魔族領
麓からも下山し平地に着いたガルドリック達勇者パーティーは魔王の居城を目指しての旅を再開していた。
魔王の本拠地だけあって、その土地では多数の魔物との遭遇戦が予想されていたが、意外な事に魔物との遭遇は恐ろしい位全く無かった。
こちらを油断させる為の罠かとも疑われたが、野営の時ですら魔物が近寄ってくるどころか近くに居る様子すら無かった。
もしかしたら、ここは魔族領ではないのかもという疑念すら生まれたが、平原の遙か先には魔王城の遠景は確かに見えている。
魔族領に入って数日、平原を越え険しい森に入っても魔物が待ち受けている気配がまるで感じられなかった。
そんな旅を数日続けていると魔王城がすぐ近くまで見えてくるまでに旅が進んでいた。
魔族領に入って数日後、魔王城を目前に控えた森林地帯での野営……通常は一人が交代で見張りについていたが、魔族領では万全を期して二人一組で焚き火を焚いて野営を行っていた。
組み合わせは戦士と魔術師の組み合わせが良いとガルドリック、エリスフィーナ、キリヤ王子の前衛グループとマリアリア、メルティーローズ、クレスの後衛グループのローテションで行われていた。
しかし、今夜の野営はガルドリックとマリアリア、メルティーローズとクレス、エリスフィーナとキリヤ王子という組み合わせとなっていた。
しかし、それに異を唱える者は一人もなくエリスフィーナは新人だからか何も言い出せずに居た。
「じゃあ、私達は先に休ませて貰うわね」
「何かあったらすぐに知らせてくれ」
ガルドリックとマリアリアの二人が天幕へと入っていく。一方
「私達は少し周りを見てくるわ」
「そんなに離れないつもりだが何かあったら大声で知らせるから君達も頼むな」
メルティーローズとクレスの二人は茂みの向こうへと消えていってしまった。
焚き火の前に残されたエリスフィーナとキリヤ王子が会話を交わす事は無く、あってもキリヤ王子が誂い気味にエリスフィーナに話し掛け、エリスフィーナが真面目に答えるとキリヤ王子が軽口で答えて終わる……そんな時間がただ流れていた。
見張りが始まり数時間、すっかり夜も更けてしまった頃……
「エリスフィーナ、今日の組み合わせ……何とも思わないのか?」
ふいにキリヤ王子がそんな事を話し掛けてきた。何をと言われても……二組ともそれぞれ仲が良い間柄としか知らないエリスフィーナが黙っていると
「何カマトトぶってんだよ! あいつら魔王戦前にヤリまくろうって魂胆に決まってんだろうがよぉ!」
あまりにもデリカシーが無いキリヤ王子の発言にエリスフィーナは動揺してしまう。
「そ、そんな……こんな時にガルドリックさんが……?」
「何? お前あいつに惚れてんの? 勇者様はもう聖女様とデキてんだよ! 気付かなかったのかよ、おめでてーなぁ!」
キリヤ王子は動揺するエリスフィーナをここぞとばかりに煽り倒してきた。
「そんならそこを覗いてみれば分かるだろ! 来いよ!」
キリヤ王子はエリスフィーナの手を掴むと彼女を無理矢理天幕の側へと引っ張っていく。
「や、止めて下さい! 不潔ですし……覗き見なんて……駄目です!」
「んな事言ってもハイエルフ様の耳なら聞こえるんだろう? アイツらのよがり声がよぉ!」
キリヤ王子がエリスフィーナに暴言を吐き続けていると
「エリスフィーナ、キリヤ王子。交代の時間だ」
天幕の中からガルドリックとマリアリアの二人が出てきた。いつの間にか交代時間は過ぎてしまっていた様だった。
「わ、分かりました。休ませて頂きます」
エリスフィーナはキリヤ王子の手を振り払い、ガルドリック達に礼をしてそのまま天幕へと入って行くのだった。
鎧もロングブーツも脱ぎ楽な格好になったエリスフィーナはさっさと寝袋に入り込んで横になってしまった。
(…………)
彼女の耳にはキリヤ王子の台詞が離れずに居た。ガルドリックとマリアリアが幼馴染とは聞いていたが……二人がそんな関係だと気付きもしなかった事にショックを受けていた。
人間とエルフでは寿命の長さが極端に違う為、恋愛や子作りに関する見方もまるで異なる。
エルフは人間の様に頻繁に性交する事もなければ子供を授かる機会もそう多くは無い。
これは性欲の問題と言う訳でも無く、神が定めた自然の摂理の設計思想の違いでしか無い。それは単純に長命な個体が無制限に数を増やしてしまえば、世界は簡単にキャパオーバーとなってしまうからだ。
だからこそ、エルフ達は子供を授かる事、それに至る行為を特別なものとして考えているのである。
ーゴソゴソ……ー
横になったエリスフィーナの背後からキリヤ王子が寝に入るであろう物音が聞こえてくる。彼と話すつもりもないエリスフィーナは彼と離れた位置におり、さっさと眠りについてしまおうと考えていた。
(ガルドリックさん……)
人間にエルフが恋する事も珍しい事では無いが、大抵は不幸な結果に終わる事が多い。
それは覆す事の出来ない寿命の極端な違いであり、エルフは必ず相手を看取らなければならず、いずれ悲しい想いをする事が分かりきっているからだ。
エリスフィーナも両親からそう教えられてきたハイエルフであり、人間を好きになる危険性は十分分かっているつもりだった。




