王子の痴態
「いやあっ! 離してっ! 止めて下さい!」
天幕の中では優位に建つキリヤ王子がエリスフィーナへの乱暴に拍車を掛けていた。
彼はエリスフィーナのスカートを捲り上げて白いショーツを顕にさせると
「そう喚くなよ。痛いのは最初だけなんだからよ? 具合が良かったら俺の側室に入れてやるから安心しろよ」
キリヤ王子がまずは弄んでやろうとショーツの上から指を滑らせようとしてきた。
「ひっ! やだ! 駄目! ガルドリックさん、助けてぇ!」
エリスフィーナが助けを叫んだとほぼ同時に
ーバサッ!ー
天幕の入り口からガルドリックが入ってきた。
「なっ……?」
来るはずのなかった乱入者にキリヤ王子の思考が一瞬止まる。
ーバキイッ!ー
「ふげえっ!」
瞬間、ガルドリックは迷いなく無言でキリヤ王子を殴り飛ばしエリスフィーナの無事を確認する。
「エリス、大丈夫か!」
ガルドリックに助け起こされたエリスフィーナはブルブル震えながらガルドリックにしがみつくのがやっとだった。そこへ
「ちょっと、何なの? 一体何があったのよ?」
ようやく戻ってきたメルティーローズとクレスの二人が天幕の外から中の様子を覗き込んできていた。
「クレス、キリヤ王子に魔導拘束具を」
ガルドリックは早速クレスにキリヤ王子の対応を委ねる。
「わかりました。メル、少し手伝って頂けますか?」
クレスはメルティーローズに手伝って貰いながらキリヤ王子に魔導拘束具を取り付け始める。肝心のキリヤ王子はガルドリックの鉄拳制裁で完全に伸びており、魔導拘束具を取り付けるに抵抗はされないだろう。
「マリアリア、すまないがエリスフィーナを診てやって……」
キリヤ王子の対応の段取りが終わった辺りでガルドリックがエリスフィーナのケアをマリアリアに任せようと声を掛けたのだが
ービクッ!ー
エリスフィーナはマリアリアの名前に反応し身体を震わせた。キリヤ王子の話が何処まで本当かは分からないが、彼女がマリアリアから良く思われていないという自認を払拭する材料は何処にもなかった。
「あ、あの……ガルドリックさん。すみませんでした。もう……大丈夫です」
今のエリスフィーナに出来る事は自分からガルドリックから離れマリアリアからの印象を悪くしない様に努める事だけだった。
だが涙ぐんで震えたままのエリスフィーナが流石に大丈夫そうには見えないガルドリックは
「エリスフィーナ、すまない。キリヤ王子にはもっと早く手綱を付けておくべきだった。そうすればこんな事は……すまなかった」
ガルドリックはエリスフィーナに謝罪の言葉を掛けてただ謝り
「そんな……私がしっかりしていれば……すみません……でした」
エリスフィーナもガルドリックに身体を預け、彼と同じ様に謝罪の言葉を送り合っていた。
「…………」
そして、そんな二人のやり取りを天幕の外から見下ろしている氷の様に冷たい表情で見据えるマリアリアの姿が焚き火に照らされて浮かび上がっていた。
キリヤ王子への魔導拘束具の取り付けと設定が終わる頃になってようやく彼が目覚める時がやってきた。
「いってぇ〜」
ガルドリックに殴られた痛みの記憶は残っているらしいが、実際の殴打後はマリアリアの癒しの魔法で綺麗に消されていた。
「な、なんだよこれは! どういうつもりだよ! 俺はホワイトクラウン王国の……」
天幕の中心に座らされていたキリヤ王子は、自分を囲む様にして見据えている勇者パーティーメンバー達に気が付いた。
まるで衆人環視されている居心地の悪さに拗ねて悪態をついていた。
「キリヤ王子、今回の無法は容認出来ない。エリスフィーナの立場は君と同じ、言わば善意の協力者だ」
ガルドリックはそんなキリヤ王子にエリスフィーナがいかに慎重に扱わねばならない立場の存在かを説明する。
「彼女はエルフを代表して……こうして危険な仕事に同行して貰っている。そうする事で世界各地のエルフ達にも魔王との戦いに協力して貰う為だ」
ガルドリックの話は続く。いつもならキリヤ王子に気を使う話し方なのだが今の彼にはそれが無かった。
「ハイエルフはエルフの中でも特別な存在だと聞いている。そんな高貴な方に手を出そうなど……ホワイトクラウン王国とエルフ達との間で戦争になってもおかしく無い話だ」
ガルドリックのいつもと違う態度に怖気づいたのかキリヤ王子は
「なんだよエルフ共は全員NTRアレルギーかよ! ちっさっ!」
相変わらずキリヤ王子は意味不明な言葉の羅列で嘲っている。さらに
「俺は悪くねぇぞ! 今度のだってハイエルフの方から俺を誘惑してきたんだからな! 俺の方が被害者なのに気分悪ぃ!」
第三者の目が無かった事を良い事に責任をエリスフィーナに押し付けてきた。全く信憑性の無い話にガルドリックがエリスフィーナに意見を求めると
「わ、私は誘ったりなんかしてません……。止める様にキリヤ王子には何度もお願いしました……」
エリスフィーナはキリヤ王子の意見を真っ向から否定する。
「そんなの、コイツが土壇場になって怖気づくのが悪いんじゃねーか! 俺に色目使ってきたくせによ!」
キリヤ王子はあくまでエリスフィーナから誘ってきたというシナリオを崩さない。
「……悪いんだが、普段のエリスフィーナからはキリヤ王子に気がある素振りは見えなかったが?」
堂々巡りに入りそうな雰囲気の中、ガルドリックがキリヤ王子の主張の不備を突いた。
「そうよね。エリィ、どっちかって言うと苦手そうにしてたものね」
さらにメルティーローズからも追撃が打ち込まれてきた。
「個人の色恋に口を出すつもりは無いが……同意が無い性交を容認する訳にはいかない」
ガルドリックはここでキリヤ王子に対する決定を下す。
「キリヤ王子、ここでパーティーから離脱するか、こちらの指示に従い大人しくするか……選んで頂きたい」
それは、これまでの様に王子だからとなぁなぁにもせず、腫れ物に触る様な扱いもしないという決断の表れだった。




