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冒険者としての始まり

 木陰で休んでいるエリスフィーナとメルティーローズの二人、草原を吹く風は草の香りを運んできてなんとも心地良い。

 状況が許すなら湖で水浴びといきたいところだが……街から近い上に準備も何も無い為、それは諦めるしか無かった。

「…………」

 エリスフィーナは初めて手にした冒険者証を見て物思いに耽っている。そんな彼女に

「これ食べる?」

 メルティーローズが紙袋から肉の串焼きを取り出しエリスフィーナに差し出してきた。

 森の民であるエルフ達も一応は雑食である。特にエリスフィーナの両親は人間社会と馴染みが深いので彼女の食生活も人間のそれと大差は無かった。

「ねぇ、あなたの精霊さんって何が出来るの?」

 肉の串焼きを摘みながらメルティーローズが酒の肴に精霊魔法について尋ねてきた。

「水の精霊ウンディーネさんはですね、水を集められますし、こちらから魔力を込めれば氷にしたり身体を癒したり出来ます」

 エリスフィーナは特に仲良くしている水の精霊ウンディーネについて話し始める。精霊魔法は一度に一体が原則なので並列に複数使役したりは不可能なのだ。

 そして他に召喚出来る風の精霊シルフや光の精霊ヴィル・オー・ウィスプの話へと続く。

「後は、あまりウンディーネさんやシルフさん達が良い顔しないんですけど……」

 その気さえあれば火の精霊サラマンダーや土の精霊ノームを呼び出す事も出来ると付け加えた。

 しかし、ギャルゲーでは無いにしろ精霊達にも相性があり、対属性なウンディーネとサラマンダー、シルフとノームでは片方を頻繁に呼び出してたりすると片方が拗ねてしまうのだ。

「それじゃ、あなたウンディーネばかり呼び出してるから……」

「サラマンダーさんには呼び出してもそっぽを向かれてしまうでしょうね……」

 少ししょんぼりしながらメルティーローズの指摘にエリスフィーナが答える。長い耳が垂れ下がり板挟みな苦労が垣間見えるが……。

「でも、八方美人も良くないと母からは聞いています。それにきちんと誠意で接すれば精霊さん達も分かってくれると信じてますから……」

 と、エリスフィーナは理想論で締めくくったが実際問題、彼女が呼び出せて戦力となるのは水の精霊、風の精霊、光の精霊だろう。

 また彼女自身剣技も蹴り技も扱えて、まだ見た事は無いが弓矢にも腕に覚えはあるのだろう。

 これに聴覚の鋭敏さも加わるのだからかなりのオールラウンダーと言う事になる。

 彼女に必要なのは実戦経験と頼れる仲間なんだろうな……とメルティーローズはエリスフィーナを眺めながら考えていた。

「ねぇ、みんなとやってけそ?」

 それなりに長い付き合いで死線を共にしてきたメルティーローズ達と違い、後から冒険者でも無かったエリスフィーナが加入するのは、国王からの命令とは言えそのハードルはかなり高い。

 今回のアトレイス公国訪問の目的が仮に首尾よく終わったとしてもエリスフィーナがそれでお役御免になるはずは無く、魔王に対するエルフの旗頭として最後まで前線に立ち続けなければならないハズだ。

 余裕があるうちならまだ良いが、魔王と戦う時にはきっと皆は必死になり彼女に気を回す余裕は無くなるだろう。

「皆さんについて行ける様に頑張ります」

 この健気なハイエルフにはもう一つ伝えておかなければならない事がある。

「あと……キリヤ王子なんだけどね。ベテラン面してるけどパーティーに入ったの割と最近なのよ」

 メルティーローズが話しだしたのはキリヤ王子が勇者パーティーの一員として編入されるに至った裏事情だった。

「キリヤ王子をパーティーに入れたのは国王に彼を勇者として祭り上げたい思惑があるんでしょうね。なんなら彼をリーダーにさせたい位には」

 しかし、彼がリーダーになるには能力があるにしろあまりに頼りなかった。それは最近加入したエリスフィーナから見ても明らかだった。

「でも、ガルドリックさんの方がパーティーのリーダーとして相応しいですよね……」

「そこなのよ。キリヤはガルドリックから勇者パーティーの座を奪おうとしてるの。だから意見が二人で分かれたりなんかしたらガルドリックの方の言う事聞くのよ?」

 エリスフィーナの言葉に食い気味で念押ししてきたメルティーローズの言葉には迫力と説得力が感じられた。

 もしかしたら彼女はこれまでにもキリヤ王子に煮え湯を飲まされてきたのかもしれない。

「はい。ガルドリックさんはなんだか……安心感ありますから……」

 やや照れた様に答えるエリスフィーナの微妙な変化を見逃さなかったメルティーローズは

「言っとくけどアレは恋愛対象にならないからね? 無骨で面白みの無い朴念仁なんだから! つーか、うちのパーティー誰も居ないのよ! 大男に腹黒メガネに馬鹿王子なんだから!」

 メルティーローズの勇者パーティーの男性評は中々に辛辣だった。やはり年頃の男女が集まるだけにそういった色恋に感心がある様だが

「ねぇねぇ、これからも合間見てこんな風にお話しない?」

 と、メルティーローズから女子トークの相手にエリスフィーナがロックオンされてしまったらしい。

「あ、あの……マリアリアさんは……」

エリスフィーナはもう一人の女性メンバーである神官のマリアリアを挙げるが

「ダメダメ、あれも大男と似たり寄ったりなんだから! 話してて面白くないもの!」

 割とバッサリ切られてしまった。確かに神官の彼女は噂話とかは忌避してもおかしくはない。

「は、はぁ……それじゃ機会がありましたら、またその時に……」

 苦笑いでお茶を濁すに留めるエリスフィーナであった。

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