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山越えからの奇襲

「まぁ、確かに正面突破よりはうまくいきそうだけど……」

「兵は脆道なりと言います。的を欺くには味方からと言ったところでしょうか」

 メルティーローズとクレスの二人はガルドリック達の説明を聞いて納得する雰囲気になっている。しかし

「難所抜けてのラスダンなんかどんなクソゲーだよ! 俺は反対だ! お前もそう思うだろ?」

 キリヤ王子は意味不明な単語でまくし立てながらエリスフィーナに同意を迫ってきた。別に多数決ではないのだが、キリヤは味方が欲しいらしい。

「私は……あの、ガルドリックさんの決定に従います」

 判断材料に乏しく新人なエリスフィーナはリーダーの意見に従う言葉を口にする。アテが外れたキリヤ王子は

「山越えなんてハンニバル気取りかよ! 俺は反対だからな!」

 キリヤ王子はそう言うと勢いよく席を立ち


ーバタン!ー


 部屋の扉を力任せに閉めてどこかへ行ってしまった。その光景を呆れた顔で見送ったガルドリックは

「道案内が見つからなくても三日後にはここを発つ。それまでに雪山用の準備をしておいてくれ」

 ガルドリックは残った皆に雪山に登るための準備をする様に皆に指示を出す。

 彼が言うには肌着など肌に触れる衣服は絹製の物に変えておく様に勧めてきた。

「え? アンタそういう趣味だったの……?」

 メルティーローズが反射的に茶化すが

「雪山での木綿素材は死ねるぞ。ブーツや手袋も革製のしっかりした作りの物を用意しておけ」

 ガルドリックは意に介さず、皆に説明を続ける。雪山など未経験なエリスフィーナはただ頷く事しか出来なかった。



 全体会議の日から三日、ガルドリック達は予定通りアトレイス公国の南西に位置する山を越えて直接魔族領の背面に潜入するルートへの旅を始めた。

 メンバー達は皆がガルドリックの説明に従った寒冷地用の衣服に変更していた。キリヤ王子ただ一人を除いて……。

 アトレイス公国は魔族領とも平地は隔てられており、山越えをする魔物等も殆ど居ないため公国内は平和そのものだ。

 高地だからか気候も涼しく牧草地や農耕地が広がる所謂アルプスの様な光景だった。

「この辺りはホントのどかよね〜、魔王が動き出してるなんて信じられないくらい」

「優先順位が低いのでしょう。田舎に攻め込む位なら他の大都市を落とした方が世界を手に入れるには最適だと踏んだのでしょう」

 歩きながらメルティーローズとクレスが雑談している。エリスフィーナの耳にも何も不審な音は聞こえてこない為、のんびりとした時間が流れていた。

 山越えには麓の村に立ち寄って道案内の地元の猟師に魔族領に続くルートを教えて貰う事になっている。

 魔王が現れ世界征服に動き出す前までは使われていた山道らしいので、全くの山中を切り開いて行く訳ではないのは不幸中の幸いだろう。

 目当ての村に辿り着いた一行を待っていたのは普通の村人達であり、白い口髭を生やした村長だった。

「これはこれは遠路遥々お越し下さいまして、さぞお疲れでしょう。明日からの山越えに備えて今日はごゆっくりお休み下さい」

 村長の計らいにより、ガルドリック達勇者パーティー一行は麓の町で束の間の休息を取る事になったのである。



 麓の村からはアトレイス公国の遠景が一望出来る。これまでの旅路でも地味に大変な登りだっただけにゆっくり休めるのは非常にありがたい。

 彼等には公民館の使用が許可されそこで明日まで休む事になった。食事も村の人達が用意してくれるという至れり尽くせりな宿泊である。

「わぁ〜、凄く綺麗〜! 世界ってこんなに広いんですね〜!」

 暇だからとメルティーローズに連れ出されたエリスフィーナは村の物見櫓からこれまで辿ってきた道を含めたアトレイス連邦の全景を見渡していた。

「でも、こんなに高い所からでも海は見えないんですね……」

「そりゃまぁね、アトレイス連邦は内陸国だし山脈に囲まれてるからねぇ」

 少しガッカリなエリスフィーナの横でメルティーローズが悲しい現実を述べた。

「あの、メルティーローズさん? お聞きしたいんですが……」

「あ〜、ゴメンゴメン。そろそろフルネーム呼び止めない? 私はメルでもなんでも良いからさ。短くしましょ?」

 やや食い気味にメルティーローズがエリスフィーナの言葉を遮ってきた。

「すみません。私の名前長いです……よね? 母が私が生まれたの嬉しくて一生懸命に考えたそうなんです」

 エリスフィーナがションボリと長い耳を垂れ下げながら自身の名前について自嘲気味に語る。

「あの、私はエリィで構いませんから……母もそう呼んでますし……」

 メルティーローズにそう語るエリスフィーナだが、

(……お母さん、意外と飽きっぽいのかしら?)

 メルティーローズの、エリスフィーナの母親エルウィンドに対する人物評が密かに急落していた。

「あの……やっぱり駄目ですか?」

「あ、いやいや。そういうんじゃなくて! 良いんじゃない? エリィなんて可愛いじゃない♪」

 メルティーローズが場を取り繕うためエリィの愛称を褒めるとエリスフィーナは顔を赤くして俯いてしまった。その時

「お〜い、二人とも〜!」

 物見櫓の下からガルドリックとクレス、マリアリアの三人が居た。声を掛けてきたのはクレスの様だが、彼は二人を見上げて

「ちょっと降りてきてくれませんか? ガルドリックがエリスフィーナさんの実力を確認しておきたいらしくて」

 そんな事を語り掛けてきた。三人のうち見上げているのはクレスだけでガルドリックとマリアリアの二人は何故か二人から死線を逸らしている。

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