魔王
ガルドリック達が辿り着いた通路の最奥は通路より一断高くなった円形の広大な広場であり、人を集めてコンサートが行える位の広さがあった。
しかし、その円形の広場のすぐ外側は遥か地の底まで届いている様な断崖であり、油断の出来る空間などでは断じて無かった。
円形の広場の何処にも敵の姿は見えず、
高い天井の向こうからも何かが頭上から奇襲を仕掛けてくる様なそんな搦手の雰囲気は全く感じられなかった。
「行くぞ」
ガルドリックが円形の広場に足を踏み入れると
ーシュウウウウゥゥゥ……ー
広場の奥に大きな黒い渦が発生した。そしてその黒い渦から
銀色の突起で装飾された黒の全身鎧姿の壮年の魔族の大男が現れた。
彼はガルドリック以上の大剣を肩に乗せて平然としておりその立ち振る舞いからも老練の手練れの風格に溢れている。
「我は魔王アスモデウス……魔王軍が出払った隙を突こうとは片腹痛い! その蛮勇に免じて我が直々に葬ってやろう!」
ーブアアアアアッ!ー
魔王アスモデウスが闇の覇気の様な威圧感を周囲に放つと
「くっ、なんという闘気だ……!」
大剣を正面に構えたガルドリックが闇の威圧感を受け止め後ろのエリスフィーナ達を庇う様にして立ちはだかる。
魔王は単に戦闘準備をしただけなのだろうが、それだけでも勇者パーティーに与えた威圧感は確かなものであり
「これは……一筋縄ではいかないかもしれませんねぇ」
賢者クレスが中指で眼鏡のズレを直しながら、想定していた戦術の見直しを余儀なくされていた。
「マジックシールド!」
ーブウウウウン……ー
一方のメルティーローズは考えるより先にパーティー全体を守る様に魔力の防壁を展開した。
「ガルドリック、これからどうするの?」
初めて戦う相手である魔王アスモデウスに対しては勇者パーティーと言えどセオリー等は存在しない。
「俺が斬り込む。お前達は防御に専念しろ!」
ガルドリックがマリアリアの質問に答える。
「ガルドリックさん、あの私は……?」
ガルドリックの指示は防御だが自分もそれで良いのかと確認するエリスフィーナへの反応は
「悪いが水の精霊に俺を守る様に指示して貰えると助かる!」
水の精霊を援護に付ける様に指示してきた。
「ウンディーネさん……ガルドリックさんを守って下さい……」
ーシュウウウー
エリスフィーナが腰の革袋からウンディーネを呼び出すと先陣をきり魔王に向かって駆けていくガルドリックに随伴させる。
「ほう、向かってくるか。人間」
ーズババババッ!ー
魔王アスモデウスは空いている左手から後方のエリスフィーナ達に向けて闇の槍を何本も放ってきた。
「マジックシールド!」
ーブウウウウンー
闇の槍を見た賢者クレスは直ぐ様魔法防御のドームをメルティーローズのシールドに重ね掛けを行った。
ーバシッバシッバシッ!ー
魔王が放った闇の槍は二人掛かりの魔法防御によって事なきを得た。しかし……
「困りましたね。私達はどうするべきか……」
距離に関係なく魔法が後衛を攻撃出来る事が分かった以上、魔法防壁を解放するのは危険だ。
防御をマリアリアに任せる方法もあるが、ホーリーウォールは絶大な防御を誇る反面こちらからの物理も魔法もあらゆる攻撃を遮断してしまうのだ。
それは後列の安全と引き換えに、完全なる無力化を意味してしまう。
ーギイィィィン!ー
最前線ではガルドリックが魔王相手に斬り掛かっており、魔王はその斬撃の全てを簡単にいなしていた。
「エリスフィーナさん? あなた近接戦も出来るわよね?」
ふいいマリアリアからエリスフィーナに確認がなされた。
「は、はい……。母から基本は……」
ガルドリックの戦いを心配そうに見守っていたエリスフィーナはマリアリアに話し掛けられ戸惑いながら答える。
「エリスフィーナさん、貴女は前に出て敵の魔法を避けながら弓矢で援護して」
答えを聞いたマリアリアの指示は明瞭だった。新人に対する無茶振りに近いのだが迷いが全く無い。
「わ、わかりました! やってみます!」
ガルドリックを心配していたエリスフィーナには願ってもない指示だった。このまま後列で何も出来ないまま見守るだけなのかと無力を悔いていたからだ。
「……行きます!」
弓矢を手にしたエリスフィーナは深呼吸すると魔法防壁のドームから抜け出し魔王目指して駆け出した。
切り合っている二人の間を塗って矢を敵に命中させるのは至難の業だ。
(落ち着いて……落ち着いて……)
可能であれば魔法の起点となる魔王の左腕を狙いたいが絶えず動き回る魔王を捕らえるのはエリスフィーナで難しかった。
「ぐうっ!」
魔王と打ち合うガルドリックが力で押し負け後ずさった。魔王がそれを見逃さず一歩を踏み出したその瞬間
(捉えた……!)
ービュン!ッー
大きく撓んだ弓から放たれた矢は一直線に魔王アスモデウスの未来予測位置へと飛んでいき
ードスッ!ー
「ぐっ!」
魔王の右肩口に深く突き刺さったのだった。魔王アスモデウスは一瞬だけ驚いた様な顔を見せたが
「ほう、中々やるではないか」
ーブシュッ!ー
魔王は肩に刺さった矢を無造作に投げ捨てる。しかし、後方から放たれた矢の存在に驚いたのはガルドリックも同じだった。
「どうして後ろから矢が……!」
エリスフィーナには精霊魔法による援護しか指示をしていないし彼女が勝手な行動をするハズも無い。しかし、矢が飛んできた事実が物語っている以上は認めるしか無い。




