堕ちる聖女
エリスフィーナがローランド王立魔法学院に通学を始めた頃、晩餐会を終えてホワイトクラウン王国に帰還の途に就いていたアレックス王子一行はようやくホワイトクラウン王国の王城に辿り着いていた。
「アレックス王子、お帰りなさいませ」
出迎えの執事には目もくれないアレックス王子は
「聖女は何処にいる?先に帰ったはずだ」
聖女マリアリアの行方を確認する。すると
「私をお探しですか? アレックス王子」
何食わぬ顔をした聖女マリアリアがアレックス王子の前に現れた。
「丁度いい。ついてこい」
アレックス王子はそう言うとマリアリアを先導して王城へと入っていくのだった。
アレックス王子がやってきたのは王城の地下牢。本来ならガルドリックを誘拐し、あわよくばエリスフィーナも連れてくる予定となっていた場所だ。
「マリアリア、今回の失態どう責任を取ってくれるんだ?」
地下最奥の牢屋までやってきたアレックス王子はマリアリアに問い質す。
「今回はうまくいっていたじゃない。あと少しだったのに邪魔が入ったから……」
「失敗は失敗だ。俺をあんな田舎者まで連れ出して最後には晩餐会でボッチにしやがって! これじゃいい笑いモンだ!」
アレックス王子はマリアリアが消えた後でガートルード王女からダンスの誘いを断られた辺りの出来事を逆恨みしている様だ。
「そんなの知らないわよ。貴方の甲斐性の問題じゃなくて?」
マリアリアはアレックス王子に対し、やや挑発的な態度を取る。そんな彼女の態度にアレックス王子は
「この俺を舐めるなよ! お前なんかただの神官のクセに!」
マリアリアに掴みかかるが彼女はサッと身を翻し
「私に手出しするつもり? 私は女神様の神託を受けているのよ?」
「黙れ! 神官風情が!」
マリアリアにさらに手を伸ばすアレックス王子に対し、マリアリアは
「ホーリーウォール!」
光の壁の魔法でアレックス王子が近付けない様にするが
ーガシッ!ー
「なっ……! 光の壁が発動しない……?」
光の壁の展開に失敗したマリアリアの腕はアレックス王子に掴まれてしまった。そして
「役立たずの聖女様め、俺がたっぶり教育してやるよ!」
「止めなさい! いや、駄目っ!」
マリアリアは助けを求めて叫ぶが彼女の元に救いが訪れる事は無かった。
その日の深夜、散々マリアリアを弄んだアレックス王子はスッキリとした顔で立ち上がったその隣には白い法衣を無造作に破かれたマリアリアが虚ろな目で横たわっていた。
「まぁまぁ楽しめたぜ。まさかお前が処女だったとはな。流石は清楚な聖女様だぜ。ハハハッ!」
満足そうに笑うアレックス王子の足元でマリアリアにはこの世界への絶望と自分を見捨て助けにこなかったガルドリックへの恨み、そして全ての原因となったエリスフィーナへの憎悪が膨らんでいった。
(ガルドリック……どうして助けに来てくれないの……? あのハイエルフさえ……あの小娘さえ居なければ……!)
激しい憎悪がマリアリアの中で湧き上がった時
ーシュウウウゥゥ……ー
牢屋の中に突如黒い渦が発生し次第に大きくなり始めた。それとともにマリアリアの白い肌が次第に浅黒く、また頭には黒いツノの様なモノが生え始めた。
「さて、俺は部屋に戻らせてもらうぜ。この部屋はきちんと片付けておけよ、聖女様?」
アレックス王子はまだマリアリアや部屋の異変には気付いていない。そんな彼が返事の無いマリアリアを一瞥した次の瞬間
ーズボッ!ー
「かあっ! な、なんだ……!」
突然胸に走った強烈な熱さと激痛、口の中に湧き上がってくるドロッとした液体の感覚にアレックス王子の顔が歪んだ。
彼の眼の前には肌の色がすっかり浅黒くなった半裸のマリアリアの姿があった。そして、彼女の腕はいとも簡単に自分の胸に突き立てられていた。
「な、なん……がふっ!」
自分の身に何が起きているのか理解出来ないアレックス王子の口からは血が止めどなく溢れ出てくる。
「アレックス王子、私は天啓を受けたの。この世界を魔界の悪魔様に献上する様にって」
マリアリアは抑揚のない冷たい声でアレックス王子に語り掛ける。
「貴方はどうする? 私に従うなら私の下僕にしてあげるけど?」
マリアリアは言葉とは裏腹にアレックス王子の胸に突き立てた腕をさらに奥へ奥へと突いていく。
「し、死にたく……ない……助けてくれ」
アレックス王子が必死に命乞いの言葉を絞り出したその時
ーズブウッ!ー
「ぎゃああああっ!」
マリアリアの腕はアレックス王子の胸を貫通し彼の身体には風穴が空いてしまっていた。
「残念。何も聞こえなかったわ」
ードシャアッ!ー
マリアリアが腕を下げてアレックス王子を解放すると、彼は牢屋の床に糸の切れた人形の様に力無く崩れ落ちた。
ーシュウウウゥゥー
マリアリアの体を黒い靄が覆い、それが消えた時には彼女の姿は牢屋の何処にも無くなっていたのだった。




