナの頭上に木剣を振り下ろす。


ーザクッ!ー


 エルウィンドの振り下ろした木剣は地面の草地を叩くに終わった。エリスフィーナも足払いが避けられた時点で母親の間合いから飛び退いていたのだった。

「エリィちゃん。中々良くなっているわね。私達エルフ族はどうしても非力なの。これはどんなに経験を積もうとどれだけ訓練を重ねようと埋められない明確な欠点」

 エルウィンドの話はおそらく教本とかでは無く冒険者生活で得た経験則だろう。

「だから私達は倒れない為に戦う。仲間を信じ助けが来るまで立っている」


ーシュバアッ!ー


 エルウィンドは一気に距離を詰め居合抜きの様に木剣を斬り上げる様に振るってきた。

「くっ!」

 エリスフィーナは身体を横に反らして木剣をギリギリ避けたが木剣を避けるのにむりやり屈んだ為、次の行動に移りづらくなってしまった。


ーブォン!ー


 エルウィンドは斬り上げた木剣を返す刀で振り下ろしてきた。

「くうっ!」

攻撃を防ぐ事も避ける事も出来なくなったエリスフィーナは思わず目を閉じる。

(…………?)

 目を開けたエリスフィーナを待っていたのは目の前で寸止されていたエルウィンドの木剣であり


ーゴツッ!ー


「あいたっ!」

 改めて木剣で小突かれた脳天の痛みだった。

「防御の為には勢いも思い切りも必要よ。自分の身を守る為、どうしたらいいのか頑張りなさい」

 エリスフィーナが痛みに悶えて頭を抱えている間にエルウィンドからの訓練は終わってしまった。その時

「勇者だ! 遠方の人間の国から勇者達がやってきたぞー!」

「精霊神様の仰っていた通りだ!」

 エルフの村にらしくない大声が響き渡った。このエルフの村は精霊神に護られている為、外界とは隔絶されているに近い。

 だから、こうやって部外者が入り込んでくるのは滅多に無いのだ。ごくたまに無知な人間やユニコーンの密猟者などが迷い込んだりはするか……それでも村まで辿り着く人間はそうは居ない。

「エリィちゃん。これまで沢山教えてきたけど……諦めないで。最後まで……」

 エルウィンドは娘に抱きつき成長を確かめる様にしっかりと抱き締めて

「外の世界は危険な所、でも嫌な事ばかりじゃないからね」

 この村に勇者が訪れる理由とその意味をエリスフィーナもエルウィンドもよく解っている。

 だからこそ、両親は娘が外に出ても暮らしていける様に教え込んできたつもりだ。その教育の結果が間もなく試されようとしていた。

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