理想とのギャップ
「ウンディーネさん、水をありったけ集めて下さい! 今すぐに!」
エリスフィーナは呼び出したウンディーネにすぐに指示を出した。
ーポコンポコン……ー
ウンディーネは頭上に両手を掲げるとそこに水の球体を生み出し周囲からも水を集め始めた。後ろでは火球、前では水球が生成されている今の状況にスキンヘッド男は
「な、何だコレ? 何がどうなってんだ?」
状況に置いていかれて前後をキョロキョロと見比べている。
そんな彼にエリスフィーナは
「危ないから下がって下さい! とにかく早く後ろに下がって……!」
自分の後ろに下がる様に身振り手振りでスキンヘッド男に伝える。
「これでも食らいやがれ! ファイアーボール!」
ーゴオオオオッ!ー
キリヤ王子は魔法が撃てるようになるなりゴロツキ達の様子も確認せずにブッ放してきた。
「ウンディーネさん、あの火球に水球をぶつけて下さい!」
エリスフィーナはウンディーネに集めた水球をキリヤ王子の放った火球にぶつける様指示を出した。
ーズオオオッ!ー
火球に比べて水球はやや小さいが果たしてどれほど相殺できるか……。ウンディーネが水球を放つと同時に
「皆、伏せて! マジックシールド!」
ーキュイイイィッ!ー
メルティーローズの生み出した半球形のドーム状の緑色の防壁が辺りの人や建物、屋台などを覆っていく。そして
ーバシュウウウゥゥ……ー
火球と水球がぶつかり辺りが白い水蒸気で充満していく。
ーボンッ!ー
相殺しきれなかった火球の残り火が破裂し小さな爆発が発生したに過ぎなかった。
「はぁ……良かった」
とりあえず辺りに被害らしいものは何もなく
「な、なんだアイツ。街中でこんな威力の魔法使うなんて正気かよ」
「マジありえねー」
「何考えてんだ、アイツ……」
「た、助かった……」
「死ぬかと思ったぜ。ふぅ……」
ゴロツキ達は、一歩間違えれば重症が、死んでいたかもしれない紙一重な状況に胸をなで下ろしていた。
「エルフの姉ちゃん、すまなかった! 俺達、お前を奴隷商に売ろうとしてたんだ。すまん!」
地面に伏せながらスキンヘッド髭面大男がエリスフィーナに謝ってきた。
彼等が人さらいだとはおもっていたが、まさか自分達の非を認めて謝ってくるとは流石に夢にも思わなかった。
「ちょっとぉ! アンタ少しは考えなさいよ! 街中で使っていい威力じゃ無いでしょ!」
キリヤ王子のファイアーボール対応が一段落したところでメルティーローズが立ち上がりながらキリヤ王子にクレームをつける。
「威力の加減が難しいんだよ。大体、あの位の火球フツーだろ」
メルティーローズに詰められてもキリヤ王子は肩をすくめるだけでどう見ても真面目に受け取ってない。
頭を掻きながらやれやれみたいな仕草をしているキリヤ王子を他所にメルティーローズは
「エリスフィーナ、ありがと! あなたのおかげで大分助かっちゃったわ!」
キリヤの火球の威力をほとんど相殺したエリスフィーナを労ってきた。
「あ、あの……この辺りに水辺ってありますか? ウンディーネさんに無理をさせてしまいましたから送っていきたくて……」
精霊魔法については見識が無いメルティーローズは言われるがままキョロキョロとそれらしいものが無いか探し始めた。そこに
「水辺なら街外れに湖がある。あっちだ」
髭面スキンヘッド大男が湖の場所をおしえてくれた。無法者には違いないのだろうが、そこまで悪人ではないのかもしれない。
「あ、ありがとうございます。それじゃ私達はこれで」
エリスフィーナはスキンヘッド男に頭を下げてメルティーローズと一緒にその場から去っていく。
ゴロツキ達も用事は終わったと酒場にしけ込んでいく。そんな中、一人ポツンと取り残されたキリヤ王子は
(クソッ、なんなんだよ! 普通はここで原住民共は俺の魔法の威力に驚いて褒め称えるんじゃないのかよ! あの二人はどこかに行っちまうしゴロツキは撮り逃すし……くそ女神!)
現世の記憶を保持しているキリヤ王子だが、理想としていた異世界での生活と現実のズレに憤りを感じていた。
本来なら自分が勇者パーティーのリーダーであるはずなのに、実際は現地民のガルドリックが幅を利かせ、女性陣はまるで自分に見向きもしない。
新人のエルフならモノに出来るかと思っていたが、どうも彼女も自分に靡く様子が無い。
「チートがあればうまくいくんじゃないのかよ、女神めテキトーふかしやがって……」
彼は自身の人生がうまくいかない理由を外部に求めながら街を彷徨うのだった。
街に程近い場所にあった湖は遠くに冠雪のある山々の景色と相まって大自然の雄大さを感じさせた。
「ウンディーネさん、ありがとうございました。また、よろしくお願いしますね」
エリスフィーナがあたまをさげると水色の人魚の様な姿をしたウンディーネは湖に飛び込んでそのまま霧散していった。
「精霊魔法ってちゃんと送っていってあげないとならないなんて大変なのね〜」
メルティーローズがエリスフィーナの行動を見て感嘆した様な自分には真似できないと言った感心する様な感想を述べた。
「母が教えてくれたんです。精霊とはきちんと心を通わせて、感謝を行動で示しなさいって……」
「ま、確かに用事が済んだらポイなんての最悪だものね〜。ねぇ、折角だから木陰で休んでいかない?」
メルティーローズはすっかり観光気分な様でエリスフィーナに木陰での小休止を提案してきた。
「わかりました」
断る理由も無いエリスフィーナも彼女の提案を素直に受け入れるのだった。




