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野営の鉄則

 勇者パーティーだからと言うより、冒険者パーティーとして野営に入る際にどうしても見張り役は必要になってくる。

 皆で天幕に入ってしまえば敵の奇襲を受けた時に取り返しのつかない致命的な損害を成す術無く受ける事になってしまいかねない。

 通常の野営であれば外で焚き火を行いつつ見張りを立てて交代制で休む事も出来るがここは雪山である。

 昼間にマンティコアに遭遇した事を踏まえれば夜間に敵に襲われないという楽観的な視点に立つ事は難しかった。

「仕方ない。一人用の雪洞を作ろう。皆、手伝ってくれ」

 ガルドリック指示の下で避難用の雪洞を作る事となった。殆どがガルドリックが作ったとは言え男三人がかりで一人用の雪洞を作るのに大した時間は掛からなかった。

「皆、ありがとう。それじゃ天幕で休んでくれ。俺が最初に外で見張ろう」

 天幕を張り雪洞を作ったガルドリックも寒さには堪えているはずだが、彼はリーダーだからかいつも率先して買って出ている。

「全く貴方はいつも……貴方ばかりに良い格好はさせませんよ」

 次に見張りを率先して立候補したのは優男賢者のクレスだ。彼はいつも通り右手の中指で眼鏡のズレを直しながら割り込んできた。

 多分だが、その台詞の使い所は今ではないはずだが、何故かドヤ顔なクレスはどこ吹く風だ。

 この流れなら次はキリヤ王子が立候補しそうなものだが、彼は相変わらず手元に魔力の炎を生成し一人暖を取っていた。そんな中

「あの、私が見張りをします。少し休めばシルフさんも呼び出せますし……」

 エリスフィーナも見張りの一番手に立候補をしたその時

「グオオオオ……」

 何者かの唸り声が下山道の先から聞こえてきた。少なくないその唸り声の主達はすぐにエリスフィーナ達の前に姿を現した。

「ウォォォ……」

「グゥゥゥゥ……」

「ウゥゥゥ……」

 現れたのは青白い肌を持つ人型の巨人達だった。彼等は手に手にこん棒を握り締めており、明らかにエリスフィーナ達に敵意を向けてきていた。

「仕方ない、やるぞ!」

 ガルドリックの判断も指示も簡潔だった。彼は背中の大剣を抜くと


ーザザザザザッ!ー


 足場の悪い下り坂をものともせずに


ーズバババァッ!ー


「グアアアッ!」

「ギャアアアッ!」

 巨人二匹をあっという間に斬り伏せた。

「奴等、後ろから次々と上がってくるぞ! 援護してくれ!」

 風雪と夜間のせいで視界が良くないが、唸り声の圧からその数は推し量る事が出来た。

「ファイアランス!」


ーゴオッ!ー


「ガアアアアッ!」

 クレスが直ぐ様的確に巨人を炎の槍で焼いていく。その炎が達松代わりとなり新たな巨人を闇夜に浮かび上がらせていく。

 エリスフィーナはガルドリックの間合いの外、少し離れた後方から彼の認知外に敵が居ないか警戒しながら弓矢での援護に努めていた。


ーピュン!ー


「グオッ!」

 エリスフィーナは聴力も駆使して弓矢での牽制射努めていた。巨人相手に威力としては非力だったが注意を逸らさせるには十分だった。

「うおらあっ!」


ーズバアッ!ー


「グフウッ!」

 怯んだ巨人を斬り伏せる事など勇者であるガリドリックの前には児戯にも等しい容易い流れ作業でしか無かった。

「いい加減終わりにしようぜ。寒いんだからよ」

 今の今まで手元の炎で暖を取っていたキリヤ王子が痺れを切らしたらしく右手に魔力を溜め始めた。

 いち早くそれに気付いたクレスは

「止めなさい! 雪山で衝撃の強い爆裂魔法など……」

 キリヤ王子に制止を呼び掛けるが本人は全く意に介さない。

彼が前に翳した右手の先にはガルドリック達とその先から斜面を駆け上がってくる巨人達の姿があった。

「ガルドリックさん、そこから上がって下さい! 退避を!」


先の展開が分かっているクレスは咄嗟にガルドリック達に呼び掛けるが

「ギガンティックエクスプロージョン!」


ーバシュウッ!ー


 キリヤ王子の右手から放たれた光弾はエリスフィーナとガルドリックの横をすり抜けて巨人達の集団の中へと消えていく。そして


ードゴオオオオンッ!ー


 凄まじい衝撃波と爆炎が辺り一帯放射状に撒き散らされた。

 衝撃波に樹木が薙ぎ倒される中、爆発の衝撃波をシルフに逸らさせたエリスフィーナが肩で息をしていると


ーゴゴゴゴゴ……ー


 彼女の耳に足下から地響きの様な地鳴りと振動が伝わってきた。次の瞬間


ーザザザアアアアッ!ー


「きゃっ!」

 足下の雪原が崩れエリスフィーナは成す術無く滑落を始めた。崩れた雪原はすぐに雪崩を誘発し彼女はあっという間に飲み込まれてしまった。

「エリス! 捕まれ!」

 エリスフィーナの活躍に気付いたガルドリックが咄嗟に手を伸ばすが雪崩に巻き込まれているエリスフィーナがその手を掴むのは至難の業だった。

「くそっ!」

 ガルドリックは大剣すら投げ捨てるとエリスフィーナを助ける為に雪崩の中に身を投じるのだった。

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