遭難
「ん……」
エリスフィーナが気が付いた時、そこは真っ暗闇の中だった。そして
「さ、寒い……」
周りから感じる圧迫感に息が詰まりそうだった。身体を動かそうにも何かに覆い被せられている様で指先を動かすのがやっとという有様だった。
自分は一体何をしてこうなったのか……。エリスフィーナは自分の身に何が起きたのかを思い返してみた。
山の下り坂で巨人の魔物達と戦っていたのは覚えている。その時、前触れなくキリヤ王子が大魔法を使った事も。
爆風を逸らすためシルフを酷使してしまった事も覚えている。その時足元の雪が崩れ出しそれに巻き込まれてしまった事……。それから……
「寒い……」
周りは氷の様に冷たく、それに変に息苦しい。吐いた息か直ぐに自分の顔に掛かってくる異様な感覚だった。相変わらず手足は動かせず……エリスフィーナがすっかり途方に暮れてしまったその時
ーザザッザザアアアァッ!ー
自分に伸し掛かっていた圧力が無くなり暗闇が少し薄くなってきた様な気がした。
「エリスフィーナ、生きてるか! 今、引っ張り出す!」
やや遠くから聞こえてくる感じのガルドリックの声、とりあえず仲間が見つけていてくれる事にエリスフィーナが安堵していると
ーボゴオッ!ー
自分の上で押し固まっていた雪を砕いて伸びてきたガルドリックの両腕がエリスフィーナの上半身を掴むと
ーザザアアッ!ー
エリスフィーナは埋まっていた雪の中から外へと引っ張り出されたのだった。
「ぷはぁ……」
引っ張り出されたエリスフィーナが見たのは雪原に疎らに樹木がある何も無い場所だった。雪のおかげか少しは見通しが利いている気はするが相変わらずの闇夜である事に変わりは無い。
「エリスフィーナ、あっちに洞窟があるからそっちに避難しよう。出来れば天幕に戻りたいんだが、夜に歩き回るのは危険だからな」
ガルドリックはそう言うと引っ張り上げたエリスフィーナを軽々とお姫様抱っこしてしまった。
「あ、あの……私歩けますから……その……」
エリスフィーナは顔を赤くして自分で歩いていくと主張するが
「無理するな。俺でも身体がガタガタなんだ。華奢なお前が平気なはずはないからな」
ガルドリックは雪崩に巻き込まれた自陣の現状を踏まえてエリスフィーナの状態を判断した様だ。
確かに身体はあちこち打ち付けられていて長時間雪の中に埋まっていた負担もあり、思ったよりダメージが大きいらしい。
「す、すみません……」
エリスフィーナはガルドリックの腕の中で小さく謝罪の言葉を口にした。しかし
「俺の方こそすまなかった。こんな事になるとは読めてなかった。すまない」
ガルドリックが逆に謝ってきた。心当たりのないエリスフィーナが彼の顔を見上げると
「キリヤ王子の事さ。まさかあそこで爆裂魔法を撃つなんて思ってなかった」
ガルドリックが言いたかったのはキリヤ王子に関する監督不行き届きの事である様だ。
「高原の村の大魔法で自覚したかと思っていたんだが……まだ自分の影響力を自覚出来ていなかったんだな……」
ガルドリックは自嘲気味に笑うと
「じゃあ、少しの間ここで休んでいてくれ。俺はちょっくら探しモンしてくるわ」
いつの間にか洞窟の入り口に着いていたガルドリックはエリスフィーナをその場に降ろすと再び雪の舞う平原へと戻っていってしまった。
「ガルドリックさん……! あの……」
彼の後ろ姿にエリスフィーナが声を掛けるが
ーザッザッザッザッザッ……ー
ガルドリックの姿は直ぐに闇夜の暗闇の中に消えていってしまった。
(ガルドリックさん……)
勇者パーティーのリーダーだと言うのに率先して何にでも動くガルドリックの姿にエリスフィーナは後ろめたさと言うか、役に立てない無力感を覚えていた。
ふらつく手元で風の精霊を呼び出す印を刻もうとしたが気力が衰えておりそれすらままならなかった。頭の中や声で呼び掛け様としてもそれすら出来ない位の疲労困憊な有り様だ。
エリスフィーナは身に纏っている旅人のマントを整えてその場に蹲る事しか出来ないで居たのだった。
(…………)
どれほど時間が経っただろう。寒い中出来る事もなくジッとしていただけだからそれほど大した時間は経っていなかったのかもしれない。
ーザッザッザッ……ー
暗闇の向こうから雪を踏みしめる足音がこちらに向かってきている音が聞こえてきた。
(ガルドリックさん……?)
万が一という事は無いかもしれないが、ここは魔族領と呼ばれる魔王の勢力圏に入っているはず。エリスフィーナが腰の細剣になんとか右手を伸ばしていると
「ふぅ……、まいったまいった」
雪を頭と肩に乗せたガルドリックが戻ってきた。その手には弓と矢筒、見慣れた道具袋が握りられていた。
「あの、それ……私の……?」
「ああ、出来れば俺の剣も見つけたかったんだがな……流石に明日にならないと無理らしい」
エリスフィーナの道具袋にはアトレイス公国でメルティーローズに買って貰った火起こしセットが入っている。
さらに冒険者生活で必要な器具や保存食なども入っているハズだ。
「すまないが、中を見せて貰っていいか?」
ガルドリックはエリスフィーナの隣に腰を下ろしながら、道具袋を指差してきた。
「は、はい。どうぞ」
エリスフィーナは何度も頷くとガルドリックに了承の言葉を返す。
こうしてエリスフィーナとガルドリックの二人は近くの洞窟でなんとか身体を休ませる事が出来る様になったのであった。




