学院の放課後
エリスフィーナ達三人が保健室から教室に戻った時、ミリア先生とイザベラ達の姿はどこにもなかった。
周囲の女生徒達の話によると自習が引き続き継続されているそうで、ミリア先生とイザベラ達が何処で何をしているのか分からない様だ。
自習時間とは言っても真面目に自習している者はおらず、誰もが親しい者同士で世間話をしている様な喧騒だった。
席が前後同士のガートルードとエリスフィーナはそれぞれ席に着いて教科書を眺めていたが、いつの間にかそこにアリシアが顔を出すという形になっていた。
そういった光景が次第に当たり前となり数週間が経ったある日のお昼休み……
「今日の食堂の献立聞いた? AランチとBランチの他にケバブってのが出るらしいわよ?」
三人で教室のいつもの場所で話しているエリスフィーナ達の中でアリシアが今日の食堂での献立について耳寄りな情報みたいなノリで話始めた。
ここ魔法学院では共用棟にある食堂で格安で食事後摂れる様になっている。また、普段の教室では男女が明確に隔てられている生徒達にとって異性と交流出来る数少ない機会でもあった。
ちなみにAランチは肉料理と野菜のポトフ、白パンのセットでありBランチが魚料理と野菜のポトフ、白パンの組み合わせが基本の定番メニューとなっている。
そして、現世の学食や社員食堂でのカレーやラーメンに当たるメニューが本日のケバブという訳である。しかし……
「ケバブって……どういうお料理なのでしょう?」
世間知らずなガートルードはエリスフィーナと顔を見合わせるがエリスフィーナも別の意味で世間知らずな為同じ様に首を傾げる事しか出来ない。そんな不思議そうにしている二人に
「ケバブは西の大陸から伝えられたサンドイッチの様な軽食です。そちらにはポトフも付いている様ですからお昼ご飯としてもバッチリなんですよ?」
アリシアが自信たっぷりに語るので今日の昼食は三人で学食のケバブという結論になった。
魔法学院の一学期は午前中に世を大元素魔法理論についての座学が行われ、午後から実習という流れが多い。もっとも他のクラスとの兼ね合いもあるので必ずしもそうなるものてもないが……
「ケバブはお肉とお野菜がしっかり摂れるお食事なんですよ〜」
ニコニコと今日のオススメ料理を語るアリシアだが、彼女の実家は大きな商家を営んでいるらしく、新しい商材には目ざとい様で敏感にアンテナを張り巡らせてい。るのだろう。
まぁ、パンの様なモノに肉と野菜が挟まれているいう事なので口に合わないモノが出てくる事もないだろうと思いつつ、未知の料理にエリスフィーナもガートルードも興味半分残りは戦々恐々と言ったところか。
学食のある食堂も男女入り乱れる共用棟にあるので、一応ガートルード王女の護衛であるエリスフィーナは周りの喧騒にも気を配らなければならない。
大勢の学生が食堂にてそれぞれのメニューの列に並んでいる中、エリスフィーナ達は予定通りケバブ列の最後尾に付いた。
流石にいつもと違うメニューというだけあって、他のメニューより人列が多かった。しかし、食堂の調理のオバちゃん方の手際が良いのか、並んでいる人列は次々とはげていく。
「ケバブってどんな味がするのかしらね?」
列に並んでいる間にガートルードが件の料理について疑問点を口にしていた。
エリスフィーナ達三人の中でそういった話題に明るいであろうアリシアだが
「すっごく美味しいから期待してて♪」
具体的な事は口にせずにただ学食のオバちゃん達へ悪意無くプレッシャーを掛ける様な文言を繰り返していた。
ケバブを受け取って食堂の席へと去っていく生徒が手にしているトレーにはお皿にケバブ二つとポトフの皿が載せられているのが見える。
「あれがそうなのね」
ピタパンにはさまれたソースたっぷりな具材を見たガートルードは未知の食べ物に興味津々だ。
「はい。ケバブセット出来上がり〜」
食堂のオバちゃんが受け取り台に出来上がったケバブとポトフの皿を置き、それを代金と引き換えに生徒がトレーに載せて完了という流れ作業がようやくガートルード達に順番が回ってきた。
食堂のメニューは料理の種類に関わらず一食銅貨五枚となっている。某うどん店を彷彿とさせる商品の精算方法だが、こういった流れ作業がスムーズに進むかどうかは代金の受け渡しがすんなり出来るかに掛かっている。自分の順番が回ってきてから慌てて財布を出すのでは遅いのだ。あまつさえそこからポイントカードを探したりバッグを漁ったりなどはスムーズな人の流れを妨げる愚行であるが、異世界においてもそういった人種は少なからず存在する。
「あれ? あれ? お金無い! 先輩〜!」
「あ〜、またかよ! とりあえず俺出してやっから後で払えよ!」
ガートルード達の前に居た男子学生の一人が財布を忘れたらしく、友人が代金を立て替えるという一幕が披露されていた。




