王子人事王子人事
キリヤ王子の処遇を話し合う勇者パーティーの面々だが、結論は中々出ない。
国王から直々に命令を受けている王族の人間を無碍に出来る人間はここには居なかった。
「とりあえず、彼が起きたら今後はみだりに魔法を使わない様に説得してみよう」
ガタイの良い粗野そうな大男っあるにも関わらず、穏やかで知的な印象のガルドリックがキリヤ王子への今後の対応を口にした。そこに
「ガルドリック、私に良い考えがあります」
眼鏡のズレを右手の中指で直しながら賢者クレスがフラグじみた台詞を吐いてきた。
光の加減が彼の眼鏡のレンズが真っ白に光を反射していて彼の視線は窺い知る事が出来ない。
(…………)
エリスフィーナは渡されたクリームシチューの器を手に手元をじっと見つめていた。そして
「あの、申し訳ありませんでした。私がキリヤ王子を蹴ってしまったばかりに……」
思い詰めた顔をしていた彼女は皆に謝罪の言葉を口にした。その謝罪に皆一様にキョトンとした反応を見せる。そして
「そんなのあなたが気にする事じゃないって! 今回はあいつから絡んできたんじゃない、頼まれてもないのに」
一番にフォローしてきたのはメルティーローズだった。彼女はエリスフィーナの背中をバシバシ叩きながら元気付けてくる。
「君が蹴り飛ばしたのは手合わせの最中だ。それにキリヤ王子は油断していた様だし君に落ち度は無い」
キリヤ王子の前に手合わせしていたガルドリックもエリスフィーナの謝罪は不要と言った態度だ。
「でも、彼が目を覚ましたら一言謝っておくのは良いかもね」
マリアリアはキリヤ王子へのフォローを提案してきたが
「どうでしょうか……逆に彼の自尊心を傷付けてしまうかもしれませんよ?」
クレスがキリヤ王子の性格を踏まえた泥沼展開となる危険性を口にしてきた。
「とりあえずキリヤ王子の目が覚めたら俺が話してみる。様子を見てエリスフィーナに謝ってもらうかは判断しよう」
ガルドリックが折衷案を提案してきた。キリヤ王子の気難しさを考えたら様子を見てから決めるのが最善であるのかもしれない。
「そんな事よりさぁ〜、私驚いちゃった〜! 精霊魔法って複合させたり出来るものなのね〜!」
メルティーローズは昼間にエリスフィーナが使った水竜巻のことを語り始めた。
魔術に関する事だけあって畑違いながら興味津々な様だ。
「あれは……基本は一人では無理なんです。呼び出してお願い出来るのは一人一体までなので……」
ようやくクリームシチューに手を付けながらエリスフィーナが精霊魔法について説明する。精霊魔法は並列召喚は誰にも出来ず、昼間の水竜巻は風の精霊シルフの厚意でたまたま手伝って貰えたものである事を話す。
「それでは、火の近くならサラマンダーが。洞窟の中ならノームが自発的に強力してくれるのですか?」
賢者クレスが手元で何か金属製の魔導具をいじりながら精霊魔法について尋ねてきた。
「それは……私はサラマンダーさんやノームさんとはあまり接点が無かったものですから……」
理屈ではそうでも精霊に自発的に強力して貰える様になるまでには長い時間の交流とお互いへの信頼が必要なのである。エリスフィーナは水や風の精霊達との関係を構築してきたので、対極に位置するサラマンダー達とは今は初対面に近い。
人間だろうが精霊だろうがよく知らない相手に誠心誠意尽くしてあげようとは思わないもので、精霊同士にも相性がある以上は北方美人なんてものが通る訳でも無いのである。
「いててて……」
頬に残る痛みにキリヤ王子が気が付いたそこは村の公民館の板張りの床の上だった。顔を上げると火を囲んだ勇者パーティーの皆が談笑しながら食事に舌鼓を打っている。
「なんだこれ……?」
ーググッー
起き上がる為に腕を動かそうとした彼はここで初めて後ろ手に縛られている事に気が付いた。
「くそっ、俺だけ除け者かよ……!」
悪態をつきながらなんとか起き上がろうとモゾモゾしているキリヤ王子に
「目が覚めた様ですね、キリヤ王子」
いつの間にかガルドリックとクレスの二人が彼の側までやってきていた。
「私はこれまで貴方の行動は黙認してきました。ですが、今日のエリスフィーナに対する行動は流石に目に余りました」
ガルドリックは力試しに無理矢理乱入してきた件、相手の力量関係なく手加減無しの攻撃を放った事、あまつさえ村に大損害を与えかねない威力の魔法を考え無しに使おうとした事。
「国王陛下の御命令ですがこれが続いては流石にこれから先一緒にやっていくのは難しくなります」
ガルドリックはリーダーとしてキリヤ王子の行動を諌めに入っている。
「大魔法の勝手な使用は今後控えて下さい。約束して頂けるのならこの話はここまでにしましょう」
ガルドリックはキリヤ王子の側に膝を付き、彼に勝手な行動をしない様に静かに頭を下げている。そんな真摯な態度にキリヤ王子は
「わ〜ったよ! これからは言う通りにしてやるよ!」
不承不承ながらガルドリックの言葉を受け入れる態度を見せた。そんな彼の態度を見たガルドリックもエリスフィーナに目で合図する。
「キリヤ王子、私も手加減出来なくて申し訳ありませんでした」
エリスフィーナもキリヤ王子の側で膝を付いて謝罪の言葉を口にした。
「まぁ、そっちがそう言うなら許してやるよ」
キリヤ王子はかなり上から目線だがエリスフィーナの謝罪を受け入れた。
こうして高原の村での一波乱はようやく幕を閉じたかに見えたのだった。




