クランの朝の光景
エリスフィーナが魔法学院に通学する様になって一週間程が過ぎていた。
入学式に娘の晴れ姿を見に田舎から上京してきたオノボリさんな馬鹿親二人は、先日まで滞在した後、娘をよろしくと皆に言い残してエルフの里へと帰っていった。
そんな両親が近くに居るという落ち着かない毎日を過ごしていたエリスフィーナもようやく普段の日常を取り戻し始めていた。
朝は皆で食事を摂り、皆がそれぞれの一日に備える。そんな朝食の席でガルドリックのクランに関して、若いヴァイスから
「何かカッコいい名前が欲しいよな〜。今の俺達、中央区の新設クランなんて呼ばれてるしなぁ」
という問題提起が成されていた。若いだけあってヴァイスとしてはキャッチーなカッコいい通り名が欲しいらしい。
「クランの名前なんて考えてなかったな。そうだな……新人教育訓練クランとかどうだ?」
ガルドリックは名前に無弾着らしく、運用方針そのままな名前を提案する。
「そんなの駄目でしょ。まったく……あんたは昔っから飾りっ気無いんだから〜」
家主であるガルドリックにズバズバ意見が言えるメルティローズがヴァイス達の意見を代弁する。そんな彼女に対し
「では、貴女には良いプランがあると言うのですか?」
皆の話を黙って聞いていたクレスがメルティローズに問いかける。すると
「天才美少女大魔導士メルティローズと他大勢クラン……どう?」
メルティローズは迷いなく渾身のプランを口にしたがヴァイス達は明らかに嫌そうな苦笑いで取り繕っている。そこに
「そんなんじゃ駄目よ。いい? 闇のダークエルフシェーラ様と漆黒の闇軍団」
今度はダークエルフのシェーラが趣味丸出しのネーミングを恥ずかしげもなく出してきた。
「ちょっと、そんなダサいの駄目に決まってるでしょ! 闇とか黒とかどんだけ被らせてんのよ!」
メルティローズがシェーラの意見をダメ出しするが、当人の意見も五十歩百歩ではある。
「なんですってぇ〜! ケツの青い小娘の分際でぇ〜! 高貴なエルフ様のネーミング舐めるんじゃないわよ!」
メルティローズとシェーラの二人はこの一週間の仕事の間に打ち解ける事が出来ていた様だった。互いのやり取りに遠慮が無い。
「今日は俺も冒険者ギルドに顔を出す。クレス、お前はここを頼む」
食事を終えたガルドリックはクレスに後を任せて自分は冒険者ギルドに向かうつもりな様だ。
家を購入して商業ギルドに顔を出していた事が功を奏してかガルドリックのクランにも家の管理を行うメイドが増えていた。
「ご主人様、家の事はお任せ下さい。それではお支度をお手伝いさせて頂きます。どうぞ、こちらへ」
先任のメイドとなったイリス・フロベールが席を立ったガルドリックに対し貴族の主人に行う様な仕草で彼を自室へ案内していく。
「な、なぁ……ご主人様ってのは止めてくれないか? 俺はそんなんじゃ無い……」
まるで貴族の主人に接する様なイリスの態度にガルドリックは気後れしている。
「お言葉ですが、こちらの地区は名だたる貴族や商家の邸宅が並ぶ住宅街です。ガルドリック様にもこの辺りにはそういった世間体が存在する事をご理解頂きたく存じます。というのもですね……」
ガルドリックの言葉にイリスからは絨毯爆撃の様な反論が帰ってきた。どうも彼女は貴族の屋敷でのメイド経験がある様で、新しく入ったメイド達の教育から邸宅内の運用まで一手に引き受けてしまっていた。
それでも最終的な判断はガルドリックに覗う辺り、自身の領分はきっちりと弁えている。
しかし、完全に尻に敷かれている様にしか見えないガルドリックの姿は普段の完全無欠な冒険者な彼のイメージからは随分と離れており
「フフッ……」
そのギャップにエリスフィーナは思わず笑みをこぼしてしまった。
「ごちそうさ〜ん! それじゃ今日も仕事に行こうぜ!」
朝食を終えたヴァイスが元気よく立ち上がり、エイミー達旧知の女の子達三人に声を掛ける。すると
「あんた、早いわよ! 少しは周りをみてかあげなさいよ? まだ食事の途中じゃない!」
「そうよ。それにガルドリックだってまだなんだから急いだって仕方ないでしょ!」
メルティローズとシェーラの二人から急ぎすぎとのクレームが入れられた。
さ、に食事中なエイミー達三人組は旧知のヴァイスよりメルティローズやシェーラの肩を持つ様に
「そーよ。朝ご飯位ゆっくり食べさせてよ〜!」
「女神様は食事は落ち着いてきちんと摂る様にと仰っておられます」
「それに女の子には食事だけじゃなくて色々と準備があるんだからね。アンタと一緒にしないでよ」
一斉口撃で返されてしまっていた。男女比が五対一であり、それがそのまま彼我兵力差となる今のヴァイス達パーティーでは、リーダーと言えどヴァイスは肩身の狭い立場でしか無い。
悲しいかなハーレムパーティーの実態は非情である。
「なぁ、クレスさんは今日も留守番なのか?」
味方が居ないヴァイスは藁にも縋る思いで食事中のメガネに声を掛ける。すると
「私はこの家の管理がありますから。貴方方が元気に仕事をこなせる様にする後方支援と言ったところですよ」
立ち上げたばかりのクランなだけに、収入と支出の管理だけでは無くメイド達の仕事がきちんと回っているか、防犯についても現状で不備はないか。
これから長くクランを続けていくには出だしにきちんと確認しておかなければならない事が山の様にあるのだろう。




