魔獣
ーピュピュピュピュピュン!ー
「え……?」
エリスフィーナの耳にさっきの羽ばたき音と違う、何かが勢いよく飛んでくる様な飛翔体が風を切る鋭い音が聞こえてきた。
「何かが飛んできます! 身を守って下さい!」
エリスフィーナが皆に叫んだと同時に
「ホーリーウォール!」
ーパアアアァァッ!ー
マリアリアがパーティーの頭上に白く光る防壁を展開した。
その直後
ーキンキンキンキンキン!ー
何か軽い物が光の壁に跳ね返される音が聞こえてきた。
「これは……マンティコアの毒針だ、上に居るのはマンティコアの集団だ」
マンティコアは知能の高い魔獣の一種であり、ライオンの様な肉食獣の身体に年老いた老人の様な頭部を持ち尾にはサソリを連想させる毒針を持つ脅威度の高い魔獣である。
ーカンカンカンカンカンカン!ー
毒針による攻撃は一定のリズムで振ってきている。
「なんとか攻撃は出来ませんか? このままでは……!」
光の壁を展開しているマリアリアから悲痛な声が上がる。確かにここで防戦を敷いていても結局はジリ貧でしか無い。
「しかし、敵の姿が見えなければどうにも……」
賢者クレスに妙案は無かった様だが、空の様子を覗っていたメルティーローズが
「エリィちゃん! シルフさんに上の雲吹き飛ばしてって頼める?」
エリスフィーナに精霊魔法での支援を要請する。
「は、はい。多分……」
風で雲を吹き飛ばすなどこれまで頼んだ事が無いが、そう難しい話でもない。
「シルフさん、上空のあの辺りの雲を吹き飛ばして視界をクリアにして下さい」
エリスフィーナの指示に頷いたシルフは瞬時に姿を消すと
ーブアアアアアッ!ー
上空の雲がある一点から螺旋状に青空が広がっていくのが見えた。そしてその青空の向こうには数体のマンティコアが羽ばたきこちらにサソリの尾を向けていた。
「メル、今です! サンダーストーム!」
ーズバババババッ!ー
「サンダーストーム!」
ーズバババババッ!ー
クレスの声に呼応したメルティーローズも彼と同じ雷撃魔法を上空のマンティコア達に向けて放った。
ーバリバリバリバリバリ!ー
「グギャアアアアッ!」
「アギャアアアアッ!」
「ウガがガガガッ!」
二人がかりによる電撃の嵐を受けたマンティコア達は黒焦げになって一様に墜落していく。
「お? 終わったか? そんならさっさと進もうぜ」
これまで戦闘に全く絡んでなかったキリヤ王子が皆に話し掛けてきた。最後尾に居た彼を皆が振り返ると
ーボオオッ!ー
「はぁ〜、さむさむ」
彼は魔力で炎を生み出し一人で暖を取っていた。皆がマンティコアとの戦いに必死になっていたところにこの状況である。
パーティーの空気が一気に不穏なモノへと切り替わっていく。さらに
「あれ? 俺なんかやっちゃったか?」
ワザとらしいキョトン顔をしながら皆の精神を逆撫でしてきた。皆がそんな彼に一言文句を言ってやろうとしたその時
「よし、今は先を急ごう。エリスフィーナのシルフももう風除けは出来なさそうだからな。遭難する前にビバーク出来るところまでは行こう」
ガルドリックが空気を読んでパーティーに全身を指示してきた。こうして勇者パーティーは再び山脈を尾根伝いに歩き始めるのだった。
マンティコアとの遭遇戦から半日過ぎた頃、東の空が暗くなり風雪も増してきた頃、戦闘のガルドリックとエリスフィーナの目にようやく尾根から下山するルートの入り口が見えてきた。
周囲は既に夜に差し掛かっており西の空も日が暗くなり始めている。低い雲のせいで太陽は見えないが、日の入り間近は時間の問題でしか無かった。
下り坂の下山ルートの入り口はそこそこの広さがあり、持参している天幕が張れそうな感じからガルドリックは
「俺はここで天幕を準備する。エリスフィーナは引き続き周囲を見張っていてくれ。後はマリアリア達、後続連中が見えたら一声掛けてくれ」
野営にそなえての天幕の準備を始めてしまった。
(…………)
エリスフィーナも言われるがまま、来た道を中心に尾根の方を優先的に警戒していると
「やぁ〜っと追いついたぁ〜、貴女達先行っちゃうんだもん。こっちは大変だったんだから〜!」
「でも、悪い事ばかりじゃありませんよ。ほら」
エリスフィーナの所に辿り着くなりボヤくメルティーローズに嗜めるクレス。そんな彼等はマリアリアを二人で抱き抱えながらここまで来ていた様だ。
「マリアリアさん、どうかされたんですか?」
明らかに体調の優れなさそうなマリアリアについてエリスフィーナが尋ねると
「こりゃ、低体温症だな。早く温めてやんねーと危ねぇぜ?」
キリヤ王子がよく分からない表現で説明してきた。よく分からない言葉に
「低……たい……何ですか? それ……?」
エリスフィーナが疑問を口にすると
「そうだよな。お前等にはそういう知識ないんだったよな」
キリヤ王子は分かった分かったと面倒そうな素振りを見せた後でエリスフィーナを馬鹿にする様な態度を見せた。
「天幕の準備は終わったぞ。ん、マリアリア……お前どうしたんだ?」
「なんか調子が悪いみたいなの。早く休ませてあげないと」
こうしてメルティーローズに付き添われながらマリアリアは天幕の中で休む事にするのだった。
しかし、雪山での野営を行うにあたり勇者パーティー特有の問題が降りかかってくるのはこの後直ぐの話となるのである。




