小春日和の学院生活
朝食を終えたエリスフィーナは皆と別れて魔法学院へと登校していた。今日もいつも通りの正門前でガートルード王女との待ち合わせである。
(…………)
エリスフィーナは入学以来少し引っ掛かっている事があった。ガートルード王女と姉のフィリア王女が別々の馬車で登校してくる事である。
見た目、一人乗りには見えないし二人で一緒に来てはどうかと考えた事はあるのだが……。
王家にも何か事情があるのだろうとあまり深く考えない様にはしていたのだが、やはり気にならないと言ったら嘘になる。
何故なら、馬車から降り立ったフィリア王女はガートルード王女を待つ事すら無く一人で校舎に行ってしまう様になっていたからだ。
兄弟姉妹の居ないエリスフィーナには二人の距離感がまるで解らなかった。そんな彼女の前に
ーガラガラガラガラー
いつも通りにやってきた王家の馬車二台、フィリア王女とガートルード王女のものである。
ーガチャー
「いってらっしゃいませ、フィリア様」
先の馬車メイドに続いて降りてきたフィリア王女が一人で正門から校舎の玄関へと歩いていく。
ーガチャー
「おはよう、エリスフィーナさん」
フィリア王女を見送っているエリスフィーナに馬車から降りてきたガートルード王女が挨拶してきた。
「お、おはようございます。ガートルードさん」
振り返って頭を下げるエリスフィーナを見てガートルード王女は
「あ、あのエリスフィーナさん? そんなに畏まらないで……。もっと気楽にして貰っていいのよ?」
苦笑気味にエリスフィーナを窘める。とは言われても、エリスフィーナはガルドリックから
「相手は王女様だからな。君だから大丈夫だろうが……くれぐれも粗相は無いように気を付けてくれ」
と、言い含められているのだ。かと言って、ガルドリックに真面目なエリスフィーナなだけに『はい。わかりました』と、ガートルード相手にすんなりざっくばらんにタメ口になるという事は無い。
「あ、あはは……ど、努力します。それじゃ、いぎましょう」
エリスフィーナは笑って取り繕いながらガートルード王女を学院の校舎へと誘うのだった。
いつもの教室の前後で席についているエリスフィーナとガートルードだが、流石に入学から一週間ともなると
「エリスフィーナさん、昨日の宿題……どうだった?」
「あ、はい。魔力の集中と結集化ですよね? ま、まぁ……精霊魔法に似ている部分がありましたからなんとか……」
蛇形内容に関する世間話等を普通に交わせる位にはなっていた。やはり共通の話題があるというのは話しやすいという事があるのだろう。
「先生が全ての魔法の基礎って仰ってるから私も頑張らなくちゃ」
「そうですね。私の友達の人も魔法の上達については地道に頑張る様にって言ってました」
王族だからと言えど魔法に関して他者より先天的に優れているとは限らない。
だが、国民の基盤となり敬われる立場になる王女が背負っている期待と重圧はエリスフィーナには想像も出来ないものだ。
「今日は確か練習場で的当てでしたよね。練習場って初めてだから楽しみです」
エリスフィーナが窓の外に見える校庭の一角を指しながらガートルードに話し掛けていると
「あら〜? 落ち目の王女様と亜人のセットが仲良くしてるじゃない?」
一応のクラスメイトであるピンク髪の少女が何人かの女生徒達を引き連れてガートルードとエリスフィーナに話し掛けてきた。
「イザベラ……私達に何かご用かしら? それとここでは王女様は止めて貰えて?」
ガートルードは話し掛けてきたピンク髪が誰なのか分かっている様だが、ほぼ初対面なエリスフィーナは二人を見比べながら成り行きを見守る事しか出来そうに無かった。
「貴女の家族には次の王位継承権者が居ないんだから、良い気になっていられるのも今のうちよ。いずれは私のパパがこの国のトップになるんだから」
イザベラの話が右から左なエリスフィーナと異なりガートルードはやや不安そうな表情を覗かせている。そんな彼女に追い打ちを掛ける様に
「そーよそーよ! いずれはイザベラ様の天下になるんだから! あんたは今のうちから大人しくしとく事ね!」
太めの女生徒がイザベラ上げガートルード下げの意見で囃し立ててきた。さらに
「周りをご覧なさいよ。あなたの近くには誰も居ないじゃない。あ、亜人くらいは小間使いに出来るのかし、ら?」
鶏ガラ並みにガリガリな骨皮女生徒が煽りを入れてきた。
「エリスフィーナさんは小間使いじゃありません! 訂正なさい!」
自分のみならずエリスフィーナを馬鹿にしてきた女生徒達が流石に許せなくなったのかガートルードが声を荒げたところで
ーガララ……ー
「お前ら〜、席に着け〜。楽しい授業だそ〜!」
担任のミリア先生が教室に入ってきた。
「貴女、よく覚えときなさいよ。真の王女に相応しいのはこの私だって事を」
イザベラはそう吐き捨てると取り巻きの女生徒達と共に慌ただしく自分の席へと戻っていくのだった。
「エリスフィーナさん、ビックリしたでしょう? あまり気にしないでね?」
ガートルードが後ろのエリスフィーナにヒソヒソ声で謝罪してきた。
「は、はぁ……私は大丈夫です」
イマイチ状況が分からないエリスフィーナはキョトン顔のまま、ガートルードに返事をするのだった。




