不埒者
(ん……)
ようやくウトウトしていたエリスフィーナはふと間近に感じられる嫌な圧迫感に気が付いた。
天幕の中に明かりは無いため、外の焚き火の明かりが天幕の布を通して入り込んでくる僅かな明かりが唯一の光源だ。
「はぁ……はぁ……」
相変わらず間近から感じられる圧迫感と妙な息遣いにエリスフィーナがその方向に死線を向けると
「……!」
自分に覆い被さる様に四つん這いになっているのは離れて寝ているはずのキリヤ王子だった。
彼は妙な息遣いのままエリスフィーナに口付けしようと顔を近付けてきた。
ーグググッ……ー
「うぅ……!」
自重と重力で迫ってくるキリヤ王子に対しエリスフィーナは腕を寝袋から出して懸命に抵抗するが
「止めて下さい!」
ードズッ!ー
「あふんっ!」
寝袋の中から放った膝蹴りがキリヤ王子の股間に決まり、彼は股間を抑えて悶絶を始めた。
「くっ……!」
その隙に寝袋から這い出したエリスフィーナは外に居るはずのガルドリック達に助けを求めに立ち上がり天幕の出口へと走り出した。しかし
「このクソ女、逃がすかよ!」
ーガシッ!ー
「きゃあっ!」
走り出したエリスフィーナだがキリヤ王子にその足を掴まれ
ードサッ!ー
「あぐっ!」
出口に辿り着く事も出来ずに地面に転ばされてしまった。
「とんだ凶暴エルフだぜ。大人しくこっちこいよ!」
「や、止めて……! 離して下さいっ!」
エリスフィーナは足を動かして抵抗するがキリヤ王子に天幕の奥に引き戻されていく。
「いやっ! ガルドリックさん! 助けてぇっ!」
必死に助けを叫ぶエリスフィーナだが、外からは誰かが来る様子が無い。すぐ近くに焚き火があってガルドリックはそこに居るハズなのに……
「天幕と外は俺の魔法で音を遮断してるからな? いくら呼んでも聞こえるはずねーんだわ」
連れ戻したエリスフィーナに覆い被さり両腕を地面に組み伏せたキリヤは勝ち誇りながら自身の魔法を語る。さらに
「いい加減大人しくしろよ! せっかくマリアリアが強力してくれてんだからよぉ!」
キリヤ王子からエリスフィーナには信じられない内容が告げられた。今のキリヤ王子の乱暴はマリアリアも了承済みで協力してくれているというのだ。
「そ、そんな……どうして?」
聖女である彼女がこんな事に協力するなど信じられないエリスフィーナが震える声でキリヤ王子に聞き返すが
「さぁな! 婚約者を誑かすハイエルフ様が目障りだったんじゃねーのかぁ?」
「こ、婚約者って……?」
キリヤ王子の話が分からず聞き返すエリスフィーナの両腕を、キリヤ王子が彼女の頭上でそれ片手で押さえつけながら
「はぁ? お前そんなのも知らなかったのかよ? あの二人は婚約済みなんだよ! 魔王倒したら一緒になろうってなぁ! お前の割り込む席なんか最初からねーんだよ!」
キリヤ王子は空いた片手をエリスフィーナの胸に乗せると
「仕方ねぇから俺が遊んでやるってんだよ! ホワイトクラウン王国の王子の俺がなぁ!」
その手を乱暴に動かし始めた。
「い、痛っ! 止めて! 止めて!」
服の上から感じられる悍ましさにエリスフィーナの眼から涙が溢れる。抵抗しようにも両腕も両足も抑えつけられていて、満足に動かす事も出来ずに助けを叫ぶ事しか出来ないでいた。
ーパチパチパチー
焚き火が音を立てて炎を揺らめかせる中、ガルドリックにマリアリアが寄り添いながら見張りについていた。
「ガルドリック……どうして抱いてくれなかったの?」
マリアリアが隣に座る大男にさっきの天幕の中での不満を口にした。近いうちに彼等は魔王城に攻め入る運命であり、その戦いは決して楽なモノとはならない。
もしかしたら、誰かが命を奪われてしまうかもしれない過酷な戦いが予想される。そんな命の危険の前に男女が結ばれるのは……それも気心の知れた幼馴染同士が結ばれる事に不思議は無いだろう。しかし
「今は……行きて帰る事だけを考えたい。それは自分だけじゃなく……この旅に付いてきてくれり皆も含めてだ」
ガルドリックはパーティーを束ねるリーダーとして一時の感情に流される危険を危惧していた様だ。また、皆を行きて帰すという責任感からも彼は自身に自制を促していた。その時
ーダンッ! ミシミシ……ー
天幕の方から不自然な振動が伝わって来る事にガルドリックは妙な感覚を覚えていた。天幕の中にはキリヤ王子とエリスフィーナのみ。就寝中の二人がそこまで動き回るハズが無い。
「なんだ……?」
振動が伝わってくる割には天幕はシンと不気味なまでに静まり返っている。そんな不自然なアンバランスさにガルドリックが天幕に近付こうとすると
「ガルドリック、あの二人だって若いんだもの。そういう関係になっていてもおかしく無いわ」
マリアリアがガルドリックを引き留めつつ、キリヤ王子とエリスフィーナの関係を語るのだった。
「年齢的にも近いんでしょ? 仲が悪そうに見えても本当は好き合ってるとかあるじゃない」
マリアリアの言葉にガルドリックは二人の関係に自分が知らない事もあるものと納得しかけていた。




