ハイエルフ
「ほらほら、アンタは外に出てき。奥さんこれから頑張んなきゃなんだから!」
とあるエルフの村では、ある若夫婦に新たな家族が生まれようとしていた。
「んぎゃああぁぁぁっ!」
出産に関する風景は人間達とそうは変わらない。出産に慣れたものが後進の手助けをする。それは寿命が人並み外れているエルフ達でもそれは変わらない。
「あらあら、元気な女の子だよ。この村で女の子は千年ぶりだったかな?」
生まれたばかりのエルフの赤ん坊が桶で洗われ直ぐに母親とご対面、初めての抱っこという神聖な儀式へと繋がれていく。
初めての愛娘を抱き上げた母親は
「こんにちは。私の可愛い赤ちゃん。貴方の名前は……」
そこまで言いかけたところで
ーバターンッ!ー
部屋の扉が勢いよく開かれて、外から焦り顔のエルフの男性が入ってきた。
「ちょっと! まだ男は入っちゃ駄目だよ!」
産婆さんが男性を止めようとするが
「名前は二人で決める約束だろう! 抜け駆けは駄目だぞ!」
「あら? 初めての女の子だから良いじゃない。。ローデンフェルトアレクサンドル……」
このエルフの母親が考えていた名前はエルフ一般的にも奇抜な名前であるらしい。一分程経過してもまだ続く名前の羅列に男性は
「だから駄目だと言ったんだ! そんなキラキラネームの寄せ集め絶対駄目だからな! ミルさんはどう思う?」
エルフの男性は自分を部屋の外に押し出そうとしているミルと呼んだ産婆さんに尋ねる。話をいきなり振られたミルは
「え、え? あ……ああ……」
明らかに言い淀んでいる。心情的に母親の味方でありたいのだろうが常識がブレーキをかけているのだろう。
「ほらみろ! こういうのは二人でじっくり……」
マタニティハイになりかけていた母エルフを嗜めようとしていた父エルフはその時ある事に気が付いた。
「その子の髪、明るすぎないか? それってまさか……」
一般的にエルフは金髪なのだが、それでも赤ん坊の髪は明る過ぎた。その事に思い当たる何かがあったのか父親はアワアワと震え出した。
「まさか、その子は伝説のハイエルフなんじゃ……!」
ハイエルフとはエルフの中でも希少で寿命が無いとされている精霊神からの祝福を受けた幻の存在だった。
この村でその存在を直接知っているのは長老位なのだから、その希少性の高さは推して知るべしなのだ。
当然若夫婦である二人が直接知るはずも無く、産婆のミルにとってでさえハイエルフは伝説の存在だった。その時
ーパアアァァー
家の天井から何処からともなく光が差し込んできた。エルフ達の住居は大木をくり抜いた中に作られているのでそんな場所から光は差し込まないはずなのだが、光は的確に赤ん坊を照らしている。
「誇り高き森の住人達よ。私は精霊神、その赤子はハイエルフとしての生を受け継いだ……」
差し込む光に加えてキラキラと粒子が煌めく中、天から老齢男性の重く野太い声が部屋の中に響いてきた。
「近く人間達の国の遥か向こうで魔族の長が降臨する」
精霊神は近くこの世界に魔王と呼ばれる存在が現れる事を伝えてきた。そしてそるに対抗するための勇者と呼ばれる英雄が現れる事も。
「勇者の助けとなるべくその子が選ばれた。その子を育て万全に送り出す準備を整えるがよい」
かなり一方的な精霊神からのお告げだが、精霊神はエルフ達にとっての絶対神である。
「はぁ、でもどうして家の子が……」
確かに一万人の中からあなたが選ばれましたみたいなことをいきなり言われても困るし信じるのも難しいだろう。それが信仰の対象であったとしても疑問が生じるのは仕方が無い。
「いきなり勇者が来ていきなり行く事になるよりは良いだろう? 事前に入念な準備が行えるのだ」
それを聞いた若夫婦はそれはそうだけど……と納得するしか無かった。
確かにそうなのだが、絶対神であるなら精霊神としてもう少しもっともらしい理由と言い回しを考えて頂きたい。
「魔王の復活は後十数年後となる。時間は無いぞ。ゆめゆめ忘れる事が無い様にな」
精霊神は魔王復活までの大凡の期間を告げると光と共にその存在圧が消えていった。
人間達からしてみれば十数年は赤ん坊が成人を迎える程の長さだが、数千年を生きるエルフ達からしてみれば十数年などあっという間に過ぎてしまう。
これはエルフだと時間が加速する訳でも無ければ成人への成長が遅い訳でも無く感覚的、相対的なモノだ。
だが、普通のエルフの感覚だと対した事も教え終わらず旅立ちの日を迎えてしまうかもしれない。
それを憂慮しての精霊神からの忠告ではあったねかもしれないが……
「僕達の子が選ばれたのは……もしかしたら僕達が人間界に造詣が深かったからなのかもしれないね」
「そうね。ても……これで外の冒険者に復帰は出来なくなっちゃったわね……」
若夫婦は子供が出来る前は人間達の世界で冒険者をしていた様だ。閉鎖的と言われるエルフ達だが、外の世界に興味を持ち、外に出ていき適応して生活するエルフは決して少なくは無い。
変化の少ない森での生活に飽きてしまって外で生を終える者もいれば、子供が出来たから里帰りするカップルも居る。
異世界のエルフであろうと世の中とはそういうものなのだ。




