魔導拘束具
「どっちも嫌だと言ったら?」
ガルドリックの言葉に毛頭従うつもりの無いキリヤ王子が挑発的に言い放つ。すると
ーギュウウウッ!ー
「ぐあああっ!」
キリヤ王子に付けられていた拘束具が賢者クレスの魔力に反応した。
キリヤ王子に取り付けられた魔導拘束具は左右の手首に一つずつ装着されており、魔力に比例して締め上げる造りとなっている様だ。
手首を万力で絞められる感覚にキリヤ王子はたまらず悲鳴を上げる。
「これは私とメル、キリヤ王子の魔力にも反応し魔力に応じて締め上げる造りになっています。痛い目に遭いたくなければ大人しくしている事です」
賢者クレスは中指で眼鏡のズレを直しながら含みのある笑みを浮かべている。
「あんた、エリィに近付いたら承知しないんだからね!」
エリスフィーナに寄り添っているメルティーローズもキリヤ王子には厳しい態度で臨むつもりでいる。
「魔導拘束具はキリヤ王子の魔力にも反応する様になっている。もし大魔法を使おうとして魔力を溜め始めたら……」
「魔力にもよりますが手首と腕が生き別れになるかもしれませんよ?」
ガルドリックとクレスの二人に念押しされて初めてキリヤ王子は現状を正しく認識した様だった。
「こんなんで魔王相手にどう戦えってんだよ!」
「双剣で戦うんだな、それに魔力を必要以上に高めなければ魔法を使うに問題は無い」
ボヤくキリヤ王子にガルドリックが今の彼に出来る事を伝える。こうしてキリヤ王子への対応を決めた勇者パーティーは天幕を片付けて魔王城への旅を再開するのだった。
深い森を抜けた先に現れたたのは断崖を前に聳え立つ古城跡、それを魔王城として運用している様だった。
門番や警備の魔物の姿も無く、見方を変えれば空城の計を疑いたくなる威容だが、ガルドリック達勇者パーティーがここに来たのは魔王を討ち取る為である。
もし、万が一魔王が居城から出払っているのであれば、魔王を探して世界を旅するしかなくなる。
「よし、行くぞ」
ガルドリックは皆に声を掛け中へと入ろうとする。そこに
「ガルドリック、待って」
聖女マリアリアが制止の声を掛ける。
「主戦力のあなたが最前に出るのは危険よ。敵の本拠地だから罠があるかもしれない。だから……」
魔王城のあまりの静けさに罠を疑うのも無理は無い。
「エリスフィーナさんを先頭に斥候を務めて貰うべきじゃないかしら?」
「え……?」
マリアリアからの突然の提案にエリスフィーナは言葉を失うが
「出来るわよね? 貴女もパーティーに加入して日も経ったし」
マリアリアはさらに圧を掛けてくる。そんな彼女に
「は、はい! やってみます!」
エリスフィーナは気負いながらも了承しパーティーに先んじて魔王城へと入っていく事になるのであった。そんな彼女の後ろ姿にガルドリックが
「いきなり斥候なんて……大丈夫なのか?」
「聴力は良いんでしょう? だったら貴方方立つより彼女の方が安心でしょう?」
歩くパッシブソナーなエリスフィーナは索敵能力は人並み外れているが……ガルドリックとしては経験の浅さが気になる様だ。一方、エリスフィーナを見送るマリアリアの顔はどこか冷ややかだ。ガルドリックはエリスフィーナから遅れない様に魔王城へと入り、他のメンバー達も遅れずに後に続く。
(くそ……いつまで拘束されてなきゃならねーんだ。これじゃ俺が活躍出来ねーじゃねーか)
ただ一人、最後尾を歩くキリヤ王子は自身の拘束具を取り外せないかトライ&エラーを繰り返すのだった。
魔王城の中は静まり返っており、本当にここが魔王の本拠地かと疑いたくなってくる静かさだった。
ーコッコッコッ……ー
先頭を歩くエリスフィーナの耳に入ってくるのも自身の足音と後方に居る仲間達の物音だけだった。
分かれ道等があった場合は後ろを振り返りガルドリックに指示を仰ぎ、行き先を決めるというやり方で進んでいた。
彼も魔王城に関する知識等は無いはずだが、少なくともエリスフィーナよりは経験があり勘が鋭いはずだ。
そうしてエリスフィーナを先頭に勇者パーティーは魔王城を地下へと進んでいくのであった。一方
ーミシミシ……ー
最後尾で拘束具を外すために魔力を高めたり戻したりを繰り返していたキリヤ王子の耳に拘束具からの亀裂音が入り始めていた。
彼は自身が耐えられる魔力量まで一気に高めて下げるの行為を絶えず繰り返しているのだ。これは女神からのチートである無限の魔力を与えられたキリヤ王子でなければ出来ない芸当だった。
そうでなければ回復する前にあっという間に魔力が枯渇してしまう。おまけに、特に専門家では無いにしろ転生者である彼にも金属疲労の知識はあった。一見無駄にしか見えない反復作業にもキリヤ王子には確かな自信があった。
(これを続けていけば……見てろよ。英雄になってチヤホヤされるべきなのはこの俺なんだ)
彼にとって魔王を倒した英雄という称号を手に入れるまたとないチャンスをふいにする選択はありえなかったのである。




