尻拭い
「ま、待って下さい!」
大きな声を上げたのはさっきまでオロオロしていたエリスフィーナだった。
「皆さんのお力添えが無ければホワイトクラウン王国は落とされてしまうんです!」
彼女が話すのはホワイトクラウン王国軍と魔王軍がぶつかった場合、彼我兵力差から九分九厘王国軍が負けるというものだった。
そして王国を落とした魔王軍を止める者は無く、自身の故郷である精霊神が祀られているエルフの里、そしてアトレイス連邦も魔王軍に焼き尽くされるであろう現実の推移であった。
これはガルドリックとエリスフィーナが事前に打ち合わせていた通りの演説内容であり、彼女が口から出任せで述べた訳では無い。
「ですが、貴方方に御協力頂ければ魔王軍を止められる可能性があります」
「王国軍と魔王軍がぶつかっている間に我々勇者パーティーで魔王の拠点に殴り込みをかけて魔王を討ち取ります。貴方方が死力を尽くすのであれば俺達も安心して魔王と戦えます」
エリスフィーナの説明にガルドリックが補足して皆に説明する。
「なるほど……そういう話であれば勝算はありそうだな……」
「それに、この気を逃しては事態が今以上に悪化してしまうかもしれん」
「しかし、その方はハイエルフとお見受けするが……なぜ自分から危険な戦線に赴かれるのか」
キリヤ王子の一喝直後とは打って変わってエルフの長老達は協力姿勢に転換し始めた。
「私は精霊神様から役目を仰せ使っています。それに、そうする事が故郷の皆さんを助ける力になると思いますから」
そんな嘘偽りの無いエリスフィーナの言葉に
「分かった。ハイエルフを矢面に立たせて我等が隠れているではエルフとしても示しが付かん」
「では私達も早く帰って若者達を招集しなければ」
「それならばこうしてはいられませんな。動くのならば少しでも早い方が良い」
エルフの長老達は帰り支度に取り掛かるが、さっきとは雰囲気がまるで違っている。そんな中
「では私も皆の所に帰るとしよう。我々ドワーフは肉弾戦が専門だがよろしいか?」
ドワーフ王も戦力を抽出してくれる様だ。そんな彼にエリスフィーナも
「ありがとうございます。とても助かります」
笑顔でドワーフ王の気持ちに応えるのだった。そして会議が終わりかけても一言も発さない一人のエルフの老人が居た。
「我々は……我々も皆と共に戦って良いのか?」
そう話すのは浅黒い肌をした長い耳のエルフ、所謂ダークエルフとして他種族から蔑まれている呪われた種族だ。
彼等の肌が黒いのは祖先が悪魔と契約を結んだからだと言われている。
「魔王軍が脅威であるなら……お手伝い頂けると助かります」
エリスフィーナはダークエルフの長老にも笑顔で応える。ダークエルフについては両親から聞いた基礎的な話しか知らないが、祖先の借金を未だに背負わされている不憫なエルフ達という意識しか無く、蔑む気持ちなどは全く無かった。
「分かった。我々もホワイトクラウン王国への協力を約束しよう」
こうしてエルフの長老達、ドワーフ王と共に戦闘にはあまり向かないホビット族も協力する為に部族の元へと帰っていく。
「勇者様のおかげで何とか話が纏まりました。各部族の者達が集まり次第、ホワイトクラウン王国に向かわせようと思います」
アトレイス大公がガルドリックにこれからの指針を説明してきた。
「ありがとうございます。そこで一つお願いなのですが……」
ガルドリックはアトレイス大公に何か頼みたい内容があるらしい。
エリスフィーナは当然だがメルティーローズもクレスもキリヤ王子もその件については心当たりが無い様でガルドリックが次に何を話すのかと注目している。神官のマリアリアだけは知っている様子だが……
「アトレイス連邦には山脈沿いに魔族領へ到達出来る山越えルートがあると聞いています。そのルートを知っている者が居たらご紹介願えませんでしょうか?」
ガルドリックの言葉に勇者パーティーのメンバー達からも驚きの声が上がる。
「何よ、それ! そをやな話聞いて無いわよ!」
「今の山越えは時期が遅いでしょう。遭難の危険性が十二分に考えられます」
メルティーローズとクレスからは山越えに批判的な意見が述べられた。
「大体、俺達はアトレイス連邦の協力を取り付けたらホワイトクラウン王国に帰る予定のハズだ! リーダーだからって勝手に決めんじゃねぇよ!」
キリヤ王子なんかはガルドリックに真っ向から歯向かっている。さっきの会議での失点を挽回したいかの如く強気に出ている。そんな彼等に対するガルドリックの回答は
「これはホワイトクラウン国王からの命令だ。アトレイス連邦の全面協力を取り付けたなら、アトレイス連邦から魔族領への山岳ルートを使用して魔王討伐に向かえ……とな」
「元々、アトレイス連邦の返答次第で私達の予定は変わる段取りでした。もし、全面協力が得られなければ私達も王国軍の一員として魔王軍と戦う事になっていました」
ガルドリックの言葉にマリアリアが付け加える。どうも二人は最初から山越えからの魔王討伐を覚悟していた様だ。




