大魔法
エリスフィーナがウンディーネに水の壁を準備していた時、ガルドリック達もキリヤ王子に対する魔法防御の準備を急いでいた。
「なんでこんな事になってんのよ」
「キリヤ王子の手綱をきちんと退いてこなかったツケだろうね」
メルティーローズとクレスの二人は愚痴りながらマジックシールドの準備を急ぐ。
「ガルドリック、今光の壁を発動させるから心配しないで」
「キリヤ王子がここまでこじらせてたとはな。もっと強く言って聞かせておくべきだった」
反対側にはマリアリアとガルドリックが位置して、神官が扱える防御魔法ホーリーウォールの発動を急いでいる。
ガルドリックは勇者パーティーのリーダーとして、キリヤ王子の王族という立場ゆえきちんと社会人としての在り方を教育してこなかった事を悔やんでいた。
しかし、ガルドリックは知る由もないがキリヤ王子の傍若無人さの原因は現世からの転生者であるという優越感から来るものなのなのだ。
だから、ガルドリックがどう教育しようとキリヤ王子は変わらなかっただろう事は容易に推察される。
キリヤ王子を宥める方法はただ一つ、それは異世界全体で彼に忖度し接待する以外に道は無かった。
だが、異世界がそうならなかった以上、この結果を迎えるのは当然の結末だったのだろう。
「これが俺の魔力だ。これを使えば魔王だって瞬殺だ、お前達が俺に歯向かうなんて百年はえーんだよ」
今、キリヤ王子が使おうとしている雷撃魔法は強大な魔力を必要とする上に指向性の制御にも魔力が必要とされる。また、その威力ゆえの周囲に与える破壊も甚大であり、熟練者が使わなければ味方に被害を招きかねない諸刃の剣なのだ。
「ウンディーネさん、出来るだけ沢山の水を集めて下さい」
エリスフィーナは召喚したウンディーネに沢山の水を集めさせて水の壁を展開させるつもりでいた。
彼女が両親から教わっていた対雷撃防御は最低でも水による防御壁の展開だったからだ。
しかし、万全を期すならこれにプラス要素を足さなければならないのだが、それはエリスフィーナ一人では無理な話であった。
一般的な雷撃魔法の規模なら水の壁で受け止め電気エネルギーを地面に逃がすで事足りるのだが、キリヤ王子の魔力での雷撃魔法にそれで対処出来るかは分からない。
魔力を溜め終えたキリヤ王子は左右に広げた両腕を正面に合わせ狙いをエリスフィーナに向けると
「さぁ、これで俺の力を分からせてやる! ライトニングエクスプロージョン!」
ーブバアアアアッ!ー
キリヤ王子の両手から放たれた雷の束は一直線にウンディーネの水の壁へと向かっていき
ーバババババッ!ー
雷撃を受けた水の壁は帯電し今にも崩壊しかねない危険な状態となった。
「ウンディーネさん、水を集め続けて下さい!」
エリスフィーナは水の壁の許容量を少しでも上げる事で雷撃魔法を受け止めようとしていた。
しかし、それでは賄いきれない程のキリヤ王子の魔力量に
ーグツグツグツグツ……ー
水の壁の温度が上がり今にも崩壊しそうな臨界点に達しようとしていた。その時
ービュウウウッ!ー
「エリスフィーナ、今回は助けてあげる。今度からは私達にも頼ってね?」
一陣の風が吹き、何者かがエリスフィーナに語り掛けてきた。
「風の精霊……シルフさん?」
精霊魔法は基本的に一度に使役できる精霊は一種類までである。しかしそれは使役する精霊の数であって精霊が自発的に現れ力を行使するのはその限りでは無い。
ーゴオオオオオオオッ!ー
風の精霊シルフは巨大な竜巻を生成し水の壁を飲み込み、竜巻を水竜巻へと変貌させた。
天高く昇った水竜巻は帯電したキリヤ王子の雷撃魔法ライトニングエクスプロージョンのエネルギーを上空の雲へと逃がし分散し始めた。
ーシュウウウゥ……ー
ライトニングエクスプロージョンのエネルギーを上空の雲に逃がし終えた水竜巻は役目を終えると霧散してしまった。
目の前で起きた予想外の結末にキリヤ王子は
「お、俺の魔法が……この、下等現地人がぁっ!」
キリヤ王子は直ぐ様火炎魔法を右手に溜め始めようとした。だが
ーバキイッ!ー
「ぶへえっ!」
横合いから現れたガルドリックがキリヤ王子の横っ面から鉄拳制裁を繰り出していた。
「キリヤ王子、おいたはそこまでです。少し頭を冷やされて下さい」
ガルドリックは殴り倒し地面に転がったきりキリヤ王子を後ろ手に拘束していく。
こうして高原の村でのエリスフィーナの手合わせは一波乱を乗り越えてようやく幕を下ろしたのである。
その日の夜、村の公民館にて勇者パーティーは村の人達が用意してくれた夕食を囲んでいた。
メニューは白パンに串焼きチーズにハム、ホワイトシチューという見事なご馳走ラインナップだった。飲み物として果実酒も用意されていてメルティーローズなどは上機嫌でグラスを傾けている。
「それにしても今日は危なかったわね〜、キリヤ王子もあそこまでする? ふつー」
酒の肴となったのはメンバーであるキリヤ王子の昼間の振る舞いについてだった。
これまでは放任に近い形でパーティー内でも好きにさせていたのだが、いよいよその弊害が無視できなくなってきていたとも言えた。
「これから我々は魔王軍の本拠地に乗り込まなければなりません。これ以上勝手に動かれては……」
賢者クレスもキリヤ王子の性格に懸念を感じている様だ。
「ガルドリック? 彼を王国に帰してしまう訳にはいかないの?」
マリアリアが恐らくパーティーの誰もが考えていた対策を口にする。
「……国王陛下からは王子を守り立てるよう念押しされている。魔王討伐も見分させろとな」
「見分ん〜? こんな奴に現場見せて何になるってんのよ」
ガルドリックの言葉に異を唱えたのはメルティーローズだが、そんな彼女には
「何かを調べさせたいのではなく、国王陛下としては王子を魔王討伐の現場に立ち会わせたいのでしょう。つまり……」
「魔王討伐の箔付けを自分の息子に付けたいって事?」
クレスが国王の真意について説明するが、彼女もそれは薄々解っていたらしい。彼女の視線の先にはガルドリックによって拘束され、今は眠らされているキリヤ王子の姿がある。




